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再生医療による網膜治療|方法・メリット・デメリットを解説

再生医療による網膜治療

再生医療と聞くとどのようなものが思い浮かぶでしょうか?

iPS細胞という名前は聞いたことがあるけど、iPS細胞とはどのようなものなのか・治療は何をするのかということは分からない人も多いでしょう。

再生医療である幹細胞治療は病気の治療から美容目的までさまざまな理由で使われています。人間の細胞が持つ再生力を利用して傷ついた組織や失われた体の機能を取り戻すために使用されます。

この記事では、再生医療による網膜治療について、方法・メリット・デメリットを治療例を含めて解説します。

再生医療による網膜治療例

再生医療による網膜治療例

眼科における網膜の治療に再生医療を使った治療では、iPS細胞やES細胞(胚性幹細胞)といった幹細胞を使用して低下した組織の回復を目指します。

ここでは、実際の再生医療による網膜治療例について解説します。

iPS-RPE 細胞を使用した加齢⻩斑変性治療

iPS-RPE 細胞を用いた加齢⻩斑変性治療において、まず加齢黄斑変性症の患者さん自身の皮膚を採取し、患者由来iPS細胞を作成します。

2014年9月に既存の治療では十分な効果が得られていない加齢黄斑変性症の患者さん1人に、iPS-RPE 細胞シートの移植を行いました。

その結果、1年後に評価したときには腫瘍形成や拒絶反応は起こらず、新生血管の再発も見られませんでした。また、視力は移植前の状態を維持しており安全性に問題はないことが確認できます。

さらにその後1年半経過したときにも腫瘍形成や拒絶反応は見られませんでした。

この治療を受けた患者さんは1名でしたが、この結果からiPS細胞由来網膜色素上皮細胞を用いた細胞治療が安全に実施できることが分かります。

以前は患者由来のiPSをRPEシートに分化させたものが用いられていましたが、他人由来の細胞懸濁液、紐状に凝集したRPE細胞などの臨床研究が続けられています。

ES細胞を利用した再生医療の実用化

ES細胞は、胚性幹細胞といわれるものです。ES細胞を作るためには、ある程度分化した受精卵が必要で、これに分化を止める物質を投与してフィーダー細胞という細胞と一緒に培養することを繰り返します。

この操作によって未分化状態の胚細胞を無制限に増殖させることができるようになるのです。これにより形成されるのがES細胞株です。この中から胚様体という細胞の塊を取り出します。

胚様体に処理をすることで血球・筋肉・神経などいろいろな細胞に分化誘導することができるようになります。ES細胞を用いると、さまざまな組織に分化誘導することが可能なため、ドナーがいなくても臓器移植が可能です。

しかし、ES細胞の実用化には解決しなければならない問題がいくつかあります。これを以下に列挙します。

  • 細胞の安全性
  • 免疫拒絶反応
  • 受精卵を用いる倫理上の問題

これらの問題を解決しないことには実用化は困難です。1つずつどのような問題があるか解説します。

まず、細胞の安全性についてです。ES細胞は細胞がどんどん増殖する性質を持っていますが、これはがん細胞と同じ性質です。分化後は無制限に増殖しないとされていますが、腫瘍を形成する可能性は捨てきれません。

次に、免疫拒絶反応についてですが、移植するES細胞と患者さんの間での拒絶反応のことです。通常移植をする際に患者さんとドナーのHLA型を合わせることが困難ですが、同じことがES細胞でも起こります。

最後に受精卵の使用に伴う倫理的問題があります。人間の始まりである受精卵を犠牲にすることになるので、キリスト教保守派を中心とした社会勢力から激しい反対がありました。

日本では欧米ほどの反発はなかったものの、政府が倫理指針を設けて研究にも慎重な姿勢が取られていて、承認も見送られています。

ES細胞も網膜細胞に関わる研究には、2011年のマウスでの研究でES細胞から人工網膜組織の3次元形成に成功しています。

従来の再生医療による網膜治療の流れ・方法

従来の再生医療による網膜治療の流れ・方法

再生医療による網膜治療は実際にはどのような手順で行われるのでしょうか。自分や家族など身近な人が受けるかもしれないときには気になることです。

以前は患者由来のiPSをRPEシートに分化させたものが用いられていましたが、他人由来の細胞が用いられるようになっています。また、紐状に凝集したRPE細胞を注射で移植するようになり、手術手技も若干変更がありました。

ここでは、再生医療による網膜治療で行われるiPS-RPE 細胞シートを使用した治療の流れ・方法について解説します。

皮膚の採取

まず、病院で患者さんの上腕から皮膚組織を直径4mmほど採取します。患者さん自身の皮膚からiPS細胞を作るため、この段階は必要なものです。

調製施設で細胞製造

病院で採取した患者さんの皮膚組織を細胞調製施設(CPC)に移し、繊維芽細胞を培養します。培養した線維芽細胞に遺伝子を導入することで患者由来iPS細胞を樹立できます。

RPE(網膜色素上皮)細胞の分化を誘導して、iPS由来RPEを純化して患者由来RPEシートができるのです。ここまでおよそ10ヶ月かかります。

培養したシートの受け渡し

培養されたRPEシートは細胞調製施設(CPC)から病院へ出荷されます。病院ではシートと患者情報を確認して間違いのないように受け渡しが行われるのです。

移植手術

病院に届いたRPEシートは、手術室へ運ばれます。レーザーで必要な大きさにカットされ、手術当日に切れ込みに沿ってRPEシートが切り離されて移植手術に使用されるのです。

滲出性加齢黄斑変性症では、新生血管や血の塊を取り除いてからRPEシートを注射で移植します。

網膜手術を再生医療で受けるメリットは

網膜手術を再生医療で受けるメリットは

網膜手術において再生医療を受けるメリットはどのようなものがあるのかということは手術を受けるか検討するときには気になることです。

ここでは再生医療を受けるメリットについて解説します。

自身の細胞を使用するので副作用が少ない

iPS細胞は、ES細胞と異なり自分の細胞を使用するため、免疫拒絶反応の問題を解決できます。拒絶反応は起こりにくい治療です。

2011年のマウスの実験でiPS細胞ではES細胞よりも免疫拒絶反応を起こしやすい可能性があるという研究結果が発表されました。しかし、この研究では未分化なiPS細胞を移植しています。

未分化なiPS細胞は良性腫瘍を形成してしまうため、臨床では未分化のままの細胞を移植することはありません。目的のものに分化させた後、未分化の細胞を取り除いてから移植することが必要です。

人の体内で腫瘍が形成される時には免疫系が反応し、これを排除しようとします。このため自己由来のiPS細胞でも、未分化で移植してしまうと腫瘍形成を排除しようとする免疫反応が起きてしまいます。

2013年にはサルの実験でiPS細胞治療において自家移植を行った際には免疫反応が起こらない可能性が高いという研究結果が報告されました。

視機能の低下が少ない可能性がある

視機能の低下が少ない可能性がある
網膜は再生力が低い組織であるため、一度障害を受けると自然に治ることはほぼありません。

視神経が残存している早期の患者さんにiPS 細胞由来 RPE 移植治療を行うことができれば、視力の回復が期待できます。視力の維持・改善が確認できれば、現在の治療の反応が悪い患者さんのセカンドライン治療として使われることも検討されます。

研究では、視力の改善は認められなかったものの他の治療と比べて、目に注射する回数が少なくなるなどのメリットが報告されています。

研究分野でも疾患の原因を突き止められる

iPS細胞を用いる研究は、マウスやラットなどの動物の細胞を用いる場合と比較して、人間の疾患メカニズムをより正確に反映しています。

これを用いることで詳細に疾患の原因を知ることができ、病気の進行を止めたり、遅らせたりすることもできる可能性があります。またその疾患を治すことができる薬を細胞実験で検討することができることもメリットです。

新薬の開発などにも応用できる

iPS細胞を用いた研究は、iPS細胞が発表された 2006年と比較すると大きく進展しています。

患者iPS細胞由来の細胞を用いて、難病の治療薬の候補薬剤を探すことも行われています。2017年にFOP(進行性骨化性線維異形成症)の候補薬の治験・2019年に筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者さんを対象とした創薬治験・2020年に家族性アルツハイマー病患者さんを対象とした創薬治験が開始されました。

網膜手術を再生医療で受けるデメリットは

網膜手術を再生医療で受けるデメリットは手術を受ける際にメリットを知ると、次はデメリットが気になります。正しい情報を知ることは手術を受けるかどうかの検討には必要なことです。

ここでは再生医療のデメリットについて解説します。

研究途中のため費用は高額

研究途中のため費用は高額iPS細胞による治療は、費用がかかる方法で基準に準拠した細胞調製施設(CPC)を維持するだけでも年間数千万円のコストがかかります。

滲出型加齢黄斑変性症の治療は、患者さん一人につき1億円かかったと報道されています。現在は臨床試験なのでこの費用は患者さんが負担するのではなく、国からの研究費や製薬会社の負担です。

臨床研究が少ないため安全性に不安がみられる

病気やケガで機能が失われた細胞があるときに、iPS細胞を移植するという再生医療の臨床研究が行われていますが、まだ症例数は少ないです。

iPS細胞を用いた治療の安全性の上での懸念点として、腫瘍形成が起こる可能性があるということがあります。

iPS細胞の腫瘍化については大きく以下の2つのメカニズムが考えられてきました。

  • 初期化因子の再活性化・人工的な導入によって、もともとの細胞がもつゲノムに傷がつくことでiPS細胞が腫瘍化する
  • 未分化細胞が残ってしまっていることにより良性腫瘍が形成される

これらの問題は解決されているため、安全性の懸念は小さくなっています。

初期化因子に関しては再活性化しないものを探し、また初期化因子が取り込まれずゲノムに傷をつけないiPS細胞の作り方が開発されました。

未分化細胞については、iPS細胞の増殖や分化に関する研究が進められていて未分化細胞を残さずに取り除くことが検討されています。

まだ安定した供給ができる体制でない

人由来iPS細胞を安定的に大量生産する体制はまだできていません。iPS細胞には無限に増殖する能力があるのですが、培養が難しく特性を保ったまま大量に培養し、安定的に供給する技術は不十分です。

未発見の副作用が発現する可能性がある

再生医療はまだ症例数も少なく、安全性・有効性の検討もこれから行われるため今まで知られていなかった副作用が出る可能性があります。

思わぬ副作用に見舞われてしまうという懸念があるので、注意が必要です。

従来の網膜手術との違いは

従来の網膜手術との違いは

臨床で行われている網膜手術は、網膜硝子体手術というもので局所麻酔で行う手術です。眼科治療の中でも高度な手術で病的な組織を取り除くことで病気の原因を除去します。

手術時間は症例により異なりますが、20~60分程度で、保険適応で行うことができる手術です。

再生医療による網膜手術は、まず患者さんの皮膚組織からiPS細胞を培養し、iPS-RPE 細胞シートを作成しなくてはいけないので手術までに時間がかかります

また、保険適用外の処置になり患者さんの負担はありませんが、莫大な費用がかかる治療です。

網膜治療を再生医療で受けるにあたり気を付けたいことは

網膜治療を再生医療で受けるにあたり気を付けたいことは

再生医療は研究段階であることがあり、臨床試験による承認を経て、保険診療が認められている標準治療とは異なります。

標準治療は安全性・有効性の認められた治療であるため安心して受けることができる治療です。しかし再生医療はほとんどが保険外診療であり、まだ安全性・有効性が確立していません。

このため、再生医療を受ける場合は研究段階であることを理解し、医療機関でしっかり情報収集をして検討する必要があります。

再生医療を受けるときの注意点はチェックリストが用意されていて、大きく分けて以下のようなものがあります。

  • 正当な手続きをしている施設かどうかを調べる
  • 同意説明文書に書かれている項目について調べる
  • 費用について調べる

これらのことをきちんと調べて納得して再生医療を受けることが大切です。これらの3つの項目について、1つずつ解説します。

まず「正当な手続きをしている施設かどうかを調べる」ということについてです。再生医療を提供するためには、認定再生医療等委員会の審査を受けて国に届け出を行うことが必要です。

きちんと届け出をしているかどうかは厚生労働省のホームページでも確認ができるので、まずはこのことについて確認を行います。

次に「同意説明文書に書かれている項目について調べる」ということについてです。チェックリストには以下の4つの確認事項があります。

  • 保険適用か?
  • 予想される副作用や体への悪影響にはどのようなものがあるか?
  • 標準治療を含め、他の治療方法の選択肢について説明を受けたか?
  • 当日の食事・安静・禁忌など、治療を受ける際の注意事項はあるか?

これらのチェックリストの項目は治療を受ける前に理解しておかなくてはいけないことなので、しっかり確認をすることが必要です。

最後に「費用について調べる」ということについてです。このチェックリストには以下の3つの項目があります。

  • 治療にかかる費用・期間・治療回数はどのくらいか?
  • 治療費以外に発生する費用はあるか?(外来受診・画像撮影・リハビリ・治療後に使用するサプリメントや化粧品など)
  • 副作用や体への悪影響が出たとき、どの病院で治療・対策を行い、誰が費用を払うのか?

これらの内容は説明文書に記載がない場合があるので医療スタッフに確認をすることが必要です。再生医療を受けたいと思ったら、全ての項目を確認・理解して納得して受けることが大切です。

まとめ

まとめ

再生医療による網膜治療は、患者由来のiPS細胞を用いた方法があり実際の人での試験が行われ安全性が確認されました。

しかしまだ症例が少なく、これから分かってくる未知の副作用がある可能性もあります。

治療は標準治療を中心に行い、再生医療を受ける際には専門の医師とよく相談して、リスクとベネフィットを考えて受ける必要があります。

この記事では再生医療による網膜治療について、iPS-RPE 細胞シートを使用した加齢⻩斑変性治療を中心に解説を行いました。

再生医療のメリット・デメリット・受ける際の注意点などについても解説しているので、再生医療を受けることを検討している人・再生医療について知りたい人は参考にしてみてください。

参考文献

この記事の監修歯科医師
柳 靖雄医師(横浜市大 視覚再生外科学客員教授 お花茶屋眼科院長)

柳 靖雄医師(横浜市大 視覚再生外科学客員教授 お花茶屋眼科院長)

東京大学医学部卒業(1995年 MD)/ 東京大学大学院修了(医学博士 2001年 PhD) / 東京大学医学部眼科学教室講師(2012-2015年) / デューク・シンガポール国立大学医学部准教授(2016年-2020年)/ 旭川医科大学眼科学教室教授(2018年-2020年) / 横浜市立大学 視覚再生外科学 客員教授(2020年-現在) / 専門は黄斑疾患。シンガポールをはじめとした国際的な活動に加え、都内のお花茶 屋眼科での勤務やDeepEyeVision株式会社の取締役を務めるなど、マルチに活躍し ています。また、基礎医学の学術的バックグラウンドを持ち、医療経済研究、創薬、国際共同臨床研究などを行っています。

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