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再生医療

再生医療の進歩で腎臓疾患の治療はどう変わる?課題や展望をまとめました

再生医療の進歩で腎臓疾患の治療はどう変わる?課題や展望をまとめました

皆さんは普段、腎臓のことを意識して生活していますか? 生きるために働き続ける心臓、食べ物を消化する胃、栄養を吸収し不要なものを排出する大腸といった目立った臓器ではないため、特に気にすることがないのが現状かと思います。一見どのような機能を果たしているのかが分かりづらい腎臓ですが、実は身体を正常に保つための重要な役割を果たしています。

そこで今回は、腎臓の機能や腎臓疾患に対する治療の課題から、再生医療とはなにか、腎臓疾患と再生医療の関わりまで詳しく説明していきます。身体のことを考えるきっかけとして、ぜひ読んでみてくださいね。

再生医療とは

再生医療とは 「再生医療」とはどんな医療かご存知でしょうか。実は、日本では再生医療について2014年に新たな法律が定められ、再生医療で世界をリードしようと強く意気込んでいます。ここでは、今注目されている再生医療とはどのようなものなのかを詳しく解説していきます。

再生医療の定義

機能障害や機能不全に陥ってしまった身体の組織・臓器に対して、細胞や人工的な材料を用いて損なわれた機能の再生を図る、これが再生医療です。例えば、転んで膝などを擦りむいてしまった際、一度は出血しますがいずれかさぶたとなり、自然とそのかさぶたがはがれ落ちてきれいな皮膚に生まれ変わります。このように、人間の身体にはもともと「再生する力」が備わっているのです。再生医療ではこの力を利用して、身体が元通りになることを目指します。

再生医療は、一般的な保存療法や薬物療法・手術などでは改善が見込めなかった病気やケガに対して新しい可能性をもたらしますし、この技術を用いて難病の原因を見つけたり新しい薬の開発に役立たせたりすることもできます。

体細胞と幹細胞

人間の身体は約60兆個の細胞で成り立っています。その始まりが受精卵であることはなんとなく想像ができるのではないでしょうか。受精卵は細胞分裂をくり返し、脳や心臓、皮膚などの組織が作られていきます。このように、細胞があらゆる組織に変化していくことを「分化」と言い、分化して増殖できなくなった細胞はいずれ死んでいきます。

最後まで分化し、脂肪細胞や骨細胞、血液細胞などのような身体の組織となったものを「体細胞」、まだ分化しておらずさまざまな組織や臓器になれるものを「幹細胞」と言い、これらの細胞を利用して組織の再生や根本的な改善を目指すのが、再生医療の特徴です。

再生医療と腎臓

再生医療と腎臓 では、腎臓病を抱える方に対して再生医療を行うとどのような効果が期待できるのでしょうか。まずは、現在の腎臓治療における課題を説明していきます。

腎臓医療の慢性的な課題

腎臓は一度機能が低下すると、元に戻ることはありません。そのため、新しい腎臓を移植して機能を取り戻す臓器移植が代表的な治療として知られていました。しかし、臓器を提供するドナーは日本移植学会の指針により、6親等以内の成人の家族もしくは配偶者の3親等以内の家族までと定められています。また、対象となる親族であっても、感染症や悪性腫瘍を患っていたり、高血圧や糖尿病などの持病を持っていたりするとドナーになることはできません。さらに、移植を受ける方とドナーの方との年齢はある程度近いほうがいいとされているため、なかなか条件に合ったドナーが見つからないのが課題として挙げられていました。

人工透析という治療法もありますが、何度も医療機関に通わなければならないことや、治療に長い時間を要するため、社会生活に支障が出て、QOLの低下につながってしまうことも課題の1つでした。

再生医療を用いた腎臓治療の進捗

このような課題を踏まえて進められているのが、iPS細胞を用いて腎臓疾患を治療するという研究です。

何らかの原因によって急激に腎臓の機能が低下することを急性腎障害と言い、ダメージを受けた腎臓を元に戻すことはできていませんでした。しかし、京都大学の研究で、急性腎障害を起こしているマウスの腎臓への血流を一時的に止め、iPS細胞から生成した腎臓細胞を移植したところ、腎臓機能が向上しているという結果が出ました。

これは移植した細胞が腎臓の保護因子を分泌したためであると考えられており、この結果によって急性腎障害を負った方の腎臓の働きを回復させて慢性化を防ぐことができる可能性が出てきました。腎臓の細胞は構造が複雑なため人体への適用までの道のりはまだまだ長いですが、将来の腎臓治療に希望を感じられますね。

腎臓の再生医療に関する課題

腎臓の再生医療に関する課題 iPS細胞を応用することによって日本の再生医療技術は進み、心臓や脊髄・角膜などに対する医療技術は増えてきています。しかし、腎臓の再生に関しては、まだまだ課題が残っています。なぜ腎臓に適応している再生医療は少ないのか、一緒に見ていきましょう。

臓器を丸ごと再生する難しさ

腎臓に対する再生医療が実現すれば、臓器移植や透析治療が不要になることが期待されています。ただ腎臓には、血管・尿を作る糸球体やそこで作られた尿を集めて排泄する組織など、さまざまな種類の細胞が集まっています。このように複雑な構造の臓器に対して、再生医療を実現するには時間がかかると言われています。現在、動物実験では体内で腎臓を再生させることは可能になっていますが、どのように人体への応用を進めていくかはいまだ研究段階です。

現在実現している再生医療

現在実現している再生医療 これまで腎臓の再生医療の現状と課題について解説してきました。まだまだ道半ばである腎臓の再生治療ですが、それでは現在実際に行われている再生治療にはどのようなものがあるのでしょうか。日本では、PRP療法やAPS療法、歯髄再生療法が一般的となってきています。中でもPRP療法は、エンゼルスでプレーしている大谷翔平選手が受けた治療として話題になったことにより、知っている方も多いかもしれません。さてここからは、それぞれの再生医療がどのような治療法なのか、その効果はどんなものなのかを詳しく説明していきます。

PRP療法

PRPとは日本語で多血小板血漿と言い、血小板を高濃度に凝縮し活性化させたもののことを指します。PRPには、細胞の増殖や血管の形成などに役立つ成長因子が数多く含まれており、人間が持っている治療能力組織修復能力再生能力を引き出してくれます。採血によって患者さん自身の血液を採取し、遠心分離してPRPを抽出して注射器で注入する、これがPRP療法です。

近年では、アキレス腱の炎症やゴルフ肘、テニス肘、変形性膝関節症など、慢性的な痛みを伴う疾患に対して使用されています。入院や手術をする必要がないため、一刻も早い競技復帰を目指しているスポーツ選手が使用することも多くなってきています。自分の血液を使うため、アレルギー反応や拒絶反応などの副作用は少ない傾向にありますが、現れる効果や持続時間には個人差があります。この治療がご自身に合っているか、どれくらいの効果が見込めるかなどについては、専門の医療機関に相談しましょう。なお、PRP療法は保険適用外のため、自由診療となります。

APS療法

APS(Autologous Protein Solution)とは、PRPをさらに遠心分離させて抽出する自己タンパク質溶液です。これを使用したAPS療法は「次世代PRP」とも呼ばれており、関節内に炎症を引き起こすIL-1やTFN-αなどのタンパク質の働きを阻害するため、炎症緩和・痛みの軽減が期待できます。

APS療法は、主に変形性膝関節症の治療に採用されており、「痛みをなくしたいが手術はしたくない」「ヒアルロン注射では膝の痛みは良くならなかった」「1回の受診で治療を終わらせたい」という方にぴったりの治療法です。この治療も保険は適用されず、自由診療となっています。

歯髄再生医療

歯の神経(歯髄)は、痛みを感じたり虫歯の悪化を食い止めたり歯に栄養を送る役割を担っています。この神経が死んでしまったり虫歯治療によって抜いてしまったりすると、痛みを感じないため虫歯や歯周病に気付くのが遅くなってしまう、栄養が行き届かなくて歯が黄色や茶色・灰色に変色してしまう、歯がもろくなってしまうなど、機能や見た目の面でさまざまな支障が出ます。また、詰め物のすき間から細菌が入り込んでしまうことも少なくありません。

そこで、神経を抜かなければならない痛みに対して有用なのが「歯髄再生医療」です。どのようにして治療を進めていくのかと言うと、まずは親知らずなど不要な歯を抜歯して、そこから歯髄幹細胞を採取します。採取した細胞は1カ月ほどかけて培養し、神経を取りのぞいたところに遊走因子であるG-CSFと一緒に移植します。G-CSFの働きによって細胞は根管内にとどまり、血管や神経の再生を促したりします。さらに、失われていた象牙質の再生も期待できます。

進行中の臨床試験

これらの再生医療のほかに、新たな治療法を獲得するためさまざまな臨床試験が行われています。

まず、前立腺がんの患者さんに対する臨床試験です。前立腺がんを患っていて、前立腺の全摘手術を受けた方の中で、70%の方は術後に尿失禁の症状が見られます。ほとんどの方は服薬と体操によって改善が見込めますが、約1割の患者さんは機能が戻らないまま尿失禁が続いてしまいQOL低下につながっていたため、新しい治療法が必要だと言われていました。

そこで、尿失禁が続いている患者さんの皮下脂肪から幹細胞を分離して培養し、原因となっている外尿道括約筋に注入することで機能向上と症状改善を目指しています。これまでは尿失禁が改善しない場合はコラーゲンや皮下脂肪組織を注入して尿道を狭くする治療が行われていましたが、これらはいずれ吸収されてしまうため効果は短く、長期的な効果が見込める再生医療に注目が集まっています。

さらに、多発性骨肉腫や難治性の濾胞性リンパ腫、急性期脊髄損傷など、さまざまな疾患に対する治験も進められています。

再生医療に期待したい腎臓の疾患

再生医療に期待したい腎臓の疾患 最後に、再生医療で症状の緩和が見込める腎臓疾患をご紹介します。腎臓は、皆さんの身体を正常な状態に保つための大切な臓器です。腎臓疾患の初期症状はなかなか現れないため早期発見は難しいかもしれません。しかし、ささいな変化があったときに気付けるよう、日頃からご自身の体調には敏感になっておきましょう。「尿の色が変」「夜中に何度もトイレに行く」「むくみを感じる」「疲れやすく疲労が抜けない」「健康診断で尿検査の異常を指摘された」など、気になる症状がある場合は早めに医療機関に相談することをおすすめします。

慢性腎臓病

長い時間をかけて腎臓の機能が低下していくことを慢性腎臓病と言います。聞きなじみのない疾患かもしれませんが、実は20歳以上の8人に1人が慢性腎臓病と言われています。腎臓は、身体の中の老廃物を外に出したり、塩分と水分の排出量をコントロールして血圧を調節したりするなど、身体を健康的に保つ重要な役割を果たしている臓器です。そのため、腎臓の機能が低下することでさまざまなリスクが生じますので、注意が必要です。

慢性腎臓病は初期症状がほとんど現れず、むくみや貧血、息切れ、倦怠感などの症状を自覚したときには重症化している可能性が高いという特徴があります。早期発見・早期治療のため、定期的に健康診断を受け、尿や血圧の状態をこまめに確認しておきましょう。

腎臓がん

腎臓の細胞ががん化したものを腎臓がんと言います。初期段階での自覚症状はほとんどなく、がんが大きくなると血尿が出たり背中や腰に痛みが出たりすることがあります。また、足のむくみや腹痛・吐き気・便秘、腹部のしこり、食欲が湧かないといった症状が見られることもあるようです。腎臓がんの治療には、手術や凍結療法、薬物療法、放射線治療、監視療法などが一般的でしたが、近年では、再生医療によってがん細胞を除去する方法が注目を浴びています。

まとめ

まとめ いかがでしたでしょうか。今回は腎臓疾患に対する課題や再生医療とのつながりについてまとめました。腎臓は老廃物を体外に出したり血圧を調節したりするだけでなく、血液を作る指令を出す、体内の体液量やイオンバランスを調節する、活性型ビタミンDを生成してカルシウムを吸収しやすくするなど、さまざまな役割を担っています。生きていくうえで腎臓がいかに大切か、再生医療とはなにか、どのように腎臓と関わっているかがご理解いただけたかと思います。この記事を読んで少しでも知識を深め、腎臓を健康的に保ち、長くはつらつと過ごしていただければ幸いです。

参考文献

この記事の監修歯科医師
松澤 宗範医師(青山メディカルクリニック院長 慶応義塾大学病院形成外科)

松澤 宗範医師(青山メディカルクリニック院長 慶応義塾大学病院形成外科)

2014年3月 近畿大学医学部医学科卒業 2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医 2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局 2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科 2017年4月 横浜市立市民病院形成外科 2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科 2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職 2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長 2020年5月 青山メディカルクリニック 開業

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