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再生医療

 再生医療が切り拓く未来の医療への道!

再生医療 未来

再生医療と聞いて、皆さんはどのようなイメージをお持ちでしょうか。

失われた組織を回復できる・身体機能の向上が見込めるなど、理想とする健康体に近づけられる治療方法と思われている方もいるのではないでしょうか。

もちろんそれは誤りではありません。再生医療が目指す未来には、上記に挙げた目的も含まれています。

しかし再生医療の可能性はそれに限りません。遺伝子操作により根本的な病気の治療が実現できる可能性を秘めています。

本記事では山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことで有名な「ips細胞」に焦点をあて、再生医療とはなにか・どのような活用が見込まれるのかを解説していきます。

今後の医療に広く活用されるであろう再生医療について、関心のある方はぜひご一読ください。

再生医療の未来といえる「ips細胞」について

再生医療の未来といえる「ips細胞」について

ips細胞が再生医療の未来といわれているのはなぜでしょうか
ips細胞が再生医療の未来といわれているのは、組織・臓器の再生に応用できるほか、遺伝性疾患を根治する可能性を秘めているからです。ips細胞とは、簡単にいえば「様々な組織・臓器に分化可能な、ほぼ無限に増殖できる細胞」です。患者さんの体細胞に4つの因子を加え人工的に「多能性幹細胞」を造りだし、その分化を誘導することで、移植に必要な組織・臓器を造り出す研究が進められています。
上記による治療が確立されれば、欠損した部位の再生に期待が高まるほか、臓器移植のドナー不足を根本的に解決できる希望もみえてくるでしょう。また患者さんの細胞を元に分化を誘導するため、病変部の発症プロセスを再現することが可能です。どこに・どのように異常が起こるのか経過を観察できるため、病気の根本的な原因究明への期待が寄せられています。
ips細胞の画期的な用途について教えてください。
ips細胞の画期的な用途としては、新薬開発のスクリーニング・遺伝性疾患の原因究明に活用できる点が挙げられます。新薬の開発・実用化には臨床試験(治験)が不可欠であり、その際ips細胞から分化させた組織・臓器を活用することは、よりデータを集めやすい環境整備に役立ちます。
難病指定患者さんのips細胞から分化誘導すれば病変部の再現も可能なため、薬の効果を確認する際も有用です。また先述したように、分化する過程で細胞の変異がいつ・どのようなプロセスを経るのか観察できるため、根本的な原因究明にも期待が高まっています。ips細胞は従来の医療概念とは異なる、根本的な治療を可能にする画期的な技術だといえるでしょう。
ips細胞とゲノム編集技術の関係性について教えてください。
ips細胞とゲノム編集技術の関係性を知る前に、まずゲノムとは一体何かを理解しておく必要があります。ゲノムとは遺伝子と染色体を合わせて作られた言葉で、その生物を形作る遺伝情報が刻まれたDNA(塩基配列)を指すものです。
ヒトにはヒト固有の配列があり、さらに親子・兄弟であってもその配列は異なります。ゲノム編集技術はこの遺伝情報をピンポイントに切断・操作し、変異を起こさせる技術です。従来の遺伝子組み換え技術よりも精度が高く、さらにデジタルPCRという技術をかけ合わせることで、他の遺伝子を傷付けない操作が可能となりました。
ips細胞を実際に患者さんへ移植するには、狙った組織・臓器への分化のほか、他の遺伝子に損傷を与えないことも重要となります。今後のips細胞による再生医療の発展には、ゲノム編集技術による精密なコントロールが必要不可欠だといえるでしょう。

「歯」の再生医療の未来について

「歯」の再生医療の未来について

歯の「幹細胞」がもつ可能性について教えてください。
ここまでips細胞について解説してきましたが、そもそもips細胞は多能性幹細胞の1種であり、多能性幹細胞は幹細胞の1種です。幹細胞とは細胞分裂の基となる細胞を指します。
他の細胞とは異なり、あらゆる組織に分化できるうえに、自己複製機能を有しています。この幹細胞があることにより、ヒトの体は日々新しい細胞が造られ続け、生命活動を維持できているのです。欠損部の再生も掲げる再生医療において、幹細胞は研究のカギを握る重要な要素だといえるでしょう。
その幹細胞ですが、実は歯髄や抜歯する際に付着している軟組織に多く含まれていることが解明されています。さらに歯髄・軟組織に存在する幹細胞は、骨髄から採取した幹細胞より増殖能に優れ、多分化能も有していることが確認されています。
また採取する際も乳歯・抜歯した歯を活用すれば、骨髄を採取するより容易なため、患者さんの負担軽減にも繋がります。今後は抜歯した歯が貴重な幹細胞の採取源となるかもしれません。
再生医療によって歯の再生ができるのでしょうか?
歯科における再生医療は、歯髄(神経)の再生であればすでに実現しています。保険適用にはなりませんが歯髄再生治療を提供している歯科医院もあるため調べてみると良いでしょう。
歯は神経を抜くと脆くなる傾向があります。歯髄除去後の生存年数はおよそ5~30年とされ、歯髄を失った歯は折れやすくなる・抜歯のリスクが上がるなど不具合が生じます。そのような歯に細胞を移植し歯髄の回復を促せば、失った感覚を取り戻せるだけでなく、歯の生存年数を伸ばす効果が期待できるでしょう。
また歯そのものの再生という点でも、理論上では可能とされています。まだヒトの歯を立体的に再生した実例は存在しませんが、マウスを用いた実験では成功例が確認されています。歯の培養方法には2種類あり、1つはシャーレ上で培養する方法です。歯の一部であればシャーレ上でも再生した例が確認されています。
もう1つは細胞増殖により人工的に造られた歯をマウスの体内に埋め込み成長させ、適したサイズになったら取り出し口腔内に移植するというものです。現在の主流は体内培養法ですが、体内・体外どちらで培養するにしても再生させた歯を天然歯のように活用するのではなく、インプラントなどへの活用が見込まれています。
再生医療といえど失った歯を簡単に元の状態に戻せるわけではないため、今ある歯は一生使う物とし、大切に扱ってください。
未来へ残す「歯の細胞バンク」について教えてください。
「歯の細胞バンク」とは、本来捨てるはずだった不要な歯を専門の機関で保管し、将来必要になったタイミングで歯に残されている歯髄細胞を再生医療に活用する取り組みです。
年齢制限がないため乳歯から預けられ、半永久的に保管してもらえます。ただし、むし歯は対象外・認定医に抜歯してもらう必要がある・保管料がかかるなど、考慮すべき面もあります。
また預けられるのはあくまで不要な歯に限られ、細胞バンクに預けるために抜歯することは認められていません。健康な歯を抜くことは倫理的に受け入れられないため、希望すれば誰でも利用できる訳ではない点に注意しましょう。

再生医療の未来について

再生医療の未来について

ips細胞研究の今後について教えてください。
ips細胞の研究は世界中で競争が激化しているため、開発はさらなる加速をみせることでしょう。日本は再生医療において世界トップレベルの技術を有しており、国をあげて実用化に取り組んでいます。
2014年には再生医療に関する法が整備され、2019年には角膜上皮移植を成功させるなど、確かな実績を積み上げています。肌再生技術など美容医療の現場にも普及してきているため、一般の方にもより身近な治療方法になっていくかもしれません。
病気の治療法はどう変わるのでしょうか?
ゲノム編集技術の精度がより高度なものになれば、病気は遺伝情報を操作して治療することが可能になるかもしれません。またips細胞の活用により、新薬の研究開発が促進されることが予想されます。
現在のips細胞を用いた細胞移植は、いわば患者さんひとり一人に合わせたオーダーメイド治療であり、コストがかさむデメリットがあります。これを新薬開発に繋げられれば、より多くの患者さんに対応可能になるため、薬による遺伝性疾患の根治にも期待が持てるようになるでしょう。
ips細胞とES細胞との違いについて教えてください。
ips細胞とES細胞の違いは、何を基に細胞増殖を行うかという点において違いがみられます。
ips細胞は上述してきたとおり、患者さんから採取した皮膚組織や血液中に含まれる体細胞を基に細胞増殖を行います。これに対しES細胞は受精卵を基にして細胞増殖を行います。受精卵ですので患者さんのゲノム情報とは異なります。
拒絶反応のリスクがあるほか、本来ヒトになるはずだった受精卵を壊すという倫理的な問題も考慮しなければなりません。ips細胞・ES細胞はどちらも多様な細胞に分化できる多能性幹細胞ですが、上記のように技術の根幹・倫理的な問題において違いがあるといえるでしょう。
今後の課題と安全性について教えてください。
再生医療はまだまだ発展途上です。拒絶反応リスクが低く倫理的問題の懸念がないとされるips細胞も、がん化するリスクが指摘されています。がん化リスクは、以下の要因で引き起こされると考えられています。

  • 未分化細胞が残っていた
  • ips細胞作成時に加えた因子が再活性した
  • ゲノム編集において傷がついた

これらの問題を解決しようと、世界中で日夜研究が進められています。またips細胞から開発された新薬がどの程度の効果をもたらすのか・副作用はあるかという点も、注意深く研究していく必要があります。保険適用外のため医療費がかさんでしまう点も、今後解決していかねばならない課題といえるでしょう。

編集部まとめ

考える

本記事では再生医療が切り拓く未来・今後見込まれる活用法などについて解説してきました。

世界中で開発競争が激化しているips細胞は、そう遠くない未来に様々な医療現場で活用されていくことでしょう。

しかし再生医療のカギを握るゲノムは、究極の個人情報と呼ばれるほど管理に注意しなければならないものです。

将来病気になるリスクにより差別を受ける可能性・治療法がない病気リスクを指摘された場合の心のケアなど、取り組まねばならない課題もあります。

日本ではまだそのようなケースに対応できるだけの法律は整えられていません。

研究開発の促進とともに、早急な法律の整備が求められます。

参考文献

この記事の監修歯科医師
松澤 宗範医師(青山メディカルクリニック院長 慶応義塾大学病院形成外科)

松澤 宗範医師(青山メディカルクリニック院長 慶応義塾大学病院形成外科)

2014年3月 近畿大学医学部医学科卒業 2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医 2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局 2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科 2017年4月 横浜市立市民病院形成外科 2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科 2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職 2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長 2020年5月 青山メディカルクリニック 開業

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