最近ヒト幹細胞培養液がスキンケア用品やコスメに配合されることが多くなりました。しかし、効果がないと聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
本記事では、ヒト幹細胞培養液は効果がないのは真実なのかについて解説していきます。
また、ヒト幹細胞培養液の効果・リスク・よくある質問もまとめていますので、是非参考にしてみてください。
ヒト幹細胞培養液は効果ない?
ヒト幹細胞培養液は、幹細胞を培養するための液体のことで、この培養液自体に幹細胞は含まれていません。
幹細胞は傷ついた細胞を修復したり、失われた細胞と作り直したりする細胞です。この作用によって老化による衰退を遅らせられます。
加齢によって幹細胞は減少しますが、幹細胞治療によって増加させることで、痛んだ細胞を回復できます。また、病気にはなっていないけれど細胞が痛んでいる場合、幹細胞によって早く治療できれば予防医療につながるでしょう。
このような効果のある幹細胞がヒト幹細胞培養液に含まれていないことで、効果がないのではないかといわれています。ヒト幹細胞培養液は幹細胞のように細胞を作り出すことはできません。
しかし、ヒト幹細胞培養液には幹細胞が含まれていませんが、培養時に幹細胞が成長するための因子や養分が含まれています。そのため、体内にある細胞に働きかけて、修復を促す効果が期待できます。
また、ヒト幹細胞培養液と混同されやすいものにヒト幹細胞培養上清液がありますが、成分的には同じではありません。ヒト幹細胞培養上清液は、培養後に幹細胞を取り除いて精製した上澄み液のことです。
このヒト幹細胞培養上清液には、500種類以上の成長因子が含まれており、ヒト幹細胞培養液よりも高い効果が期待できます。
ヒト幹細胞培養液の効果
ヒト幹細胞培養液の効果は、痛み・美容・AGA・EDなどがあります。ここでは、4つの効果について詳しく見ていきましょう。
痛みの緩和効果
抗炎症作用・組織を修復する作用・細胞を活性化させる作用などの因子が含まれているため、炎症を抑制するのに効果的です。そのため、炎症が起こったり体が損傷したりしている場合、その部分に治癒効果をもたらします。
また、関節痛・腰痛・頚部痛・肩痛・筋肉痛など、様々な部位の痛みを緩和できます。炎症によるしびれも、炎症を抑えることで改善できるでしょう。
しかし、神経性や障害受容性ではなく、ストレスが原因の痛みには効果がありません。心因性の場合は、ストレスの原因となることを解決しなければ回復が見込めないので注意しましょう。
美容効果
ヒト幹細胞培養液には、細胞を活性化させる作用・血管の細胞分裂を促す作用・表皮成長因子などが含まれています。
細胞を活性化させる作用によって線維芽細胞が活発になり、コラーゲンやヒアルロン酸などを作り出しやすくします。そのため、肌の弾力アップ効果が期待できるでしょう。
血管の細胞分裂を促す作用は、血管の細胞を新しくするよう働きかけることで血流が改善します。これにより、摂り入れた栄養を隅々まで行き渡らせて、しわ改善などの効果をもたらします。
表皮成長因子は、皮膚組織の細胞に働きかける成長因子です。この成長因子によってターンオーバーが促進し、古い角質が残りにくくなるでしょう。くすみやシミなどに効果を期待できます。
AGAの改善効果
ヒト幹細胞培養液には多くの成長因子が含まれており、AGAの改善効果に期待できるといわれています。そもそもAGAは、脱毛ホルモンDHTの作用によってヘアサイクルが乱れることが原因です。
このヘアサイクルの乱れを成長因子で改善することで、AGAに効果が期待できます。毛母細胞が分裂したり増殖したりを活発に繰り返すことで、髪の毛は生えてきます。
ヒト幹細胞培養液はこの毛母細胞に働きかけることで、ヘアサイクルを正常にするのです。AGAといえば男性の薄毛をイメージする方が多いですが、女性版AGAといわれるFAGAにもヒト幹細胞培養液は効果的です。
毛母細胞さえ残っていれば、育毛や発毛の効果を実感できるでしょう。
ED改善効果
そもそもEDとは男性の性機能障害である勃起不全のことです。EDの原因が心因性でない場合、ヒト幹細胞培養液で改善が期待できます。神経系や血管が正常に機能していない場合に、EDが発生するためこれらを改善しなければなりません。
ヒト幹細胞培養液は新しい血管を作り出すよう細胞に働きかけます。これにより、血流改善が期待できるでしょう。
また、ヒト幹細胞培養液は神経系の細胞に修復を働きかけることで改善が見込めます。ただし、ストレスや鬱など心因性の場合は改善ができません。ED治療の際には、原因を突き止める必要があります。
ヒト幹細胞培養液のリスク
ヒト幹細胞培養液は様々な治療に用いられますが、リスクが0なわけではありません。ここでは、がん化・アレルギー反応・発熱・頭痛について詳しく解説します。
がん化の危険性
ヒト幹細胞培養液を使用して、がんになったと報告された例はありません。しかし、100%起こらないとは断言できず、がん化の危険性はあります。
幹細胞にはヒトの体内から抽出する体性幹細胞だけでなく、ES細胞やiPS細胞から作る人工的なものがあります。ヒト幹細胞培養液は体性幹細胞から作られているものがほとんどです。
ES細胞は作り方に倫理的な問題があるため、ヒト幹細胞培養液を作ることはありません。しかし、倫理的に問題のないiPS細胞から作られている可能性があり、このiPS細胞はがん化する危険性があります。
そのため、iPS細胞から作ったヒト幹細胞培養液には、がん化の危険性が伴うでしょう。また、厚生労働省から薬事承認を受けていない点にも注意が必要です。
アレルギー反応
ヒト幹細胞培養液は主にヒトの脂肪由来細胞が原料です。そのため、ヒトの細胞との親和性が高く、拒絶反応が少ないといわれています。
しかし、投与時の注射で痛みや腫れが起こることがあるでしょう。注射による痛みや腫れは一時的なもので、時間経過とともに治まります。
軽度の発熱や頭痛
ヒト幹細胞培養液の投与により軽度の発熱や頭痛が起こることが稀にあります。他にも疼痛・全身倦怠感・低血糖症状・悪寒・発疹などが起こる可能性があることを覚えておきましょう。
稀にこのような副作用が出る可能性がありますが、健康を害するような副作用が出たという報告は上がっていません。副作用が出てしまった場合は、速やかに医師に相談しましょう。
ヒト幹細胞の特徴
ヒト幹細胞として多く使用されているのはヒトの皮下脂肪から採取する脂肪由来の幹細胞です。一般的なものはヒトの脂肪由来のものですが、稀にES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞で作られたものもあります。
ヒト幹細胞には、以下の2つ特徴があります。
- 自己複製能
- 多分化能
例えば、Aという細胞があるとして、このAという細胞をA1、A2……と複製する能力です。
皮膚や血液などの細胞は寿命が短く、補充していかなければなりません。この補充が追いついていないと、古い角質が残ったままになったり、血液が作られなかったりしてしまいます。
多分化能は、Aという細胞があったとしたら、B・C・D……と異なる細胞に分化させることです。この機能により、消えてしまった細胞の代わりとなる細胞を作り出します。
これらの機能は再生医療にも用いられています。ヒト幹細胞はこの2つの能力が揃っていなければなりません。
アンチエイジング目的で使用される幹細胞の種類
幹細胞はアンチエイジング目的で使用されることもあります。ここでは、ヒト幹細胞だけでなく、植物幹細胞と動物幹細胞についても解説します。
ヒト幹細胞
ヒト幹細胞の多くは、ヒトの皮下脂肪から採取した脂肪由来の幹細胞です。そのため、他の幹細胞よりも親和性が高く拒絶反応が起こりにくいことが特徴といえます。
ヒト幹細胞にはコラーゲン・ヒアルロン酸・エラスチンなどの成分を生み出しやすくしたり、活性化させたりします。そのため、肌の弾力が生まれ、若々しい肌へと導かれるでしょう。
また、表皮細胞を増やす効果もあるため、肌のターンオーバーが活発になります。これにより、古い角質が落ちて透明感のある肌へと生まれ変わるでしょう。他の幹細胞よりもアンチエイジング効果が期待できますが、価格が高額な傾向があります。
植物幹細胞
幹細胞が存在するのはヒトだけではありません。植物幹細胞は抗酸化作用と保湿作用の高さが特徴的な幹細胞です。抗酸化作用によってシミやくすみといった肌の老化を改善します。
また、保湿性があるので肌の水分不足を補う役割もあります。そのため、植物幹細胞の多くはスキンケア用品などに含まれていることが多いのです。
幹細胞配合だと高額になりがちですが、ヒト幹細胞よりも植物幹細胞の方が低コストです。しかし、ヒト幹細胞ほどの高い効果は、植物幹細胞で得ることはできません。
これは、ヒト幹細胞と植物幹細胞の仕組みが異なるためです。また、ヒト幹細胞のような親和性の高さがないので、アレルギー反応を起こす可能性もあります。肌が弱いと感じる方は、植物幹細胞は避けた方が良いでしょう。
動物幹細胞
動物幹細胞は動物から採取しており、主にブタ・馬・羊の胎盤を使用します。これらの動物はヒトの幹細胞と構造が似ているためです。動物幹細胞をヒトの皮膚に塗布すると、細胞が活性化するといわれています。
しかし、アレルギー反応や拒絶反応が出ることが多く、安全性が確保できていません。そのため、日本でヒトに対して動物幹細胞は流通しておらず、スキンケア用品にも含まれていないのです。
動物幹細胞はヒトが使用するとリスクが高いことから、アンチエイジングの効果は立証できていません。海外製のアンチエイジング商品に含まれていることがありますが、安全性の問題があるため使用は控えた方が良いでしょう。
ヒト幹細胞についてよくある質問
ヒト幹細胞の安全面や効果などを疑問に思う方もいるでしょう。ここでは、ヒト幹細胞についてよくある質問を3つに対して回答しています。
ヒト幹細胞は安全?
ヒト幹細胞の多くは人間から採取した細胞から作られているため、拒絶反応や副作用がほとんど出ていません。このことから、幹細胞の中でも安全といえるでしょう。
しかし、ヒト幹細胞をiPS細胞で作り上げている場合は、がん化を誘発する可能性があります。iPS細胞を使用したヒト幹細胞は一般的ではありませんが、ヒト幹細胞培養液が何から作られたものか確認することがおすすめです。
また、ヒト幹細胞美容液などにはヒト幹細胞は含まれておらず上清液が含まれています。また上清液以外の成分が含まれており、別の成分によってアレルギー反応を起こすことがあるでしょう。
ヒト幹細胞の効果が出るまでの期間は?
ヒト幹細胞の効果には即効性はありません。また、元々の状態にもよるため個人差があります。早いと1か月ほどで効果を感じる方もいますが、3か月〜半年が平均的な期間です。
ヒト幹細胞に関するあらゆる臨床試験でも、結果が出るまでに数か月かかっています。
身体の代謝は3か月がサイクルといわれており、効果が出ても定着するまでに最低3か月はかかるでしょう。ヒト幹細胞は体内に吸収後、消失する成分ではありません。
そのため、長期的にアンチエイジング効果を得られますが、持続時間にも個人差があります。これはヒト幹細胞の働き方や活発度合いが人によって異なるためです。
ヒト幹細胞の基礎化粧品も効果は同じ?
基礎化粧品にはヒト幹細胞そのものが含まれているわけではありません。そのため、ヒト幹細胞ほどの高い効果は期待できないと覚えておきましょう。
ヒト幹細胞の基礎化粧品に含まれているものは、ヒト幹細胞培養液や植物幹細胞が一般的です。これはヒト幹細胞を使用できるのは、厚生労働省が認可した医療機関に限られているためです。
そのため、基礎化粧品だけでなくエステでも、ヒト幹細胞そのものの効果を受けることはできません。また、基礎化粧品は商品によって、ヒト幹細胞培養液の濃度が異なります。
基礎化粧品の中でも、高濃度のヒト幹細胞培養液や原液を使用している商品がおすすめです。より高い効果を得たい方は、基礎化粧品ではなく厚生労働省に認可されている医療機関で、幹細胞治療を受けると良いでしょう。
科学的根拠や安全性の問題がクリアでき研究が進めば、今後ヒト幹細胞が関連する基礎化粧品の効果が高まる可能性があります。
まとめ
ヒト幹細胞培養液は、ヒト幹細胞と比較すると効果は劣ります。しかし、植物幹細胞や動物幹細胞よりも効果が期待できるでしょう。
また、親和性が高いことから拒絶反応を起こしにくく、副作用も出にくいとされています。特定の医療機関以外でヒト幹細胞の恩恵は受けられませんが、ヒト幹細胞培養液であれば基礎化粧品にも含まれています。
本記事を参考に、ヒト幹細胞培養液に興味を持った方は是非使用してみてください。特にアンチエイジングをしたい方におすすめです。
参考文献
- ヒト間葉系幹細胞の網羅的遺伝子発現解析ー無血清培地を用いたin vitro培養期間中の遺伝子発現の変化についてー
- 細胞の分化と栄養|公益社団法人日本生化学会
- 再生医療の安全性確保と推進のための枠組み構築に関するこれまでの議論のまとめ(案)
- iPS細胞の基礎と臨床
- ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針
- 55. 造血幹細胞の自己複製能・多分化能メカニズムの解明
- 植物幹細胞はなぜ機能しないのか?ヒト幹細胞培養液の成分と仕組みについて解説|国際幹細胞普及機構
- ヒト幹細胞臨床研究実施計画について
- ヒト幹細胞臨床研究実施計画について
- 幹細胞移植による組織再生研究の現状
- さまざまな動物種からiPS細胞を作出する方法の確立-幹細胞を用いた細胞工学の基盤となる重要なリソース-|慶應義塾大学
- 動物と植物に共通の幹細胞化誘導因子の発見|大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 基礎生物学研究所