注目のトピック

再生医療

再生医療に活用される歯髄幹細胞とは?特徴・歯髄再生治療について解説

再生医療に活用される歯髄幹細胞とは?特徴・歯髄再生治療について解説

いつまでも自分の歯で食事をしたいというのは誰もが考えることでしょう。しかし、現実は40代で平均1.5本・50代で平均2.5本、60代からはさらに加速して70代では平均5.5本の歯を失うといわれています。

医療技術が進歩するにつれて生まれたのが、歯を保存することを目的とした根管治療です。それでも基本的に一度失った神経は戻らず、神経を失った歯は脆くなったり変色したりします。

根管治療で神経を取った歯が再び自然歯のように再生できたらと考える方も多いのではないでしょうか。最近では一度取り除いた神経を歯髄幹細胞を利用して再生させる治療ができるようになっています。

この記事では再生医療に活用される歯髄幹細胞の特徴をはじめ、歯髄再生治療の流れ・今後のさらなる可能性についても解説しています。ぜひ参考にしてください。

歯髄は歯のどの部分にある?

歯は外側からエナメル質・象牙質・歯髄で構成されています。歯髄は歯の中心部分に位置しており歯根まで伸びています

歯髄は一般的に歯の神経と呼ばれているものです。ただ、神経だけでなく血液・リンパ管・免疫細胞をはじめとしたさまざまな細胞も通っています。

そのため、いわゆる歯の神経を抜く治療は神経・血管・細胞など歯髄すべてを取り除くことです。歯髄の主な働きは下記の通りです。

  • 象牙質の形成:歯の萌出・象牙質の形成・石灰化を行います。
  • 象牙質への栄養供給:象牙質へ栄養を送って歯の強度・潤い・しなやかさを維持します。
  • 外側からの刺激の伝達・防御反応:歯髄は歯のセンサーです。三叉神経と繋がっていて歯への強い衝撃・むし歯など外部からの異常事態を伝達します。

強い衝撃が加わったり、細菌に感染したりすると歯髄が死んでしまうことがあります。

歯髄を取り除いてしまうと歯の変色・細菌の侵入が起こりやすくなるため、むし歯・歯周病は早期発見・早期治療することが大切です。

歯髄を取り除くと外部からの異常事態があっても痛みは生じませんが、歯が細菌に感染しても気づきにくくなることが問題です。

また、象牙質の形成・栄養供給が行われなくなるため歯が脆くなり、歯根にヒビが入りやすくなります。

再生医療に活用される歯髄幹細胞とは?

幹細胞とは多分化能・自己複製能を持っている細胞です。多分化能は複数の細胞に分かれる能力で、自己複製能は分裂しても同じ特性を維持する力です。

様々な幹細胞がありますが、その中でも造血幹細胞・間葉系幹細胞(MSC)・神経幹細胞(NSC)の特徴を説明します。

造血幹細胞は骨髄にあり、赤血球・血小板など血液中に含まれる細胞のもととなる幹細胞となっています。

神経幹細胞(NSC)は脳内に存在しており、脳の神経組織を構成する細胞のもととなる幹細胞です。

歯髄幹細胞は間葉系幹細胞(MSC)に分類されます。歯髄以外に間葉系幹細胞(MSC)を採取できる場所は骨髄・脂肪組織・臍帯・胎盤などです。

間葉系幹細胞(MSC)は採取しやすいことから臨床試験への利用が増加してきました。そして、近年間葉系幹細胞(MSC)の中でも特に歯髄幹細胞を用いた再生医療が注目されています。

歯髄幹細胞の特徴

歯髄幹細胞には造血幹細胞・神経幹細胞(NSC)と共通する部分もありますが、大きく異なる特徴もあります。

また、同じ間葉系幹細胞(MSC)でも骨髄・胎盤などから採取する場合と比べてもメリットがあるといわれています。それでは歯髄幹細胞の主な特徴を見ていきましょう。

自己複製能がある

歯髄幹細胞をはじめとした幹細胞には自己複製能があります。これは自身をコピーしてまったく同じ細胞を作れる能力です。

この特性があることで幹細胞が分化したときに別の細胞になったとしても、体内に一定数の幹細胞を維持できます。

これによって人間は自身の身体を長期間あまり変化させずに保つことが可能となっています。

多分化能がある

幹細胞は自己複製能に加えて多分化能を有しています。これは細胞が増殖したときに別の特性を持ったものに変化する能力です。

例えば歯髄幹細胞であれば、分化して歯髄を構成する線維芽細胞・象牙質を形成する象牙芽細胞などを作り出せます。

自己複製能・多分化能の2つを持つ幹細胞は、200種類以上もの細胞を生み出して身体を構成するのに役立っています。

再生・分裂する能力を持つ幹細胞を培養して、目的の部位に移植することでケガ・病気を回復させようというのが再生医療です。

ただ、培養しても増えにくければ医療に利用するのに向いていません。その点、歯髄幹細胞は増殖能力にも優れています。

培養した場合、歯髄幹細胞は骨髄幹細胞よりも増殖スピードが3倍以上高いです。そのため、再生医療に歯髄幹細胞を用いることはメリットが大きいといえるでしょう。

年齢や性別を問わずに抜歯時に採取できる

歯髄幹細胞の大きなメリットは幹細胞の中でも特に採取しやすいことです。自然と抜ける乳歯をはじめ、やむを得ず抜いた永久歯・親知らずからも採取できます。

歯が抜けることは年齢・性別に関わらず起こるので、それだけ提供者を多く確保できます。抜けた歯から採取できる幹細胞は歯髄幹細胞以外にもあり、主なものは下記の通りです。

  • 歯髄幹細胞:歯の根がしっかり形成されている歯の歯髄から得られる幹細胞です。
  • 歯根膜幹細胞:歯根と歯槽骨を結び付け、衝撃を和らげる役割を持つ歯根膜から採取できます。
  • 歯小のう幹細胞:歯根が形成される前の歯の周りに付着している軟組織から採取できる幹細胞です。
  • 歯乳頭幹細胞:歯根を形成している途中の歯の先端に存在する歯髄から得られる幹細胞です。
  • 乳歯幹細胞:永久歯に生え変わる際に抜けた乳歯の歯髄から採取できます。

採取時の身体への負担が少ない

歯髄幹細胞は採取するときに身体への負担が少ないのが特徴です。同じ間葉系幹細胞(MSC)でも骨髄幹細胞は、全身麻酔後腰に注射をして採取するので2~4日間の入院が必要です。

また、脂肪幹細胞は局所麻酔を行って皮下脂肪から採取します。施術の所要時間は1時間ほどで日帰りが可能ですが、1週間後に抜糸が必要です。

どちらも身体への負担が大きいのはもちろん、通院・入院の手間もかかります。歯髄幹細胞は親知らずをはじめ健康な歯でも必要がなければ抜くことはなく、身体への負担も少ないです。

遺伝子が傷つきにくい

歯髄は硬い歯でガードされているため傷つきにくいです。特に歯髄幹細胞はがん化・腫瘍化する可能性が低いといわれています。

また、同じく再生医療に用いられるものとしてiPS細胞(人工多能性幹細胞)があります。

細胞を培養して人工的に作るiPS細胞(人工多能性幹細胞)は無限に増殖ができるというメリットがあるものの、懸念材料となるのががん化のリスクです。

一方、歯髄幹細胞はもともと体内にあるものなので細胞が寿命を迎えれば増殖しなくなります。そのため、がん化のリスクを低減させられます。

安全性が高いと考えられている

細胞移植において懸念されるもののひとつに拒絶反応があります。歯髄幹細胞を使用するメリットとして、拒絶反応が起こりにくく安全性が高いことが挙げられます。

歯髄幹細胞は他の細胞移植とは異なり、自分の幹細胞を治療に使用する自家細胞移植を行いやすいです。

また、他人の細胞だと異物と認識して攻撃反応が起こりやすいですが、そこでHLA(ヒト白血球抗原)の特性が重要となります。

HLA(ヒト白血球抗原)は白血球の血液型のようなものです。歯髄幹細胞の場合8種類のHLAハプロタイプホモドナーが集まれば日本人の人口の半分をカバーできるといわれています。

将来的に日本人全体をドナーとして乳歯・親知らずを集めることができれば、他の移植に比べてもHLA(ヒト白血球抗原)が一致しやすい幹細胞を揃えやすいです。

その点でも歯髄幹細胞による再生医療は安全性が高いといえるでしょう。

歯髄再生治療とはどんな治療?

歯髄再生治療といってもどのような治療を行うのか分からなくて、心配に思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。不安を減らすためにも歯髄再生治療の流れを把握しておきましょう。

歯を失った場合に自分の歯髄幹細胞を使用する治療

歯髄再生治療とはむし歯・歯周病・外傷などによって歯髄が死んでしまった歯を生きた歯に戻す治療です。

不用歯から採取した歯髄幹細胞を培養して、歯髄を取り除いた歯に移植することで健康な歯を取り戻します。

本来は死んでしまった歯髄を取り除き、根管治療を行うことでできるだけ歯を残すようにします。しかし、歯髄を失った歯は強度・しなやかさを失って脆くなるのが欠点です。

歯髄再生治療では歯髄が持つ象牙質の形成・象牙質への栄養供給・外側からの刺激の伝達・防御反応という役割も再び果たせるようになります。

そのため、歯の寿命が延びて、再び自分の歯で食事できるようになる治療です。

歯髄再生治療を行う前には歯髄幹細胞を移植する歯・抜歯する不要な歯・全身の健康状態の検査をします。また、血液検査・尿検査を行う歯科医院も多いです。

抜歯した歯などから歯髄幹細胞を採取する

歯髄再生治療では健康な状態の歯髄から幹細胞を採取する必要があります。そのため、乳歯・親知らずなど抜歯した不用歯を利用します。

採取した歯髄幹細胞を増殖させる

採取した歯髄幹細胞は培養して増やす必要があります。このときに役立つのが幹細胞が持つ自己複製能と多分化能です。

歯髄幹細胞は培養を行うため、一旦歯髄幹細胞バンクに送られます。歯髄幹細胞は増殖能力が高いため培養期間は1ヶ月ほどとなります。

根管内を無菌化する

培養した歯髄幹細胞を移植する前に、歯髄再生治療を行う歯に根管治療をします。まず細菌に感染した組織・壊死した組織をしっかり取り除きます。

根管治療と同様に再感染が起きないよう清潔な状態にしておくことが大切です。そのため、リーファーもしくはファイルと呼ばれる器具で歯の根を拡大・形成した後、根管内をしっかり消毒洗浄します。

歯髄幹細胞を根幹内に移植する

歯髄幹細胞の培養・根管内の無菌化、両方の準備が整ったら、いよいよ歯髄幹細胞の移植です。根管内への移植が終わったら、細菌などから守るためにセメント・歯科用レジンで仮の蓋をします。

その後は定期的な経過観察・レントゲン撮影によって再生具合を確認します。再生が完了したら患者さんの希望に沿った被せ物をして治療終了です。

歯髄再生治療には歯が長持ちしやすくなり、歯の変色を防ぐといった効果を期待できます。また、むし歯の重症化を防ぎ、子どもでも適応できるというメリットもあります。

ただし、治療期間が長くなりやすい・治療費用が高額というのが歯髄再生治療のデメリットです。

歯髄幹細胞を培養するために約1ヶ月間、個人差はありますが歯髄が再生するのに6ヶ月〜1年の期間が必要です。

また、先述したように歯髄再生治療は自由診療のため、治療費用の目安は60~90万円(税込)ほどとなります。

費用は歯の根が多いため、奥歯の方が高額になる傾向があります。歯髄再生治療を行える歯科医師がまだ少ないのもデメリットの1つです。

歯髄幹細胞を保存する歯髄細胞バンクとは?

抜け落ちた乳歯・抜歯した歯から歯髄幹細胞を取り出して、預けておける施設が歯髄細胞バンクです。歯髄細胞バンクでは採取した歯髄幹細胞の培養・冷凍保存を行っています

初期登録費用は33万円(税込)、登録期間は10年間です。登録更新料として13万2000円(税込)を支払うと登録期間が10年間延長されます。

抜歯した歯の中にある歯髄幹細胞を保存

歯髄細胞バンクに抜いた歯を預けると、歯髄幹細胞を培養して凍結した状態で保存されます。ただし、むし歯や歯周病で歯髄が汚染されているなど、歯髄再生治療に使用できない場合は保管できません

将来的な再生医療のために備えられる

できるだけ長く自分の健康な歯で過ごしたいという方は、抜け落ちた乳歯・親知らずなど不用のため抜歯した歯を歯髄細胞バンクに保管しておくことをおすすめします。

そうすることで将来的にむし歯・歯周病・外部からの衝撃で歯髄が死んでしまった場合でも再生できる可能性があります。

一度預けた歯髄幹細胞は登録更新をすれば半永久的に保管しておくことが可能です。また、歯髄幹細胞は培養して増やすため、何度でも再生医療に使用できます。

抜け落ちた乳歯を自宅から歯髄細胞バンクに送って預けられますが、感染を予防するため専用容器で保管する必要があります。

そのため、事前に歯髄細胞バンクから専用容器を送ってもらうか、歯科医院で抜歯したものを送ってもらうようにした方がよいでしょう。

歯髄幹細胞に期待できる歯以外の部位の再生医療

ラット・ウサギなどを用いた実験では、歯髄幹細胞による脊髄損傷・脳虚血・心筋梗塞・角膜上皮欠損といった全身疾患に対する再生医療の有効性が認められています。

抜髄・感染根管治療の症例は年間 2,000 万件にものぼるため、歯髄幹細胞は入手しやすいです。また、増殖速度が速く、さまざまな細胞に分化できる特性を持っています。

そのため、今後研究が進めば歯髄の再生だけでなく、脳梗塞・心筋梗塞の改善、骨・軟骨・血管・神経・歯周組織などの再生医療に役立てられることも期待されています。

まとめ

歯髄幹細胞は多分化能・自己複製能を持っており、増殖速度も高いことから再生医療において注目度が高まっています。また、骨髄など他の幹細胞より集めやすく、体への負担が少ないのが大きな特徴です。

そのため、将来的に多くのドナーを集めやすく、なおかつ適合するドナーを見つけやすいというメリットがあります。

歯髄幹細胞はすでに歯科医療において歯髄再生治療に利用されており、全身疾患の改善に役立つ可能性も秘めています

将来的には抜け落ちた乳歯・抜歯した歯を歯髄細胞バンクに預けるのが当たり前の社会となるかもしれません。

研究が進んで歯髄幹細胞によってより気軽に歯髄を再生でき、全身疾患の改善にも役立つようになることが期待されています。

参考文献

この記事の監修歯科医師
松澤 宗範医師(青山メディカルクリニック院長 慶応義塾大学病院形成外科)

松澤 宗範医師(青山メディカルクリニック院長 慶応義塾大学病院形成外科)

2014年3月 近畿大学医学部医学科卒業 2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医 2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局 2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科 2017年4月 横浜市立市民病院形成外科 2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科 2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職 2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長 2020年5月 青山メディカルクリニック 開業

記事をもっと見る

注目の記事

RELATED

PAGE TOP