「人工関節」という言葉を聞いたことはあっても、どのような手術か・費用はどのくらいかかるのかなど具体的には知らない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、人工関節に関する手術・気になる費用などを解説し、さらに手術や術後にかかる費用を大幅に抑える方法をご紹介します。
人工関節の手術を考えている、もしくは人工関節の手術に不安を感じている方の参考になれば幸いです。
人工関節置換術とはどのような手術?
人工関節置換術とは変形性関節症や関節リウマチ、あるいは外傷によって傷んだ関節を金属などでできた人工の関節に置き換え、関節機能を回復させる手術です。
関節の痛みの原因となっている部分を取り除くため、痛みの軽減効果が大きいのが特徴です。
対象の関節によって手術方法はさまざまで、例えば膝の関節であれば全体を人工関節に置き換える「全置換術」と、膝関節の傷んでいる部分だけを人工関節に置き換える「片側置換術」など手法が分かれます。
手術の対象となるのは、主に以下に当てはまる症状の方です。
- 筋肉訓練や注射などの治療方法では痛みの改善がみられない
- 痛みのために日常生活に支障をきたしている
- 関節が動かしにくくなり日常生活に支障をきたしている
人工関節にかかる費用
人工関節置換術について、「少し興味はあるけど費用はどのくらいかかるんだろう……」と心配になる方もいるかもしれません。
大掛かりな手術だから、きっと大金がかかるのだろうと予想される方も多いのではないでしょうか。
この項では、人工関節の手術を受けるとしてどのくらいの費用がかかるか・保険は適用されるのかなど気になるお金について解説し、費用に関する不安を取り除いていきます。
保険適用について
結論からいうと、人工膝関節置換術と人工股関節置換術はともに保険が適用されます。
医療保険が適用された状態での手術費用は、約60万〜80万円が相場となるでしょう。
また、後述の医療費助成制度を使用することで、自己負担を抑えられる可能性もあります。
人工関節置換術の費用
人工関節置換術にかかる費用は、医療保険が適用される前だと約200万〜250万円(税込)となります。
なお、この費用には手術費・入院費・麻酔費や薬代などが含まれています。差額ベッド代や食事代などは自分で別途支払う必要があるので、注意が必要です。
人工関節の費用の内訳
この項では、上記で説明した約200万〜250万円(税込)という費用がどのような内訳になっているのかを解説します。
医療保険でまかなえるため全額支払うことにはなりませんが、内訳をしっかり把握し、費用に関する納得や理解がしやすい状況にしておきましょう。
検査料
手術前には全身の健康状態を検査し、ほかの病気がないかどうか・手術が行える健康な身体かどうかを判断します。
さらに、股関節の手術の場合だと自己血貯血を術前に行う必要があり、この処置にもお金がかかります。
この自己血貯血とは、手術に際して予想される出血分をあらかじめ採っておく処置のことです。
上記を合計し、その他診療代などもプラスすると、検査料・術前の処置の費用は約5万円(税込)になるでしょう。
なお、保険適用なので自己負担額は5千〜1万5千円ほどです。
手術料
手術料、すなわち手術そのものにかかる料金は約37万円(税込)です。これは国で決められた料金なので、日本国内であればどの病院で、どの医師が行ってもこの値段になります。
また、手術に使う人工関節そのものの費用として、約45万〜60万円(税込)かかります。
麻酔料
人工関節を入れる際にかける麻酔は全身麻酔・脊髄くも膜下麻酔・硬膜外麻酔、またはそれらの組み合わせがありますが、多くの場合全身麻酔をかけて手術を行います。
これは、手術を受ける方が恐怖を感じることなく眠ったまま終了できるようにするためです。この麻酔にも別途料金が発生します。こちらは約6万円(税込)です。
入院費
人工関節置換術では、対象の関節にもよりますが約1〜3週間の入院が必要です。一日あたりの入院費用の相場(自己負担額)が約2.1万円なので、仮に2週間入院したとすると約30万円かかる計算になります。
薬代
厚生労働省が承認している薬であれば国が定めた価格で統一されているので、どの医療機関で手術を受けても価格にそこまで差異は出ません。
しかし、入院期間や使用する薬の種類・量などが人それぞれ違うため、料金を予測することは難しいです。
入院中の食事代
入院中の食事代については、一部を自分で支払う必要があることを覚えておきましょう。非課税世帯などでない70歳未満の方の場合、一食につき460円を負担します。
そのため、460円(一食)×3×入院日数といった式で入院中の食事代を計算することができます。
上記の自分で負担する金額のことを標準負担額といいますが、高額療養費の対象から除外されることとなっているため、注意しましょう。
また、460円として計算される食事は一日につき三食が限度である点も頭に入れておくと良いかもしれません。
なお、非課税世帯の場合は一食が210円になるなど、より安価で食事の給付を受けられます。
上のように標準負担額の軽減措置を受ける場合は、申請書に低所得の証明書を添付して全国健康保険協会に提出し、交付された認定証を医療機関の窓口へ提出するといった手続きが必要です。
人工関節置換術で使用できる医療費助成制度
ここまで人工関節置換術にかかる費用を解説してきましたが、非常に高額なので手術を躊躇する人もいるのではないでしょうか。
述べてきたとおり、保険が適用されても約60万〜80万円という高額な費用がかかりますが、国が用意している医療費助成制度によりさらに自己負担を抑えることが可能です。
ここからは、医療費助成制度である以下の3つについて、適用条件などの詳細を解説していきます。
- 高額医療費制度
- 限度額適用認定制度
- 自立支援医療
高額医療費制度
まず1つめは、高額医療費制度というシステムです。
高額療養費制度とは、1ヶ月の間に医療機関や薬局の窓口で支払った額が自己負担限度額を超えた場合、その超えた金額を国が支給する制度です。
ただし、まず自分で費用を負担したのち各種書類などを協会けんぽに提出し払い戻しを待つというシステムなので、一旦は自分で全額支払う必要がある点に注意しましょう。
払い戻しは医療機関等から提出される診療報酬明細書の審査を経て行われるので、診療月から3ヶ月以上かかります。
また、自己負担限度額は年齢や所得によって異なります。70歳未満だと
- 区分ア(標準報酬月額83万円以上の方・報酬月額81万円以上の方)は252,600円+(総医療費-842,000円)×1%
- 区分イ(標準報酬月額53万〜79万円の方・報酬月額51万5千円以上〜81万円未満の方)は167,400円+(総医療費-558,000円)×1%
- 区分ウ(標準報酬月額28万〜50万円の方・報酬月額27万円以上〜51万5千円未満の方)は80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
- 区分エ(標準報酬月額26万円以下の方・報酬月額27万円未満の方)は57,600円
- 区分オ(低所得者・被保険者が市区町村民税の非課税者等)は35,400円
上記となっているので、自分がどこに当てはまるかチェックしてみましょう。
限度額適用認定制度
2つめは、限度額適用認定制度です。あらかじめ高額な診療が見込まれる場合は、この制度を利用して医療機関窓口での1ヶ月の支払いが最初から自己負担限度額までにできます。
自己負担限度額以上を一度も支払う必要がない点が、高額医療費制度との違いです。
利用する方法としては、マイナ保険証を利用する・限度額適用認定証を利用するといった2通りがあります。
マイナ保険証を利用する場合は、医療機関等の窓口でマイナ保険証を提出し、「限度額情報の表示」に同意するだけです。
ただし、オンライン資格確認を導入している医療機関等でなければこの方法は使えません。
次に、限度額適用認定証を利用する場合は、少し複雑な手続きかつ時間が必要になります。
最初に限度額適用認定申請書を協会けんぽの各都道府県支部へ提出し、これが認められると、協会けんぽから限度額適用認定証が交付されます。発行には1週間程度みておくとよいでしょう。
そして交付された限度額適用認定証を医療機関の窓口で提示すると、同一医療機関の1ヶ月の支払い額が自己負担限度額までとなる仕組みです。
限度額適用認定証を利用する際は事前に少々準備が必要ですが、一時的にでも高額な費用を支払わなくてよくなる点は大きなメリットです。ぜひ活用していきましょう。
自立支援医療
最後に、自立支援医療があります。自立支援医療制度とは、心身の障害を除去・軽減するための医療について、医療費の自己負担額を軽減する公費負担医療制度です。
人工関節置換術はこの制度の適用内なので、活用することができます。
この制度では、所得に応じて1ヶ月あたりの負担上限額が設定されており、中間所得層の場合は総医療費の1割または医療保険の自己負担限度額のみを支払えばよいことになっています。
また、費用が高額な治療を長期にわたり継続しなければならない場合には、さらに自己負担が軽減されるのです。
この制度を利用し、費用を抑えて人工関節置換術やその予後治療を行うことができるでしょう。
人工関節の手術後にかかる費用は?
人工関節の手術は、手術をしたあとにもさまざまな費用がかかるケースがあります。この項では、主に術後のリハビリ・自宅をバリアフリーに改修する場合の費用をみていきます。
さらに、その費用を抑える方法も解説しますので、ぜひしっかり理解していざというときに使える知識にしてください。
リハビリにかかる費用
人工関節置換術後のリハビリは、基本的に術後早期から行います。多くの病院では専用のリハビリプランなども用意されており、歩いたり階段を昇降したりといった日常生活に必須な動きは退院までに練習できます。
そのため、基礎的なリハビリ費用は入院費の中に含まれているといえるでしょう。
しかし、退院後も継続的にリハビリを行っていくことが必要なので、定期的に通院したりリハビリ施設に通ったりする場合そのための出費は避けられません。
術後の経過や個人差はありますが、退院後も1ヶ月〜3ヶ月程度はリハビリに励む必要があります。
ただし、このリハビリの通院費は通常の診療と同様に医療保険が適用されますので、途方もない金額になることはないはずです。
バリアフリー化など自宅の改装費用がかかることも
人工関節置換術を行ったあと、万が一の転倒などを防ぐため、自宅をリフォームしてバリアフリー化を図る方もいるでしょう。
主なリフォーム内容としては、自宅の各所に手すりをつけたり段差をなくしたりする例が挙げられます。このように、自宅をバリアフリーな環境に作り変えたい場合には施工費用は必須です。
しかし、リフォームの際に介護保険制度を利用すると、自宅の改修費用の助成金が支給される可能性があります。
自宅に手すりを取り付けるなどの住宅改修を行いたいと思ったら、必要な書類を添えて、申請書を提出します。
工事が完成したのちにさらに領収書などを提出すれば、実際の住宅改修費の9割相当額が支給される仕組みです。
なお、支給金額の上限は18万円までであることに留意しましょう。
人工関節を入れると障害者手帳の交付を受けられる可能性がある?
結論として、人工関節置換術を受けただけで障害者手帳をもらうのは
ほぼ不可能に近いです。
そもそも障害者手帳とは、身体や心に何らかの障害を抱える方が、健常者と同等の生活を送るために最低限必要な援助を受けるための証明書です。
人工関節を入れた場合、術前よりも歩行能力が改善することから、上の条件には当てはまりません。
術後も関節の可動域制限などの障害が残っている場合のみ手帳が交付されますが、歩行や生活に困難がなければ受け取ることはできないとされています。
なお、以前(2014年まで)は人工関節置換術を受けただけで障害者手帳がもらえましたが、2014年以降は上記のような基準になっています。
まとめ
本記事では、人工関節置換術に関わる費用を包括的に解説してきました。
人工関節を入れる際は、手術代・入院費・術後のリハビリなどには保険が適用され、さらに医療費助成制度などで費用を抑えられることをご理解いただけたはずです。
さらに、術後のリフォーム費用まで助成される場合もあり、行政による金銭面でのバックアップは十分に用意されている状態だといえるでしょう。
この記事が、「関節の痛みに苦しんでいるけれど手術費用が心配」「保険が適用されても医療費が高額になりそう」などと悩んでいる方の参考になれば幸いです。
なお、医療費助成制度の項でも述べたとおり自己負担額などは所得や年齢によって変わりますので、まずはお近くの役所で相談することをおすすめします。
参考文献