注目のトピック

再生医療

造血幹細胞とは?移植・適応疾患・注意点を解説

造血幹細胞 とは

がん治療でよく聞く医療用語に、造血幹細胞があります。造血幹細胞の移植により、抗がん剤や放射線治療による免疫力低下のリスクを軽減することができるのです。

しかし、一体どのようなものなのか説明できる方は少ないのではないでしょうか。

今回は、造血幹細胞について知りたい方のために、どのようなものであるかを確認していきましょう。また、造血幹細胞移植の適応疾患・今後の展望や注意点についても説明していきます。

造血幹細胞について

造血幹細胞概要

造血幹細胞とはどのようなものですか?
造血幹細胞は骨髄に存在する細胞で、新しい血液細胞を生成する能力を持っています。新しい細胞を生成する方法として、赤血球・白血球・血小板に分かれて成長していく「分化」と、造血幹細胞と同じ性質を持つ細胞を複製する「自己複製」があります。
この能力によって、健康な身体の機能を維持し、外部の病原体からの攻撃や損傷から体を守ることができるのです。
造血幹細胞の性質について教えてください。
血液を構成する要素である「血球」は、赤血球、白血球、血小板の種類があります。造血幹細胞は、分裂を繰り返しながら、それぞれ赤血球・白血球・血小板の特徴を持つ細胞に成長していきます。赤血球はヘモグロビンを含み、血液中で肺や臓器など全身の細胞に酸素を運ぶ細胞です。そのため、赤血球が不足すると貧血が発生したり心臓・呼吸器へ負担が生じたりするなどの負荷につながります。
白血球は免疫系に関連する血液成分で、体を守るために感染を引き起こす微生物や異物などを攻撃する細胞です。血小板は体が傷ついた時に傷口をふさぐために凝集し、血液凝固を促進するために重要な役割を果たします。造血幹細胞がこのように細胞分裂を行って役割の異なる細胞に複製されていく過程が「分化」です。
また、造血幹細胞は自分と同じ性質を持つ細胞を複製する自己複製の能力を持っています。自己複製によって、造血幹細胞は繰り返し生成され、新しい血液細胞を生み出し続けることができるのです。
造血幹細胞は体のどこに存在するのですか?
造血幹細胞は、骨組織の一部である骨髄に存在します。骨組織は周囲を固い骨で囲まれた「緻密骨(ちみつこつ)」と、内部に空洞がある「海綿骨(かいめんこつ)」に分けられ、骨髄は、その海綿状の空間を埋める柔らかな組織のことです。
具体的には、骨の骨髄は骨の周囲をめぐる血管と骨髄の中央にある血管の隙間に存在しています。骨髄には多くの造血幹細胞が含まれており、その造血作用を必要とする患者さんに対して骨髄移植が行われることがあります。

造血幹細胞の移植や適応疾患

造血幹細胞の移植や適応疾患

造血幹細胞の移植はどのような疾患に適応されますか?
造血幹細胞の移植は、血液に関する疾患に対して適用されることがあります。まず、がんの治療を行う場合に造血幹細胞移植が使用されることがあります。がんの通常の治療法である抗がん剤の投与量や放射線療法の用量が一定の量を超えると、体内の健康な臓器にも影響が及ぶ可能性があるのです。これにより白血球が長期間減少して感染症や合併症が発生する可能性が高まるため、そのリスクを軽減する手段として造血幹細胞の移植が用いられます。
治療を開始する際にあらかじめ正常な造血機能を持つ造血幹細胞を採取しておき、後から移植します。これにより、通常よりも多量の抗がん剤の投与や放射線治療を行うことができるのです。そのため、造血幹細胞を移植することで、抗がん剤の効果を高めつつ、骨髄の機能を回復させることが可能です。
この治療法は、白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫などの血液がんに適応されます。さらに、ドナーからリンパ球を採取して患者さんに投与することにより、移植されたリンパ球ががん細胞を排除する免疫反応を引き起こしがん細胞を排除する効果も期待できます。
また、造血機能が低下した状態や遺伝性疾患による骨髄異常などに対しても、正常な造血幹細胞を移植することで骨髄機能を回復させることが可能です。
造血幹細胞移植の移植前処置の種類による分類について教えてください。
造血幹細胞移植の際には、さまざまな種類の移植前処置が行われます。これらの処置は、がん細胞をできるだけ減少させることや、ドナーの造血幹細胞を患者さんの免疫機能が排除しないようにする生着不全の予防などが目的です。移植前処置には大きく分けて2種類の強さがあります。
1つは従来より行われている前処置で、できるだけがん細胞を死滅させ、ドナーから移植された造血幹細胞を生着させる処置です。これを「骨髄破壊的前処置を用いた同種造血幹細胞移植」(フル移植)といいます。
もう1つは移植前処理の強度を弱めて合併症などのリスクを軽減させることで、高齢者や臓器障害がある方にも施術が可能となる処置です。こちらは「骨髄非破壊的前処置を用いた同種造血幹細胞移植」(ミニ移植)と呼ばれます。フル移植とミニ移植は、それぞれ以下の処置の組み合わせにより前処理が行われます。

  • 全身放射線照射(TBI)
  • ブスルフェクス(Bu)大量療法
  • エンドキサン(CY)大量療法
  • キロサイド(Ara-C)大量療法
  • フルダラ(Flu)療法
  • アルケラン(Mel)大量療法
  • サイモグロブリン/ゼットプリン(ATG)療法

前処置により食欲低下・腎機能障害・脱毛などの副作用が出る場合もあります。

造血幹細胞移植のドナーとの関係性による分類について教えてください。
同種造血幹細胞移植では、正常な造血機能を有するドナーからの造血幹細胞提供が不可欠です。患者さんとドナーは、ヒト白血球抗原(HLA)が完全に一致するか、または部分的に一致することが求められます。
ドナーを探す場合、まず、血縁者である兄弟姉妹や親子などの関係者からHLAが一致するドナーを探します。血縁ドナーが見つかったら、造血幹細胞移植に適しているかどうかの適格性判断が行われるのです。適格性の判断に用いられる選定基準は、医師の判断や検査、日本骨髄バンクの適格性判定基準などです。
これにより、安全で効果的な移植を行うことができるでしょう。年齢については、血縁ドナーの場合、一般的には18歳から60歳が条件とされています。しかし、特例として18歳未満や61歳から65歳の範囲の血縁者がドナーになる場合もありますが、その場合は慎重な適格性検査が行われます。
血縁者の中で適合するドナーが見つからない場合、日本骨髄バンクや公的さい帯血バンクを利用し、非血縁のドナーを探すこともあるでしょう。HLAが完全に一致しない場合でも移植ができるケースもあります。しかし、その場合は生着不全や移植片対宿主病(GVHD)などの発生を抑えるために、免疫抑制剤を使用してリスクを低減させる必要が生じます。
造血幹細胞移植の移植に使用する細胞による分類について教えてください。
造血幹細胞は骨髄に存在しますが、特定の状況では骨髄から血液中に流れ出すことがあり、この血液中に流れ出したものが末梢血幹細胞です。また、胎児の血液である臍帯血(さいたいけつ)にも多く含まれています。そのため、移植の際には、骨髄・末梢血幹細胞・臍帯血から造血幹細胞を採取し移植することが一般的です。
骨髄移植では、骨髄液を採取して移植します。一般的には、全身麻酔を行って骨盤の一部である腸骨から全骨髄液を採取するのです。この採取にはドナーに大きな負担がかかりますが、1回で必要な量を採取することができます。末梢血幹細胞移植では、ドナーの血液中の造血幹細胞を採取して移植します。血液中には通常存在しない造血幹細胞を、G-CSFと呼ばれる薬を使用して血液中に流れさせ、その末梢血幹細胞を採取するのです。
臍帯血移植は、出産後に臍帯血を採取し、その中に含まれる造血幹細胞を移植する方法です。この方法ではドナーへの負担が少なく、幹細胞は凍結保存されているため入手しやすいというメリットがあります。しかし、生着には3~4週間ほどかかり、採取できる細胞数も限られます。

造血幹細胞の今後や注意点

造血幹細胞の今後や注意点

造血幹細胞についてどのような研究が進められているのですか?
医学研究分野において、造血幹細胞に関する研究が活発に行われています。造血幹細胞は自己複製や赤血球・白血球・血小板への分化など、血液の構成要素を形成する重要な役割を果たします。
そこで、その性質を利用して血液のがん治療方法の開発をはじめとしたさまざまな研究が進められているのです。例えば、人間のさまざまな組織や臓器に分化する能力を持つ多能性幹細胞であるiPS細胞から造血幹細胞を作製する研究があります。iPS細胞から効率的に採取できるようになれば、骨髄バンクや臍帯血バンクへの依存が減り、血液がんの治療方法が大幅に進歩するでしょう。
また、従来は人間の体外で増やすことができないとされていた造血幹細胞を増やす研究も進められています。これによって少量の細胞採取でも移植が可能になるかもしれないとされているのです。
造血幹細胞の今後の展望について教えてください。
造血幹細胞についてのさまざまな研究が進められていることから、今後は一層効率的な採取が行える可能性があるといえるでしょう。
従来の造血幹細胞移植ではドナーからの移植が必要でしたが、少量の造血幹細胞から増やすことができれば、ドナーの負担が軽減されます。
また、移植を必要とするがん治療において必要な量の造血幹細胞を生成することが容易になれば、患者さんの治療法の選択肢も増えるでしょう。
造血幹細胞の注意点について教えてください。
造血幹細胞移植には、副作用や合併症が伴う可能性があります。その原因は移植前処置に関連するもの・免疫に関連するもの・移植後に長期間経過してから発生する晩期障害などさまざまです。副作用や合併症の中には、生着不全や拒絶などがあります。
これは患者さんの免疫細胞がドナーの造血幹細胞を攻撃し、造血機能の回復を妨げるために発生するものです。生着不全が起こると、再移植が必要な場合もあります。このような注意点を確認して移植のメリットとデメリットを理解し、治療方針を決定することが重要です。

編集部まとめ

編集部まとめ

造血幹細胞は、骨髄に存在して赤血球・白血球・血小板などの血液細胞に分化したり、自己複製を行ったりすることができる細胞です。がん治療や骨髄異常などの症状改善のため移植されることもあります。

造血幹細胞移植を行う場合、ドナーと患者さんのヒト白血球抗原(HLA)が一致することが重要です。血縁関係に基づいて探されるドナーのほかに、骨髄バンクや臍帯血バンクからもドナーが選ばれることがあります。

しかし、造血幹細胞の移植には副作用や合併症のリスクが伴います。これらのリスクを理解し、適切な治療方針を選択することが重要といえるでしょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
中路 幸之助医師(医療法人愛晋会中江病院 内視鏡治療センター)

中路 幸之助医師(医療法人愛晋会中江病院 内視鏡治療センター)

1991年に兵庫医科大学を卒業後、 兵庫医科大学、獨協医科大学を経て、1998年 医療法人協和会に所属。 2003年から現在まで、医療法人愛晋会中江病院の内視鏡治療センターで臨床に従事している。 専門分野はカプセル内視鏡・消化器内視鏡・消化器病。学会活動や論文執筆も積極的に行っており、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本消化器病学会専門医・指導医・学会評議員、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・学術評議員、日本消化管学会代議員・近畿支部幹事、日本カプセル内視鏡学会認定医・指導医・代議員を務めているほか、 米国内科学会(ACP)の上席会員(Fellow)でもある。

記事をもっと見る

注目の記事

RELATED

PAGE TOP

電話コンシェルジュ専用番号

電話コンシェルジュで地域の名医を紹介します。

受付時間 平日:9時~18時
お電話でご案内できます!
0120-022-340