再生医療は、平成26年に世界初のiPS細胞の移植手術が行われ、若返りの効果が期待できる新しい美容医療として注目され続けています。
肌の老化には、紫外線・乾燥・ターンオーバーの乱れなど、複数の要因が影響しています。
肌の美しさを取り戻す方法の1つが、肌の土台となる真皮にある幹細胞への再生医療です。
加齢により肌の働きは徐々に低下していきますが、再生医療の技術により肌のしわやたるみの改善など、エイジングケアが期待できます。
この記事では、再生医療による肌のエイジングケアの効果、再生医療の1つである幹細胞治療について解説します。
再生医療について知りたい方や、幹細胞治療を検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。
再生医療でのエイジングケアとは?
再生医療とは、もともと人間に備わっている細胞・組織の再生する能力を応用し、病気や外傷を治療することを目的とした医療です。
肌の老化には、以下のような原因があります。
- 紫外線
- 加齢
- ターンオーバー
- バリア機能の低下
- 乾燥
再生医療を行うことで、肌の細胞にアプローチし、肌の弾力性やしわの改善に効果がみられています。
またエイジングケアとは、年齢の変化にともなう肌の状態に応じて、化粧品などの効能・効果の範囲内のケアです。
現代の日本では、エイジングケアへの関心も高く、「美しさ=若さ」という考え方から美容外科医や形成外科医が増加しています。
再生医療では、肌の状態を改善し、外見的な印象を変えることが可能です。
再生医療による肌のエイジングケア効果
再生医療による肌のエイジングケアは、しわやたるみの改善などによる外見的な若返り効果が挙げられます。
再生医療で主に使用するのは、あらかじめ自分の細胞を採取し、培養した細胞です。アレルギーや拒絶反応のリスクが低いというメリットもあります。
では、詳しくみていきましょう。
肌のしわが目立ちにくくなる
加齢にともない肌の内部では脂肪が増えたり、筋肉が減ったりすることで、肌にしわが増えていきます。
また、肌のバリア機能が低下することから油分や水分が減り、肌の状態は徐々に悪化するかもしれません。
再生医療では、自分自身の正常な機能を持つ肌細胞を移植することで、コラーゲンやヒアルロン酸を生成し肌の状態の改善につながります。
そのため、内側から潤いや弾力のある肌になり、しわを目立ちにくくすることが可能です。
肌の内部から代謝を上げ効果が持続する
肌細胞は、表皮の下にある真皮に注入する方法もあり、肌の内部から代謝を上げられます。
真皮は肌の土台であり、真皮内の繊維が切れていたり、細胞が十分に働けなかったりするとコラーゲンが不足します。
肌の機能が低下すると、しわやたるみが増えるため、老けている印象を与えやすくなるでしょう。
そのため、真皮内に正常な働きができる細胞を入れることで、肌の内部からターンオーバーを正常化します。
肌組織の土台を治療するため、表皮を一部治療するよりも持続的な効果が得られるでしょう。
肌の老化の進行抑制
再生医療は、肌の老化の進行抑制に対しても効果があります。皮膚のエイジングケア治療は、もともと外用薬が中心でした。
しかし、現在では医療の発展とともに、レーザー治療・コラーゲンやヒアルロン酸の注入なども行われています。
肌の再生医療は、内部の細胞へアプローチができ、肌の組織自体を改善することが可能です。
そのため、一時的ではなく、改善した肌質は老化の進行抑制につながります。
施術の短縮化が期待できる
顔の印象を変えたい場合は、薬剤の注入により、顔のしわやシミを消すことも可能です。しかし、ヒアルロン酸であれば180日ほどで効果が消失します。
効果を持続的に得るためには、定期的な注入が必要です。一方で再生医療では、肌の土台にアプローチするため、長期的な効果が期待できます。
ただし再生医療の効果も永久的なものではないため、肌の状態は定期的にクリニックで確認してもらうことがおすすめです。
再生医療を利用しても肌の老化は緩やかにはなりますが、乾燥や紫外線などが原因で、元の状態に戻るデメリットも知っておきましょう。
また、培養した細胞を保管しておくことで、気になる部位へ複数回注入することもできます。
幹細胞治療とは?
肌のエイジングケアの方法として、「幹細胞治療」が挙げられます。幹細胞とは、人が生きている限り新しい細胞を作りだす能力を持った細胞です。
幹細胞は全身に存在しており、何かしらの理由で機能が低下すると、肌の代謝の低下につながり老化になります。
さらに、新生児の骨髄のなかにある幹細胞を1とすると、80代では新生児の1/200の数まで減少することがわかっています。
減少した幹細胞を補うことで、肌の状態を正常に整えることができ、結果としてエイジングケアにつながるでしょう。
現時点で幹細胞のなかでも有望視されているのは、「間葉系幹細胞」を使った幹細胞治療です。
体のなかにある間葉系幹細胞を取り出し、培養後に体内へ戻します。自分の修復したい部位のみに、注射などで投与することが可能です。
一方で、部位を特定できない場合は、点滴を使用して全身への投与も有効になります。
分化できる幹細胞組織
幹細胞組織は、さまざまな部位から採取が可能です。
しかし、採取する際の難易度や身体への負担を考慮すると、美容医療では脂肪由来の幹細胞を使う場合が多くみられます。 また、幹細胞は以下の2種類に分類されます。
- 組織幹細胞:決まった臓器や組織にあり、作れる細胞が決まっている
- 多能性幹細胞:人の身体の細胞であれば、どのような細胞でも作ることができる
治療する際には、細胞の特性を使い分けた治療も可能です。1つずつみていきましょう。
造血幹細胞
造血幹細胞とは、血液のなかに含まれている赤血球・白血球・血小板になる前の細胞です。骨の中心部にある骨髄と呼ばれる場所で、生成されています。
造血幹細胞が、赤血球・白血球・血小板へと変化する過程が「分化」と呼ばれます。
また、元の細胞とまったく同じ能力の細胞を作りだす能力は、「自己複製」です。分化と自己複製は、他の幹細胞でも同様の能力があります。
造血幹細胞を使用する治療法としては、白血病のような造血器腫瘍を発症している人が行う、造血幹細胞移植に用いられます。
血管内皮細胞
体内の血管と細胞を行き来している、酸素やグルコースのような物質の出入りを調節する機能ある細胞が、血管内皮細胞です。
血管内皮細胞のなかでも「CD157陽性血管内皮細胞」は、体外で培養したあとに体内に移植すると、損傷した血管の修復を行います。
そのため、CD157陽性血管内皮細胞は幹細胞としての働きを持っているとされています。
マウスの実験では効果が確立しており、さまざまな疾患において、今後の可能性が期待されている幹細胞です。
骨格筋細胞
骨格筋とは、人が意識して自由に動かせる筋肉です。
骨格筋は筋線維から構成されており、筋線維の間に「衛星細胞(サテライト細胞)」と呼ばれる骨格筋幹細胞が存在します。
衛星細胞は、筋肉を再構築する高い機能を持っています。そのため、再生医療において応用が期待されている細胞です。
筋ジストロフィーやサルコペニアのような、筋肉が脆弱になる疾患への治療法として期待されています。
神経細胞
神経細胞は、脳の発達に欠かせない細胞です。初めに、神経前駆細胞(神経幹細胞)が増殖し、神経細胞を生み出します。
神経細胞の大きな特徴は、情報処理と伝達に特化していることです。神経幹細胞による治療が必要な病気は、脳や神経に関する病気です。
脊椎損傷やアルツハイマー、パーキンソン病が含まれます。ほかにも、脳細胞が何かしらの障害を受けた場合の病気も対象です。
神経幹細胞による再生医療は、身体の機能を改善できる可能性があり、今後が期待されています。
上皮幹細胞
上皮幹細胞は分化すると、上皮細胞になります。
上皮細胞は身体の表面だけでなく、臓器の表面部分などにある身体の内外の表面にある細胞の総称です。
現時点では腸にある上皮幹細胞は、腸の上皮細胞になるように、組織ごとにある程度の分化の方向性がみられます。
上皮幹細胞を使用した再生医療の代表的な治療は、腸管上皮幹細胞・角膜上皮幹細胞です。
また、治療したい部位とは異なる部位から上皮幹細胞を採取・培養し、治療する方法も有効であると考えられています。
脂肪細胞
脂肪細胞は、身体のエネルギーを脂肪として蓄積しています。また、身体の外側からの圧力から内臓を守ったり、体温を維持したりする働きがあります。
脂肪細胞によって構成された組織は脂肪組織と呼ばれ、脂肪組織の中にあるのが「脂肪幹細胞」です。
脂肪幹細胞は美容医療でも使用されています。お腹や太ももから脂肪を採取・培養し、幹細胞の濃度を上げて気になる部位に注入します。
脂肪組織は、ほかの幹細胞と比較すると、簡単かつ大量に採取することが可能です。そのため、培養することなく注入する場合もあります。
美容外科では、エイジングケアとして乳房や顔に脂肪細胞を注入する方法を行っています。
ですが、脂肪幹細胞の治療は、臨床研究が不十分なため治療法として日本では認められていません。治療する際には、自由診療になるでしょう。
幹細胞治療による肌のエイジングケア
幹細胞治療による肌のエイジングケアについて、3つ解説していきます。
- 自家培養脂肪由来幹細胞による脂肪注入
- 真皮線維芽細胞療法
- 幹細胞培養上清液療法
順番に解説しますので、自分に合った治療法を検討していきましょう。
自家培養脂肪由来幹細胞による脂肪注入
1つ目が、自家培養脂肪由来幹細胞による脂肪注入です。脂肪組織から脂肪幹細胞を採取し、培養します。
その後、気になる部位に必要な分を注入する方法です。肌の土台である真皮から、肌の調子を整えて、若々しい肌へと導くことができます。
採取する細胞も自分の一部であるため、注入部位への定着率も高い傾向がみられます。培養は約2ヵ月かかりますが、脂肪注入は1時間程度で施術可能です。
費用は税込みで100万円以上かかり、また数千万円にもなる可能性があり高額といえるでしょう。
真皮線維芽細胞療法
2つ目は、真皮線維芽細胞療法です。真皮の細胞を培養し、注入する方法になります。培養する細胞は耳の後ろから採取します。
真皮線維芽細胞は、肌に必要なヒアルロン酸や、コラーゲン・エラスチンなどのタンパク質を生成しており、肌の健康を維持する働きがある細胞です。
加齢や紫外線などで減少した線維芽細胞を移植し、真皮に定着させることでエイジングケアを行います。
しわやたるみを改善し、老化を遅らせることが可能です。施術にかかる費用は税込みで、数十万円から数百万円になります。
細胞を摂取し5週間ほど培養しますが、治療は1CCあたり15分程度と短時間で終了します。
幹細胞培養上清液療法
3つ目は、幹細胞培養上清液療法です。先述した「脂肪注入」や「真皮線維芽細胞療法」とは少し異なります。
幹細胞培養上清液療法とは、幹細胞の培養に使用した溶液の上澄みを使用する方法です。
幹細胞培養液上清液で特徴として挙げられる点は、ほかの人の幹細胞を培養した際の溶液を使うことです。
幹細胞は含まれていませんが、上澄みのなかには500種類以上の細胞への成長因子が含まれています。
そのため、幹細胞治療に近いレベルでの治療が可能です。しわやたるみの予防や老化の進行抑制から、エイジングケアの効果を期待できます。
治療にかかる費用は税込みで、数十万円から数百万円になるでしょう。
幹細胞治療による肌のエイジングケアのリスクとは?
幹細胞治療では、自分の細胞を使用するため、免疫抑制やアレルギー反応が生じる可能性は低いとされています。
細胞を採取したり、注入したりする際に、局所的に発赤や腫脹などが起こる可能性があります。
ほとんどの症状は数日〜1週間程度で改善しますが、場合によっては、数ヵ月続くかもしれません。肌への異常がないか、クリニックへの定期的な受診が必要です。
また、細胞の採取時や治療時に感染症に罹患している方は、治療を受けることができません。
理由としては、培養する際に細菌やウイルスを増殖するリスクがあるためです。
少しでも体調に違和感がある場合は、体調を万全にしてからの治療をしましょう。
まとめ
インターネットが普及した社会では、外見にこだわる人が増加し、エイジングケアへの注目は高い傾向です。
人は老いたり、病気を発症したりしても、自分らしく生きていると感じることが重要とされています。
再生医療は、エイジングケアだけでなく、病気の治療としても期待されています。しかし、幹細胞治療はリスクがある治療法です。
病院を探している方は、治療実績の数だけでなく、再生医療等提供計画(治療)を国に届けしている病院か確認するようにしましょう。
幹細胞治療や別の再生医療を受けるかどうかについて悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。
参考文献
- 再生医療について|厚生労働省
- 美容医療 new horizon—幹細胞への期待—
- 力学的視点から見た肌の老化とシワの関係
- 皮膚の老化と再生医療
- 再生医療の未来について
- 日本化粧品工業連合会 化粧品等の適正広告ガイドライン 2020年版
- 高齢社会における美容の可能性 Possibility of Beauty in an Aged Society
- 体表の再建と再生医療
- C.真皮 dermis
- ヒアルロン酸およびコラーゲン注入後の皮膚組織反応の検討
- 皮膚をつくる幹細胞の同定に成功~古典的概念を覆す新しいモデルの提案~
- 加齢と幹細胞の関係|一般財団法人 日本再生医療協会
- 間葉系幹細胞の再生医療 Mesenchymal Stem Cell‒based Therapy
- 間葉系幹細胞を用いた再生医療
- 幹細胞の種類と特徴|一般財団法人 日本再生医療協会
- 造血幹細胞移植とは|国立研究開発法人国立がん研究センター
- 血管内皮細胞の階層性
- 血管内皮幹細胞の同定と血管新生・リモデリングのメカニズム|公益社団法人日本生化学会
- 骨格筋幹細胞と筋肉の再生|信州大学 農学部
- 骨格筋幹細胞と筋の恒常性維持|東京大学医科学研究所
- 筋発生再生分野|熊本大学発生医学研究所
- 神経前駆細胞・幹細胞から神経細胞を生み出す新メカニズムの発見 ~脳の進化や腫瘍形成の謎を解明する足掛かり~|国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
- 腸管上皮幹細胞
- 角膜内皮細胞移植|公益財団法人日本眼科学会
- 脂肪細胞,脂肪の合成と分解のメカニズム
- 脂肪幹細胞を用いた再生医療:美容皮膚科への応用
- 再生医療等安全確保法案について
- 幹細胞培養上清液について|一般社団法人 日本再生医療臨床学会
- メディアの影響による容姿格差問題〜醜形恐怖症とルッキズムの観点から〜
- 届出された再生医療等提供計画(治療)の一覧|厚生労働省