膝が痛むのにはさまざまな原因があります。成長の過程で痛むものもあれば加齢によるものもあり、病気が原因の場合もあります。体に痛みがあるときには、原因と症状のレベルに合わせて適切に対処し、治療を進めていくことが大切です。
今回は変形性関節症による膝の痛みについて詳しく紹介します。症状や治療法についても説明するので、ぜひ参考にしてみてください。
変形性関節症とは
中高年の方によく現れる膝の痛みですが、実は膝の痛みに悩む人のほとんどが、この変形性関節症という病気にかかっているのです。そもそも変形性関節症とはどんな病気なのかから説明します。
普段は、軟骨がクッションの役割をしているのでスムーズに体が動かせるのですが、そのクッションが減ったりなくなったりすると関節の動きが悪くなってしまいます。変形性関節症は、加齢や筋力低下によって軟骨がすり減ることで、骨同士がぶつかり、関節に痛みを生じる病気です。始めの頃は軟骨の厚みが減る程度だったのが、放置して重症化すると軟骨が完全になくなる部分が出てきてしまうので骨同士が直接ぶつかり、変形してしまいます。また、骨がぶつかり合うことで一方の骨が損傷したり、とげの様に変形したりして日常の動作が困難になる場合もあります。
変形性関節症は、膝の関節によく起こりますが、そのほか背骨や股関節、首や手、肩などにも起こる可能性がある病気なので注意が必要です。
変形性関節症の種類と症状
変形性関節症は、一次性関節症と二次性関節症に分けることができます。ここでは、どのようなポイントで一次と二次を見分けるのかについて説明します。また、変形性関節症は一気に痛みが生じるものではなく、段階的に進行していく病気です。病気のレベル別の症状についても説明します。
変形性関節症の種類
まず、関節痛の原因がはっきりとわからない場合を一次性関節症と呼びます。考えられる主な原因としては、加齢や肥満などが挙げられますが、仕事内容などにも要因があるといわれており、重労働で体を酷使している人や激しいスポーツを長年やってきた人なども、この一次性関節症になるといわれています。60歳以上の女性が特になりやすいとされていますが、今説明したように体型や仕事内容によっては若い男性でもなりえると考えて良いでしょう。
二次性関節症は、リウマチにかかったり関節のけがや病気を患ったりして関節構造が損傷したときに発症するものです。どちらの関節症にしろ、一度変形してしまった関節が自然に元の状態に戻ることはありません。普段から健康的な生活や運動を心がけ、関節に痛みや違和感を覚えたらなるべく早く医療機関を受診することが大切です。
段階別の症状
変形性関節症の症状は初期症状、中期症状、末期症状に分けることができます。ここでは膝の変形性関節症について、各段階の痛みの強さや症状の内容を説明します。
まずは初期症状からです。朝目が覚めて体を起こすときや立ち上がったときなど、体の動き始めに膝がこわばるのを感じたら変形性膝関節症になっているサインかもしれません。わかりやすいズキズキとした痛みはなくても、これまでにくらべて少し動かしにくい、重たく感じるというという場合は注意が必要です。正座や急な方向転換などの際に違和感を覚える人もいます。中には、なんとなく膝に鈍い痛みを感じるという人もいますが、しばらく動いていると自然と痛みも重たさもなくなっていくため、気にせずに放置してしまいがちです。
もう少し進行して中期症状になると、膝の痛みが消えづらくなってきます。動いていても安静にしていてもなかなか膝の痛みが治まらず、正座をしたりしゃがんだりするのが困難になります。この頃には階段の上り下りにも苦痛を感じ、膝が腫れたり熱を帯びたりすることもあります。また、膝の変形が出てくる人もいますし、歩くときに膝あたりからきしむような音がする人もいます。
末期症状の頃になると、減少していた膝関節の軟骨がほとんどなくなっている状態です。そのため骨同士が直接ぶつかってしまい、しゃがむ動作や階段の上り下りがつらくなるのはもちろんのこと、歩いたり座ったりするのにも痛みを伴うようになります。これまでできていた何気ない日常の動作全てに支障をきたすので、自然と行動範囲が狭まり、精神的な負担にもつながってしまいます。
基本的な治療法
先ほど一度変形した関節は自然には治らないと説明しましたが、膝の痛みを治療する方法がないわけではありません。ここからは医療機関で受けることができるさまざまな治療法について説明するので、ぜひ参考にしてください。
運動療法
まずは運動療法です。リハビリテーションなどを行い体を動かすことで、これまで動かしづらかった関節機能の動きを改善させることを目的として行うものです。人は、痛みを感じると、その動作を自然と避けるようになるので、次第に筋力が衰えたり関節の可動域が狭まったりしてしまいます。椅子や床に座った状態で膝をゆっくりと曲げ伸ばししてトレーニングすることにより、血行を促進したり緊張によって固まった筋肉をほぐしたりする作用が期待できます。インターネットでもさまざまなリハビリテーションが紹介されていますが、段階別に無理のない範囲で少しずつ行うことが望ましいので、一度医療機関を受診した上で始めると良いでしょう。
薬物療法
次は薬物療法についてです。運動療法を行っていても、痛み自体がなくなったり改善したりすることはあまり期待できません。そのため、膝の炎症ですでに悩んでいる方は、薬を使用して痛みや腫れを落ち着かせると良いでしょう。薬には外用薬と内服薬があるので、それぞれの特徴を知り、上手に使いわけましょう。
塗り薬や湿布などの外用薬は炎症を起こしている部分を局所的に落ち着かせることが期待できます。塗り薬よりも湿布などの貼り薬の方が肌に密着して効果が出やすいといわれていますが、よく動かす箇所はすぐ剥がれてしまう可能性があるので塗り薬を使用すると良いでしょう。
次に内服薬についても説明します。外用薬と違い、体全体にめぐるので、ひとつ飲むだけでさまざまな痛みを緩和できるのが魅力です。薬の飲みすぎが気になる人は、痛みを和らげる作用のある漢方薬を検討しても良いでしょう。なお、常時服用している薬がある場合は飲み合わせも気を付けなければいけないので、必ず医師に相談してから服用するようにしてください。
関節内注射
次は、注射でヒアルロン酸やステロイドを注入し、症状の緩和を目指す治療について説明します。薬物療法だけで症状のつらさが改善しない場合は、直接関節に注射を打つ治療法が効果的な場合があります。痛みが強い人にはステロイドを使用して炎症を抑えます。ステロイドは痛みや炎症を抑える作用が強い一方で、軟骨や骨の再生をストップさせてしまう働きがあるので、頻繁に注射することは避けるほうが良いでしょう。また、変形性関節症を発症している患者さんは関節の潤滑油のような存在であるヒアルロン酸も減っている状態です。そのため、ヒアルロン酸を適宜関節に追加することで関節の動きをなめらかにしたり、痛みを軽減したりする作用が期待できます。ヒアルロン酸は体にもともとある成分なので体になじみやすい一方、体内で分解されて排出されると効果がなくなってしまうので、1回きりではなく複数回持続的に注射することが必要となります。
手術療法
次に手術での治療についても説明します。これまで説明した保存療法で改善が見られない場合や悪化していく場合は、次のステップとして手術療法が検討されます。手術の中でもよく採用されるのは、関節鏡視下手術、高位脛骨骨切り術、人工膝関節置換術の3つです。
関節鏡視下手術は、膝に関節鏡という器具を挿入し、そこから削れた軟骨の破片を取り出したり軟骨の表面を整えたりすることで関節の動きをなめらかにする手術です。入院を伴いますが、切開は数mm程度なので、患者さんの負担が比較的少ない手術といえます。
高位脛骨骨切り術は、関節の下にある骨の一部を切り取って、膝にかかる負荷のバランスを調整する手術です。骨を切って自然とくっつくのを待つ方法なので、リハビリテーションを行いながらしっかりと歩けるようになるまでは半年ほどかかるのが一般的です。歩けない期間はどうしても筋力が衰えてしまうため、もともと筋力が低下している高齢者などにはあまり向いていません。
最後に人工膝関節置換術ですが、こちらは病気の進行が著しく、関節とともに骨まで損傷している場合に行う手術です。うまく機能していない膝軟骨の上下を薄く削り、そこに人工関節を挿入するものです。術後は3週間程度すれば歩ける場合が多く、入院も1カ月前後で終わります。
再生医療による治療法
「保存治療では改善しなかったけど、手術もなるべくしたくない」という人は、再生医療を検討してみてはいかがでしょうか。再生医療にもさまざまな種類があるので、幹細胞を利用した治療、PRP療法、APS療法に分けて説明します。
幹細胞治療
幹細胞は、自分自身を複製する能力(自己複製能)と、特定の種類の細胞に分化する潜在能力を持つ細胞です。脂肪や骨髄に存在する幹細胞を取り出して必要な所に移動させることで、これまで治療が難しかった部分を修復したり再生したりすることができるのです。膝軟骨のすり減りに対しても同じ再生医療を利用することができます。自分の体にある脂肪などから取り出した幹細胞を膝関節に直接注射することで軟骨の再生が期待できます。日帰りで受けられるものなので、入院するのが難しい方でも治療を受けることができます。
PRP療法
変形性関節症とは、患者さん自身の血液の中に存在する血小板を利用して治療する方法です。血小板は出血をとめたり傷を修復したりする働きをします。そのため、患者さんから採った血液の中から血小板を取り出し、それを膝関節に注入することで、膝の炎症や痛みを抑える作用が期待できます。ただし、幹細胞治療と違い、血小板には軟骨を作る働きはないので根本的な関節症治療ではありません。効果が期待できる期間は数か月程度です。
APS療法
PRP療法で作り出したものをさらに濃縮したものを、自己タンパク質溶液(APS)と呼びます。PRP療法で使用したものよりも、炎症を抑える物質が入っている割合が多いため、次世代PRPとも呼ばれ、より炎症や痛みを抑える効果が期待されています。PRP療法は関節の痛みに関係する筋肉や腱、靭帯に投与するものと定められている一方で、APS療法は関節に投与するものと定められているので、PRP療法よりもAPS療法のほうが、より変形性関節症に特化した治療法と考えられるでしょう。
再生医療による治療のメリットとデメリット
保存療法と手術、再生医療について紹介してきましたが、再生医療による治療はどのような人に向いているのでしょうか。メリットとデメリットそれぞれの観点から説明します。
メリット
これまでは変形性関節症で悩む患者さんへの選択肢は、保存療法か手術療法かの2つしかありませんでした。しかし、その2つの選択肢だけでは、保存療法では良くならないけど手術をしたくないという方や、どうしても入院ができないという方の希望に寄り添うことができず、何かを諦めてもらうしかありませんでした。そこで、注射するだけで治療ができる新しい選択肢として再生療法が今注目を集めています。人工関節を入れたくないけど痛みがひどくてどうにかしたい、という方などにもおすすめできる治療法です。
デメリット
とても魅力的な再生医療ですが、デメリットや気を付けなければいけない点もあります。そもそも再生医療は自身の細胞や血液を利用して治療するものなので、治療とその効果の持続期間には個人差があります。また、自身の治療時の血液や細胞の状態によっても効果は変動するので、安定した効果が得られない可能性があることも覚えておく必要があります。そのほか注射による副作用や、保険が利用できないなどの不安点もあるので、そうしたリスクを踏まえた上で治療を検討すると良いでしょう。
まとめ
いかがでしたか。日常生活に影響を及ぼす膝の痛みですが、さまざまな治療法があることをわかっていただけたでしょうか。どの方法にも向き不向きがありますので、膝に違和感や痛みを覚えたらなるべく早く医師に相談し、ひどくなる前に治療を開始しましょう。
参考文献