最近、膝の痛みがあるという人はいませんか。最初は軽い、あるいは鈍い痛みであったものが、徐々に悪化してきていて、心配になってきた。年齢のせいか、運動不足か、といったところも心配になることでしょう。もしかしたら、変形性膝関節症かもしれません。 違和感があった場合には、症状の軽いうちに、ぜひ医療機関の診断を受けるようにしましょう。本記事では、変形性膝関節症の原因や治療方法について紹介します。
変形性膝関節症について
変形性膝関節症とは
変形性膝関節症とは、関節の軟骨が劣化し関節が変形したり、痛みを引き起こす疾患です。正常な関節の場合、軟骨が関節を保護し、それがクッションの役割をしています。しかし、加齢や外傷により、軟骨は磨り減り、変形してしまいます。その結果、膝関節の痛みや腫れなどの症状が生じます。
進行度の自己診断方法
医療機関の診察を受け、変形性膝関節症と診断された場合でも、日常生活を送る中で、「自分が今、どのくらい進行しているのだろう?」「よくなっているのだろうか、それとも悪化している?」などの心配は尽きないことと思います。変形性膝関節症の進行度は、医療機関の診断による「ステージ分類」のほか、自覚症状からの分類でチェックすることができます。「ステージ分類」は、X線での撮影が必要な方法なので、診断時の検査で知ることができます。自覚症状からの分類では、自身が感じている症状から、進行度を測ることができます。あくまでも参考程度であるということを念頭に置き、心配な人はチェックをしてみるとよいでしょう。
1.初期:違和感、曲げにくさ
軟骨が擦り減り始め、その影響によって膝の動かしにくさ、違和感、強張りのような症状が現れます。しかし、この段階でも、X線検査ではほとんど変形は認められません。軟骨の変性が進行すると、関節軟骨のクッション機能が少しずつ失われていきます。また、滑膜(クッション機能を担う軟骨を覆っている組織)が炎症を起こし、強い痛みを感じることもあります。
2.中期:変形の進行、痛み
膝関節の変形が始まります。初期の強い痛みが一時的に和らぐことがありますが、その代わりに慢性化し、日常生活の中の動作にも影響が出始めます。例えば、階段の昇り降り、正座や立ち上がる際など、膝の曲げ伸ばしをする動作に支障が出ます。痛みをかばうために、膝周辺の筋肉や靭帯を動かす機会を避けるようになり、それが、膝関節の動きが固くなることを助長します。
3.末期:日常生活への支障
軟骨がほとんど擦り切れた状態まで進行してしまいます。クッション機能がほぼ失われ、大腿骨と脛骨が直接ぶつかることから、立つ・座る・歩くといった日常生活に於ける基本の動作がまともにできなくなります。人によっては、じっとしていても痛み、歩行にも杖や手すりの助けが必要となります。膝が完全に曲がらない、O脚になるなど、見た目にも進行が明らかになります。
変形性膝関節症の原因や誘因
それでは、変形性膝関節症の原因にはどういったものがあるのでしょうか。
加齢によるもの
最大の原因であり、誰にでも起こり得る変化として加齢が挙げられます。発症する人の割合が40代以降に多く、年代が上がるにつれて増加することからもわかります。これは、関節軟骨の中にあるヒアルロン酸が、加齢に伴い減少することで軟骨が傷つきやすくなると言われています。
筋肉量の減少・衰え
加齢が要因となるケースとセットになることが多い原因として、運動不足による筋肉の衰えがあります。脚の筋肉が衰えてくると、クッション機能を担う軟骨に傷がつきます。膝を動かしたとき、体重や運動時の負担がかかったときに、その衝撃を吸収しにくくなることで、痛みが生じます。
スポーツや転倒などによる膝関節の損傷
激しいスポーツ、交通事故、転倒などによる半月板や靭帯の損傷も、膝の関節を傷つけて、原因となることがわかっています。怪我をしたそのときには完治していたとしても、数年、数十年を経て中高年以降になってから、変形性膝関節症などの膝の病気になりやすいと言われています。
O脚・X脚
O脚やX脚などの脚の変形も、膝への負担が大きく痛みを生じやすい状態です。例えば、日本人に多いとされているO脚は、両膝の間が空くため体重のかかる箇所が偏り、特に膝関節の内側に大きな負担がかかります。O脚やX脚は元々の体質、骨格だから、と思うかもしれませんが、最近では器具を使用して矯正することができるので、予防として治すことも考えましょう。
エストロゲンの減少
エストロゲンとは女性ホルモンの一つです。変形性膝関節症の患者数は、男性よりも女性に多く、その男女比は1対4と言われています。軟骨の形成には、エストロゲンの働きが必要となりますが、女性は年齢を重ねるにつれて、特に閉経を迎える頃には、その分泌量が極端に減少します。それにより、変形性膝関節症になりやすくなってしまうと言われます。
肥満などによる体重の増加
当然ながら、体重が重ければ重いほど、歩くときに負担がかかりやすくなります。 歩行の際、膝にかかる負荷は、体重の約3.1倍と言われています。その分、軟骨や半月板が傷つき、発症しやすくなります。筋肉量減少への対策と合わせて、適度な運動をする習慣をつけるとよいでしょう。
変形性膝関節症の治療法
変形性膝関節症は少しずつ進行し、進行するほど、痛みが強くなり、日常生活に支障をきたすようになります。早めに治療を始めましょう。
運動による治療
運動によって症状の改善、回復を図る方法です。変形性膝関節症が進行すると、痛みで足を動かさなくなるので筋力が落ちてしまいます。そうすると、ますます膝への負担が大きくなるので痛むという悪循環に陥りがちです。ウォーキングやストレッチなどの簡単な筋トレで緊張した筋肉をほぐしたり、血行を促進したりすることができる上、運動習慣をつけるという効果もあります。ただし、激しい運動や無理は症状を悪化させる場合があるので、医師や理学療法士と相談しながら行います。
薬物による治療
変形の少ない初期の段階には、薬物を用いて炎症と痛みを抑える薬物療法も効果的です。特に症状の軽い場合には、炎症を抑えるクリームや軟膏などの外用薬や湿布が便利です。 痛みが激しい場合には、効果が早く出る内服薬もあります。薬局やテレビCMなどで、ジクロフェナク、ロキソプロフェン、インドメタシンなどの名前を見聞きしたことがある人も多いのではないでしょうか。これらは、非ステロイド系の消炎鎮痛剤です。ただし、副作用の心配があるので、長期間の使用は前提とされていません。
痛みが軽減されてきたら、外用薬に切り替えることが一般的です。 さらに痛みが激しい場合には、座薬が用いられます。薬を直接粘膜から吸収させるため、即効性が期待できます。こちらも、インドメタシンやジクロフェナクなどの薬があります。 膝の関節内に、減少してしまったヒアルロン酸を補うため、注射する治療法もありますが、こちらは継続的な通院が必要となります。 どの薬も、炎症を抑え、痛みを軽減することが目的であり、薬物療法によって根治するというものではありません。進行を防ぐためには、医師や理学療法士の指示の下で、毎日の生活習慣を見直すことが大切です。
手術による治療
運動やリハビリ、薬物による治療を数か月続けても効果がない、あるいは悪化している場合には、手術による治療を採るケースがあります。手術方法については、下記のようなものがあります。
(1)関節鏡手術
関節鏡という、細い管の先にライトと小型カメラがついた関節用の内視鏡を、膝の一部を切開したところから挿入して行います。初期の変形性膝関節症に対して行われる治療法です。加齢とともに生じた、膝の中のすり切れた半月板や軟骨のささくれなどのゴミを取り除く、掃除のような治療です。比較的軽微な手術ですが、膝の変形そのものを治すことはできず、一時的に痛みを除くための対症療法として行われます。
(2)骨切り術
骨切り手術は、比較的若い、40〜60代の仕事やスポーツを今後も積極的に行っていきたい人向けの手術です。O脚やX脚などの歪みにより、膝の内側や外側の軟骨や半月板が傷み、変形して痛みが生じます。この膝の変形を、骨を切って矯正するのが骨切り術です。骨を切って角度を調整し、体重が膝の真ん中で支えられるように偏りを矯正したら、それをキープするために、人工骨を間に挟み、金属のプレートで固定します。 この説明からわかる通り、術後に切った骨の部分の治癒と、痛みがなくなるまでに時間がかかる大掛かりな手術です。また、固定した金属プレートは数年後に取り除く必要があります。しかし、自分の骨を温存することができるため、スポーツ競技、肉体を使う労働に復帰することのできる可能性が高くなります。
(3)人工膝関節置換術
一般的に、比較的高齢の、変形が進んだ人向けの手術です。変形した膝関節の表面を薄く削り、人工関節に置き換えます。痛みの原因になる部位を金属で覆ってしまうため、術後、すぐに痛みの改善に大きな効果があります。全置換術(TKA)と単顆置換術(UKA)の2種類があり、膝全体の擦り減りと変形が進んでいる場合は全置換術、関節の擦り減りが外側あるいは内側だけの場合には、「そこだけ」置換を行う単顆置換術を行います。当然ながら、後者のほうが膝への負担も少なく、元々の膝の機能や感覚を活かすことができます。 どの手術方法にするかは、進行度や今後の生活によるので、主治医との相談が必須となります。
変形性膝関節症の最新の新しい治療法
最近では、前述の手術方法に加え、効果的と言われる新しい治療方法が用いられるようになっています。PRP療法と呼ばれる再生医療で、変形性膝関節症の治療に効果をもたらしているほか、美容外科やスポーツ医学でも選ばれることが増えています。
PRP療法について
PRPとは、Platelet Rich Plasmaの略語で多血小板血漿のことを指します。例えば、切り傷ができてしまったとき、傷が塞がり、瘡蓋ができ、やがて元通りになったことがあるかと思います。これは、血液の中に含まれる血小板に、組織を修復する能力のある成長因子が含まれているためです。 この血小板を遠心分離機で濃縮して採取したものをPRPと呼びます。これを患部に注入すると、PRPに含まれる成長因子などの働きによって、損傷した組織を修復し、痛みを軽減する効果があることが確認されています。
PRP療法の種類
PRP療法には、下記の2種類があります。 【PFC-FD療法】 自己血液からこのPRPを作成し、そこから成長因子を取り出して凍結乾燥(フリーズドライ)したものを注射する治療法で、成長因子がより高濃度となります。 【APS療法(次世代高濃度PRP)】 PFC-FDの高濃度の成長因子に加えて、さらに高濃度の抗炎症性物質が含まれています。 関節の痛みに特に効果的な治療方法です。強い消炎効果と長期間の持続効果があります。
PRP療法のメリット/デメリット
PRP療法は、前述の通り、自分自身の血液を使用するため、安全性が高く、免疫反応などの副作用の心配が少ないこと、体に負担が少ないことがメリットと言えます。 また、注射なので、手術とは違って入院する必要がないため、負担が少なく済むことも挙げられます。デメリットとしては、 自由診療のため治療費が自費となります。 副作用の心配は少ないとはいえ、一般的な注射同様、注射後に、痛みや腫れ、熱感、赤み、皮下出血が現れる可能性があります。しかし、これらの反応は一時的なものであることが多く、約一週間程度で改善します。費用に関して言うと、1回の治療で痛みが消える場合もありますが、必ずしも1回の治療で充分効果があるとは限りません。注射の回数が複数回に及んだ場合、その分、費用もかかります。
PRP療法にかかる費用
PRP療法は新しい治療方法であり、公的な保険適用ができない「自由診療」となります。保険診療であれば、自己負担額は治療費の一部で済むのに対し、自由診療では全額自己負担となります。治療を受ける医療機関や施術方法によりますが、一般的には、20万円から30万円ほどとなり、PFC-FD療法よりも、APS療法のほうが、その効果から高額となります。 治療方針決定の際に、主治医への相談、確認をしましょう。
変形性膝関節症でPRP療法が向いている人
PRP療法は、自己血液を採取し、個々人の血小板に含まれる成長因子の働きを利用する治療方法です。そのため、一般的な薬剤とは違い、効果にばらつきがあります。人の血液の中には多数の成長因子が含まれており、それが混ざり合った状態になっています。 その成長因子の割合や量には個人差があります。
個人の血小板やそれに含まれる成長因子の働きによって効果が変わるので、あまり働きが強くない人の場合には効果が薄かったり、逆に働きが強い人の場合は思った以上の効果が出るといったことが想定される治療になります。感染症を起こしたことがあると、この治療方法を採ることができない人もいます。血液検査などの結果によるので、詳細については主治医の説明を受けることになります。 また、できる限り手術をしたくないと考えている人、強い薬剤は副作用が心配だ、あるいは副作用が生じたことがあるという人にも向いている治療です。
まとめ
特別な要因がなくても、年齢を重ねると人はみんな関節軟骨は磨り減り、クッション機能は低下していくものです。そうなったときに、できるだけ長く健康的に過ごせるように、生活習慣を整えて、予防することが大切です。また、本記事で紹介したPRP療法のように、日々技術の進化により、安全で体への負担の少ない治療方法が一般的になりつつあります。変形性膝関節症と診断された場合には、それ以上の進行を防ぐために、できるだけ早く医療機関の診断を受けるようにしましょう。
参考文献