電車広告やネット広告などで、薄毛に関する情報を目にする機会は多いかと思います。では、若くても薄毛になってしまう原因や治療法はご存じでしょうか。本記事では、ヘアサイクルや抜け毛の原因、種類、治療の選択肢などについて詳しく解説しています。
ヘアサイクルとは
健康で美しい髪の状態を維持するには、ヘアサイクルを知ることが大切です。髪の毛が生え変わる過程を、成長期・退行期・休止期に分けて説明します。
定義
成長、退行、休止などのサイクルを経ることで、髪は周期的に生え変わります。退行期や休止期においては自然な抜け毛が発生しますが、成長サイクルが短縮して数週間から数カ月となると、薄毛が進行している可能性があります。毛根にも寿命があるため、早めの治療検討が重要です。
成長期
成長期とは、毛髪が盛んに細胞分裂する周期を指し、早期・中期・後期の三つに分類されます。早期は毛母細胞が何度も分裂し続ける状態、中期は毛髪の成長が盛んになり産毛が現れはじめる状態、後期は毛髪が太くなって成熟する状態を指します。基本的なヘアサイクルでは、成長期の毛髪は全体の80~90%を占めていると言われています。男性では3~5年、女性では4~6年にわたり、成長期が続くとされています。成長期が長く続けば続くほど、髪が太く長い状態が維持されます。逆に、1本1本の抜け毛が細く短い場合は、何らかの理由でヘアサイクルが乱れていることを疑った方が良いでしょう。
退行期
成長期の後に訪れる退行期では、髪の毛母細胞の分裂に不可欠な毛乳頭細胞からの指令や栄養供給が低下し、その結果として髪の成長が鈍化します。退行期は2~3週間続き、髪全体のおおよそ1%を占めます。毛根が弱くなるため、ブラッシングやシャンプーなどで髪の毛に触れると、毛が抜けます。
休止期
休止期は、髪の成長が停止し、毛乳頭細胞が縮小して指令や栄養の供給が中断される状態です。この期間は2~3カ月続き、髪全体の10~20%が休止期に入ります。その後、発生期に入ると毛乳頭細胞が再び活動を始め、新しい髪が成長して、古い髪は自然に抜け落ちます。休止期が長引くと、頭皮の血行が悪くなり、毛母細胞への栄養供給が不足し、新しい髪への生え変わりが妨げられます。
抜け毛の原因
抜け毛の原因には、男性ホルモン、遺伝、運動不足、睡眠不足、食事の偏り、薬剤の影響などがあります。それぞれの理由を解説します。
男性ホルモンの影響
男性ホルモンは、男女ともに分泌されるホルモンで、人体の機能に深く関与しています。AGA(男性型脱毛症)の主要な原因は、男性ホルモンの一種であるテストステロンが5αリダクターゼIIと呼ばれる酵素と結合することで、ジヒドロテストステロン(DHT)に変換され、毛根の成長に悪影響を与えることです。
遺伝
遺伝的な要因が抜け毛の一因であるとされ、遺伝子が髪の毛の特性や成長サイクル、そして脱毛症の発生に影響を及ぼすことがわかっています。親や身内に薄毛・抜け毛に悩んでいる方がいる場合、同様の問題が自身にも現れる可能性が高まります。将来的な抜け毛のリスクに備え、規則正しい生活習慣を維持したり、毛髪のケアをしたりすることが大切です。
運動不足
運動不足により、体内の血液循環が悪化し、頭皮への栄養供給が不足します。これにより、毛母細胞が十分な栄養を受け取れず、髪の成長が妨げられ、抜け毛が増加します。さらに、運動不足によって、セロトニンの分泌量が減少することも要因と考えられています。セロトニンは神経を鎮静化させる作用があり、運動不足によってその分泌が減少すると、神経が興奮しやすくなります。これが睡眠の質を低下させ、毛母細胞の正常な分裂を妨げ、髪の成長サイクルに悪影響を与えます。その状態のままでいると、男性型脱毛症の進行リスクを高めてしまいます。
睡眠不足
睡眠は身体を休ませるために重要であり、睡眠の質によって毛髪の健康状態が変わります。深い睡眠では成長ホルモンが分泌され、身体の細胞の修復や成長を促進します。そのため、ホルモンバランスが乱れると、薄毛になりやすくなります。また、運動不足と同様に、十分な睡眠が取れていないと血行不良を招きます。睡眠時間が短いと交感神経が優位になり、血管が収縮して血流が悪化するからです。これにより、毛根への栄養供給が減少し、抜け毛や薄毛の原因となります。
食事の偏り
髪や頭皮の健康に必要な栄養素が不足すると、髪の成長が妨げられる可能性があります。髪の毛の主成分はケラチンと呼ばれるタンパク質であり、その不足は髪のつやの喪失、パサつき、切れ毛、細毛などにつながります。食事の栄養バランスを見直し、髪の成長に不可欠な「タンパク質」「ミネラル」「ビタミン」といった三大栄養素を十分に摂るようにしましょう。日常生活で栄養バランスを保つのが難しい場合は、「暴飲暴食」「脂肪分・カロリーの高い食事」「過度なダイエット」などを避けるように意識することが大切です。
薬剤の影響
薬の副作用として、脱毛の症状が現れることがあります。この脱毛現象には、主に成長期脱毛と休止期脱毛の二つのタイプがあります。成長期脱毛は、例えば抗がん剤など、細胞分裂を抑制する作用を持つ薬物によって引き起こされます。毛母細胞の分裂が抑制され、その結果、服用開始から1~2週間で脱毛が始まります。薬物の使用を中止すると、脱毛も収束しますが、新しい毛が生えるまでには時間がかかります。一方で、休止期脱毛は降圧剤、高脂血症治療薬、中枢神経用薬、経口血糖降下剤、痛風の治療薬など、さまざまな種類の薬物に関連しています。これらの薬物は毛の成長サイクルに影響を与え、脱毛を引き起こす可能性があります。ただし、薬物の使用を中止することで脱毛も止まります。
抜け毛の種類
抜け毛はさまざまな要因によって引き起こされます。ここでは、男性型脱毛症(AGA)・円形脱毛症・びまん性脱毛症・ひこう性脱毛症・けん引性脱毛症・脂漏性脱毛症について紹介します。
男性型脱毛症(AGA)
AGAとはAndrogenetic Alopeciaの略称で、「男性型脱毛症」として知られています。発症すると、前頭部や頭頂部から髪が薄くなります。薄毛が進行する部分には個人差があり、「M型」「O型」などのタイプが存在します。前述したように「5αリダクターゼ」が毛乳頭細胞や毛母細胞に影響を与え、男性ホルモンである「テストステロン」を「ジヒドロテストステロン」に変換してAGAを引き起こします。
円形脱毛症
円形脱毛症は、円形や楕円形の脱毛が特徴です。予兆なく発症することがあり、他人の指摘によって気づくことも珍しくありません。病因は主に三つあり、一つ目は自己免疫疾患です。免疫機能の異常により、毛根が異物と見なされ、結果として髪が抜け落ちると考えられています。二つ目はアトピー素因であり、具体的な関連性は解明されていませんが、アトピー素因を持つ人は円形脱毛症にかかる割合が高いとされています。最後に、遺伝要因も影響しており、円形脱毛症を患った家族や親族がいる場合、発症リスクが高まると考えられています。
びまん性脱毛症
びまん性脱毛症は、主に40代以降の女性に見られる髪の抜け毛が全体に広がる状態を指します。男性も発症する可能性がありますが、男性型脱毛症とは異なり、頭髪全体が均等に薄くなるため進行に気づきにくい傾向があります。女性ホルモンの影響が大きく、加齢によるエストロゲンの減少や産後の急激なホルモンバランスの変化が原因の一つとして考えられています。
ひこう性脱毛症
ひこう性脱毛症は、頭皮から大量の乾燥フケが発生し、かゆみと脱毛を伴う状態を指します。フケが毛穴周辺に詰まることで毛根や毛穴に炎症が生じ、結果的に髪が細く弱くなり、脱毛が進行します。原因は多岐にわたり、皮膚アレルギー、ホルモンバランスの乱れ、生活習慣などが考えられます。フケが増えると、つい強力な洗浄力のシャンプーを選びがちですが、刺激が強すぎると症状が悪化する可能性があります。
けん引性脱毛症
けん引性脱毛症は、髪を引っ張ることによって引き起こされる脱毛症の一種です。例えば、ポニーテールや三つ編みなどのヘアスタイルが、けん引性脱毛症の誘因となります。この状態が持続することで、頭皮に損傷が生じ、髪の毛が抜けやすくなり、その結果として薄毛になることがあります。抜け毛を抑えるためには、頭皮への負担を軽減する工夫が必要です。ヘアスタイルを定期的に変えたり、髪を結ぶ際の力を抑えたりするようにしましょう。
脂漏性脱毛症
脂漏性脱毛症は、頭皮に赤み、フケ、かゆみが生じ、これに伴い抜け毛が増える状態を指します。主な原因は生活習慣の乱れで、脂っこい食事、飲酒、喫煙、不規則な睡眠、ストレスが皮脂の過剰分泌に関与します。また、頭皮の不適切な洗髪も抜け毛を促進させると考えられています。頭皮がベタつくことで、ニキビや湿疹が発生する可能性があるため、生活習慣の見直しが大切です。
抜け毛が治療できる病院
AGA専門クリニック・皮膚科・美容皮膚科のそれぞれの特徴やメリットについてお伝えします。
AGA専門クリニック
AGA専門クリニックでは、患者さんのお悩みをカウンセリングスタッフが受け、医師が毛根の状態を確認します。同時に、血液検査で健康状態を確認し、それに基づいて治療方針を立てます。処方される治療薬には、抜け毛を抑制するものや発毛を促進するもの、栄養剤などがあります。肝機能障害がある場合は、内服薬の副作用による健康への悪影響を避けるために、塗り薬への切り替えなど治療方法の変更が行われることもあります。近年では、再生医療を導入しているクリニックも増加しています。
皮膚科
皮膚科では、主に脂漏性皮膚炎や円形脱毛症など、皮膚トラブルに関連する抜け毛への対応が行われています。AGAは自由診療扱いとなり、一部の医療機関では対応していないことも珍しくありません。AGA専門クリニックと比較すると、皮膚科では処方される薬の種類が少ない傾向があります。
美容皮膚科
美容皮膚科も皮膚科と同様に、皮膚のトラブルによる抜け毛の治療が主です。AGAに関しては、投薬治療である場合がほとんどです。美容皮膚科で薄毛の治療を受けるメリットは、シミ・しわ・そばかすなどほかの悩みと並行して治療を行える点です。
抜け毛の治療薬
抜け毛の治療薬には、フィナステリドやデュタステリド、ミノキシジルなどさまざまな種類があります。髪の毛を増やす作用の裏には、副作用も存在しますので、薬の服用を検討する方は注意点もよく理解しましょう。
フィナステリド
フィナステリドは薄毛の進行抑制と改善が期待できます。ただし、副作用として肝機能障害、性欲減退、抑うつ症状などが出ることがあります。
デュタステリド
デュタステリドには薄毛の進行抑制、発毛促進作用があります。フィナステリドと同様に、性欲減退や勃起不全、精液の減少が副作用として報告されています。
ミノキシジル
ミノキシジルには、血行促進により毛母細胞を活性化し、発毛を促進する作用があります。ただし、初期脱毛により一時的に毛が薄くなったり、頭髪以外の毛が濃くなったりするなどの副作用が現れます。また、動悸や息切れ、立ちくらみなどの症状も報告されているため、使用時はこれらの変化に留意する必要があります。
再生医療を用いた抜け毛の治療
髪の健康や薄毛の治療において、近年注目を集めているのはPRP療法とACRS療法などの再生医療です。それぞれの治療法について紹介します。
PRP療法
PRP療法は、再生医療の一つです。PRPが毛母細胞に対して「抗アポトーシス」作用を引き起こし、これによって毛の成長期間の延伸、毛根周囲の血流を増加させることによる抜け毛の減少、薄毛の改善が期待できます。
ACRS療法
ACRS療法では、患者自身の血液から採取した上清液が使用されます。採取した血液は特殊な保温庫で1~3時間置きます。このプロセスによって、IL-1Raなどのサイトカインの濃度が約5倍に増加し、他の成長因子も複数倍に増加します。この上清液には、活性化された成長因子と高濃度な抗炎症性サイトカインが豊富に含まれています。これらの成分を頭皮に注入することで、頭皮の炎症が改善され、血管と毛包の再生が促進されます。
まとめ
最後までご覧いただき、ありがとうございます。薄毛にはさまざまな原因や病気があり、それに応じて治療方法やケアのアプローチが異なることを理解できたのではないでしょうか。治療を受ける場合は、複数のクリニックを比較検討し自分に合うクリニックを見つけてください。
参考文献