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多能性幹細胞って何?種類や医療への応用などと一緒に解説

多能性幹細胞って何?種類や医療への応用などと一緒に解説

私たちの体は無数の細胞からできていることをご存じですか? この中には、私たちの生命を支える「幹細胞」という特別な細胞が存在します。この幹細胞は、多くの可能性を持っており、医療の現場でも注目されている存在です。今回は、そんな幹細胞の中でも「多能性幹細胞」に焦点を当てて、その魅力や最新の研究についてご紹介します。知らない方も多いかと思いますが、この記事を読むことで、幹細胞の不思議さと医療への貢献の可能性を感じ取っていただけることでしょう。

多能性幹細胞について

多能性幹細胞について 私たちの体は、多くの種類の細胞から成り立っています。その中で近年、特に注目されているのが「幹細胞」です。幹細胞とは、一体どのようなものなのでしょうか。

幹細胞とは

幹細胞は、私たちの体の細胞の中でも特別な存在です。なぜなら、この細胞はさまざまな細胞に変わる能力を持っているからです。たとえば皮膚を切ったとき、新しい皮膚が再生するのは、幹細胞が皮膚細胞に変わってくれるおかげです。まるで魔法のように、必要なときに必要な細胞に変わってくれるのです。幹細胞は、以下の2つの能力を持っています。

・分化能
分化能とは、細胞が持っている特有の能力で、皮膚や血液、筋肉などの多種多様な細胞に変化することができる性質のことを指します。私たちの体は、数十兆の細胞でできており、その中には特定の機能を持ったさまざまな細胞が存在しています。例えば、皮膚細胞は私たちの体を守るバリアの役割を、血液細胞は酸素や栄養素を運ぶ役割を、筋肉細胞は動きをサポートする役割を担っています。

それぞれの細胞は、特定の役割や機能を果たすために、異なる形や特性を持つことが求められます。このようにして、特定の細胞に変化・変形する能力こそが「分化能」と呼ばれるものです。特に、幹細胞はこの分化能が高く、必要な細胞へと変わることができるため、医療の分野で非常に価値のある存在として注目されています。

・自己複製能
複数の細胞分裂を何度も繰り返しても、自分と同じ能力を維持することができる、つまりは自分と全く同じ細胞を再度複製することができる能力のことです。これにより、幹細胞は長い期間にわたり、体内でその活動を継続することができるのです。

私たちの体内で起こる多くの生命活動や修復作業は、この自己複製能を持った幹細胞のおかげで成り立っています。例えば、古くなった細胞や損傷した細胞を新しい健康な細胞で置き換えるといった日常のリニューアル作業には、幹細胞のこの特性が不可欠です。

また、この自己複製能の特性は、組織の損傷や病気の治療においても非常に価値があります。病気やけがで損傷した部分を修復するために、特定の細胞を大量に生産する必要がある場合、幹細胞のこの能力が役立つのです。これが、再生医療の研究で幹細胞が注目される大きな理由の一つとなっています。

幹細胞の種類

実は、幹細胞には多くの種類が存在します。大きく分けると「多分化能幹細胞」と「多能性幹細胞」の2つがあります。

・多分化能幹細胞
限られた種類の細胞にしか変化することができない幹細胞です。例えば、皮膚細胞や筋肉細胞など、特定の組織だけを再生する能力を持っています。体性幹細胞は、その一つであり、傷ついた組織や古くなった細胞を修復・更新する役目を持っています。

中でも、MSC(間葉系幹細胞)は注目されている多分化能幹細胞の一つです。MSCは、骨、脂肪、骨髄、歯の間質など、さまざまな部位から採取することができます。これらの間葉系幹細胞は、軟骨細胞、骨細胞、脂肪細胞など、特定の範囲の細胞タイプに分化することができる能力を持っています。

MSCの魅力は、比較的簡単に大量採取が可能であり、その後の培養も容易であるという点です。また、MSCは免疫系の細胞との相互作用も持っており、抗炎症作用や組織修復を助ける機能も研究されています。このような特性から、MSCは再生医療や炎症の治療、移植反応の抑制など、幅広い応用が期待されているのです。

・多能性幹細胞
さまざまな種類の細胞に変化することができる特性を持つ幹細胞です。このほとんどすべての細胞に分化できるという能力が多分化能幹細胞との違いとなっています。多能性幹細胞にはいくつかの種類があります。

多能性幹細胞の種類

多能性幹細胞の中には、さまざまな種類が存在します。中でもよく知られているものは、「ES細胞」「iPS細胞」の2つで、みなさんも耳にしたことがあるのではないでしょうか。ここでは、この2つの細胞について説明していきます。

・ES細胞(胚性幹細胞)
ES細胞は初期の胚から取り出される細胞で、さまざまな細胞タイプに変わる能力を持ちます。再生医療の研究などで使用されることが多く、例えば、網膜変性症の治療にES細胞を使用する試みが行われており、患者さん自身の失われた視覚を回復させる可能性が探求されています。しかし、ES細胞の取得には人間の胚を利用するため、倫理的な問題が常に議論の的になっています

・iPS細胞(誘導多能性幹細胞)
iPS細胞は体細胞から逆戻りさせて作られる幹細胞で、個人に合わせた臓器の再生などの研究が進行しています。iPS細胞の利点は、拒絶反応のリスクが低いことや、上記のES細胞のような倫理的問題が生じにくいことがあります。しかし、iPS細胞を作成する過程で、ゲノムに変異が生じるリスクや、がん化する可能性が指摘されているなどの問題点もあります。これらの安全性に関する問題は、臨床応用への大きな障壁となっており、解決へ向けた研究が続けられています。

多能性幹細胞の分類:iPS細胞について

多能性幹細胞の分類:iPS細胞について iPS細胞は、近年の医学界で非常に注目されている細胞のひとつです。iPS細胞は「誘導多能性幹細胞」とも呼ばれ、その名の通り、体の成熟した細胞を「逆誘導」(リプログラミング)することで、幹細胞に戻す技術から生まれました。これにより、患者自身の細胞を使って病気の治療や臓器の再生を目指す研究が進められています。

iPS細胞の活用例

iPS細胞の最大の魅力は、臓器の移植や再生医療における個別対応が可能となることです。すでにいくつかの病気で動物を使った実験や臨床研究などが進められようとしています。ここでは、例として2つの病気に対するiPS細胞の活用事例を紹介します。

・パーキンソン病の治療
パーキンソン病は、ドーパミン神経細胞が減少することにより手が震えたり体がこわばってしまうなどの症状が現れる一種の運動機能障害です。iPS細胞を活用した例では、iPS細胞からドーパミン神経細胞を作り出し、これを脳内に移植することで症状を改善する取り組みが行われています。

・心筋梗塞後の心筋細胞の再生
機能が低下してしまった心臓の筋肉は元の機能性を取り戻すことが現実的に難しいと言われていますが、死んだ心筋細胞の代わりになる細胞をiPS細胞から製造し、移植する取り組みが行われています。

iPS細胞の最新研究

iPS細胞の研究は日進月歩です。組織や臓器の3Dプリント技術との組み合わせで、患者さんごとに最適化された臓器を作製する取り組みや、疾患モデルの作成を通して病気のメカニズムを解明するなど、様々な応用が期待されています。活用例でも紹介したパーキンソン病や心臓組織の移植のほか、網膜の疾患や脊髄損傷患者への臨床試験、さらにはがんの治療法への応用などの研究が進められています。もしかすると、近い将来これまで治ることはないと言われていた不治の病や怪我などが完治する日が来るかもしれませんね。

多能性幹細胞の分類:ES細胞について

多能性幹細胞の分類:ES細胞について

ES細胞は、受精卵が数日経った段階で取り出される「胚盤胞」というものから採取される特殊な細胞です。ES細胞はiPS細胞と同じく多様な細胞に分化する能力を持っていますが、その起源や特性、利用方法にはいくつかの違いが存在しています。

ES細胞の活用例

ES細胞は、再生医療のフロンティアとして数々の応用が期待されています。

・神経系疾患の治療
IiS細胞と同様、パーキンソン病などの神経系の疾患の治療に向けて、ニューロンやその他の神経細胞を生成する研究が行われています。

・糖尿病治療
インスリンを産生するβ細胞をES細胞から作製し、糖尿病患者の治療に利用する研究が進んでいます。もしこの研究が進み実際に治療として広く浸透していくと、インスリン注射などの患者さんの負担がなくなり、治療に伴った低血糖などの症状もなくなるなど今後の進展に大きな期待が寄せられています。

iPS細胞との違い

iPS細胞とES細胞の最も大きな違いは、起源にあります。iPS細胞は体細胞を逆誘導(リプログラミング)して作られますが、ES細胞は胚盤胞から直接取り出される細胞です。しかしながら、この取得過程に倫理的な問題が生じることが指摘されておりそのあたりの問題を克服することができるかが今後のES細胞研究の課題となっています。

ES細胞の最新研究

近年、ES細胞を利用した「細胞シート」の開発が進められています。これは、薄いシート状になった細胞の塊を、傷ついた組織や臓器に張り付けることで、その部位の再生や機能回復を目指す技術です。また、医療分野での研究だけでなく食品研究の分野での活用も進んでおり、ウシES細胞を用いた培養肉の研究も進められています。これにより、牛の個体から継続的に採取をすることなく培養肉の生成を行うことができるようになることが期待されています。

多能性幹細胞とは異なる、体性幹細胞について

多能性幹細胞とは異なる、体性幹細胞について 体性幹細胞は、特定の組織や器官に特化して、その部位の細胞を再生する役割を果たすことができます。体性幹細胞は多能性を持たないため、iPS細胞やES細胞とは異なる特性と活用例があります。また分裂回数にも制限があるという研究もあり、そのあたりが、iPS細胞やES細胞と異なると言われています。ここでは、その体性幹細胞について活用例や最新研究などをご紹介します。

体性幹細胞の活用例

体性幹細胞は、iPS細胞やES細胞と同様に、再生医療に用いられていますが、日本では体性幹細胞由来の皮膚、軟骨、心筋、間葉系幹細胞の4種類のみが保険診療の対象となっています。ここでは、体性幹細胞を活用した活用例として、骨髄の中にある「骨髄幹細胞」、美容外科などに用いられる「脂肪幹細胞」について紹介します。

・血液の再生
骨髄幹細胞はさまざまな血液細胞に分化する能力を持ち、例えば白血病などの治療で骨髄移植が行われる際には、これらの幹細胞が中心となって治療に用いられます。しかしながら現状も問題もあり、骨髄幹細胞移植を受けても約30%の患者さんが白血病を再発すると言われています。

・美容外科
脂肪幹細胞は美容外科では豊胸の手段として用いられ、その方法としては、幹細胞を培養し活性化したものを脂肪とともに注入する手術となっています。少量の脂肪でも多くの脂肪幹細胞を注入できるため、痩せ型の人でもより大きなバストを目指せる豊胸手術として期待されています。

体性幹細胞の最新研究

近年、体性幹細胞を用いて損傷した組織や器官の修復、あるいは再生を目指す研究が盛んに行われています。特に、心筋梗塞後の心臓の再生や、脊髄損傷の回復に向けた研究が注目されています。

間葉系幹細胞

間葉系幹細胞(MSC)は、体性幹細胞の一種として知られ、その特性として多岐にわたる細胞への分化能力を持っています。特に、骨、脂肪、軟骨、骨髄のような細胞に分化する能力を持っています。

MSCは、多様な組織から採取することが可能です。最も一般的な採取源としては、骨髄や脂肪組織が挙げられます。骨髄からの採取は骨髄穿刺という方法で行われます。脂肪組織からの採取は比較的簡単な手術で可能です。近年では、歯の根の部分や臍帯血からもMSCを採取する研究が進められています。

MSCの利点としては、採取する際の痛みや発熱などのリスクが低い(低侵襲性)とされていることが挙げられており、こういった点から移植や再生医療の分野での利用が期待されています。また、MSCは細胞外の環境に応じて多様な細胞に分化する能力があるため、特定の治療目的に合わせて最適な細胞タイプへの誘導が期待されるというメリットがあります。

これらの特性を活かして、損傷した組織や臓器の修復、あるいは新しい組織の生成に関する研究が盛んに行われており、MSCの臨床応用が進むことで、多くの疾患の治療に革命をもたらす可能性があります。

間葉系幹細胞の医療への応用

その分化の多様性を活かし、骨折や関節炎の治療、さらには美容面での脂肪移植など、幅広い医療分野での応用が進められています。また、脊髄損傷や造血幹細胞移植後の急性移植片対宿主病の治療などに用いられるなどすでに医療への応用が進んでいます。

まとめ

まとめ 医学の進歩は日々驚くべきスピードで進行しており、その中心に立つのが幹細胞技術です。この技術の進化によって、今まで治療困難とされていた疾患や怪我の回復も可能となる時代が到来しようとしています。

多分化能幹細胞、多能性幹細胞とその下のカテゴリーであるES細胞、iPS細胞、体性幹細胞は、それぞれ異なる特性と機能を持ち、医学の分野で重要な役割を果たしています。iPS細胞は、患者さん自身の細胞から作成することができるため、拒絶反応のリスクが低いのが大きな特徴。ES細胞は、早期の胚から取得され、高い多能性を持つ点で注目されています。

これらの幹細胞を理解することで、医療の未来を切り開く鍵を手に入れることができるでしょう。日々の研究により、さらなる新しい治療法や応用が生まれてくることを期待していきましょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
山下 真理子医師(くみこクリニック京都駅前院)

山下 真理子医師(くみこクリニック京都駅前院)

京都府立医科大学医学部医学科 卒業 / のべ10年以上の美容皮膚科勤務を経て、現在はくみこクリニック北山院に勤務している。コロナ以前は、大阪医専にて、医療従事者の教育にも関わった経験がある。

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