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幹細胞治療とは?幹細胞による再生医療が効果的な疾患やリスク

幹細胞治療

幹細胞治療とは、傷ついた臓器や組織を細胞・組織・臓器の移植などの方法により、再生・回復させることを目指した再生医療の1つです。

今まで治療が困難だったり、不可能だったりした疾患や怪我に対して治療ができる可能性があり、幹細胞治療への期待は高まっています。また、自分の細胞を使う幹細胞治療は、身体内の免疫に拒絶されるリスクが少ないことも特徴です。

この記事では、幹細胞の種類や効果的な疾患・治療のリスクを解説します。幹細胞治療について知りたい方は、ぜひ参考にしてください。

再生医療に用いる幹細胞の種類

研究員

再生医療のなかの幹細胞治療といっても、細胞の種類は1つではありません。細胞の特徴に応じて、治療に使用する細胞を選択します。なかでも、細胞の種類は大きく3つに分類されています。

  • 体性幹細胞
  • ES細胞
  • iPS細胞

幹細胞とは、胚または生体の組織に存在する未分化な細胞のことです。幹細胞には、自己と同じ細胞を複製する自己複製能と、組織や臓器を構成する多種類の細胞に分化する多分化能の働きがあります。

幹細胞の種類・働きを1つずつ見ていきましょう。

体性幹細胞

体性幹細胞は組織幹細胞とも呼ばれており、造血幹細胞・神経幹細胞・間葉系幹細胞などに分類されます。

造血幹細胞は血液の細胞、神経幹細胞は神経の細胞のように、細胞には特定の役割があると考えられてきました。しかし、2002年に、骨髄の間葉系細胞に多能性を持つ幹細胞が含まれることが発見されました。多能性とは、神経・血液・筋肉・骨などさまざまな組織へ分化できる働きのことです。骨髄のほかに皮下脂肪内にも存在し、「脂肪由来間葉系幹細胞」と呼ばれていて、採取の簡単さだけでなく、採取できる量も多いため注目されています。

近年では、エイジングケアとして脂肪由来間葉系幹細胞を使用した美容医療での施術も行われるようになりました。シミ・しわ・たるみの改善により、若々しく健康的な肌質を得ることが期待されています。しかし、治療は自由診療になるため、数百万円程かかる場合があります。

ES細胞

細胞

ES細胞は胚性幹細胞とも呼ばれ、受精卵の細胞から体の細胞に分化できる多能性を持つ幹細胞です。

血液や神経などに関する細胞への分化の多能性だけでなく、ほぼ無限ともいえるような高い増殖能力を持つため、医療への応用も期待されていますしかし、ES細胞は受精卵を壊して作り出すため、生命の倫理的な問題が多い細胞でもあり、慎重な配慮が求められます。

日本では、2017年に医療を目的としたES細胞の利用が認められましたが、1つの命を犠牲にするという倫理観の問題は依然として大きな課題です。

iPS細胞

iPS細胞とは、人工多能性幹細胞とも呼ばれています。人の皮膚などの体細胞に特定の遺伝子を組み込むことにより、多能性をもつ幹細胞へと変化させた細胞です。

体性幹細胞やES細胞との相違点として、命を犠牲にせず増殖能力の高い細胞を作り出せることが挙げられます。一方、なぜ特定の遺伝子を組み込むと多能性幹細胞になるかは解明できていないため、安全性とリスクについては議論されています。

ほかにもiPS細胞の導入によるがん化の問題もあり、多くの解決すべき問題があることも否めません。

しかしながら、再生医療の実用化には日本のみならず、世界中で期待が寄せられています。

再生医療が効果的な疾患

怪我をしている人

再生医療では、皮膚・整形外科・眼科・心臓血管・神経への臨床研究が進められています。幹細胞治療を含めた再生医療は、以下のような疾患の治療にも効果的です。

  • 重症な火傷
  • 重症心不全
  • 水疱症
  • 外傷による軟骨の損傷

いずれの疾患も治療が困難であり、進行にともないQOLの低下や最悪の場合では死に至る可能性もあります。完全に回復するとはならずとも、再生医療により病状の改善を期待できるでしょう。

重症な火傷

重症な火傷とは皮下組織にまで影響が及んでいるⅢ度に分類されるものです。皮膚の再生が期待できないため、皮膚移植によって欠損を補うなどしてきました。

火傷による皮膚の欠損は、患者自身の細胞をもとにした培養表皮角化細胞シート「ジェイス」が適応になっています。ジェイスは、2007年に人の細胞を用いた日本で初めての再生医療製品として承認されました。

ジェイスを構成する表皮細胞が火傷した皮膚にくっつき、接着する働きを持った細胞分子を産生し真皮にくっつきます。細胞の増殖により、数年をかけて移植した細胞は正常な皮膚と同様の状態になり、現在は重篤かつ広範囲の火傷に限定の治療法です。

広範囲の火傷の患者さんへの使用は、全身状態の改善にもつながり、生存への効果も得られています。

ジェイスは火傷以外にも瘢痕・潰瘍などの皮膚疾患にも有効とされ、今後期待できる再生医療の1つです。

重症心不全

胸を押さえる人

重症心不全は進行性の疾患であり、心臓移植が重要な治療法でした。しかし、ドナー不足により手術を受けることが困難な状況です。

再生医療では、細胞を機能が低下している心臓へ供給するために、細胞シートを使用した治療法が検討されています。動物実験では心不全への効果が立証されており、現在は心不全を発症している患者さんへの臨床研究まで進歩してきました。

心不全の再生医療には、iPS細胞の使用が増加傾向であり、健康な心筋細胞を補填するような治療になると考えられます。

水疱症

水疱症のなかには、全身に火傷の水疱、潰瘍を形成する遺伝性水疱性皮膚難病のような表皮水疱症があります。生まれつき皮膚が剥がれやすく、わずかな外力でも皮膚が剥がれ水疱が生じるため、再生が間に合わず表皮細胞は減少していくでしょう。

この皮膚が損傷した箇所に骨髄内幹細胞が血液を介して移動し、皮膚を再生していることが発見されています。再生医療による治療法として、海外では健常者の骨髄由来培養間葉系幹細胞を皮下移植し、その有効性が明らかになりました。

日本でも、骨髄間葉系幹細胞を用いた水疱症への再生誘導医療の可能性が期待されます。

外傷による軟骨の欠損

問診

軟骨細胞は、神経や血管が存在せず、コラーゲン・ヒアルロン酸・水などで構成されています。

細胞内代謝が活発な軟骨細胞ですが、外傷を受けると修復に必要な栄養は供給されにくく、自然修復は困難です。軟骨の損傷が増加する、または損傷した周囲の軟骨組織が変形すると、変形性膝関節症を発症するでしょう。

現在では、骨髄・脂肪組織などの間葉系幹細胞を用いて、軟骨を再生する治療などが研究されています。日本も例外ではなく、患者さんご自身の軟骨組織・滑膜組織を培養した細胞シートで、軟骨再生を行った報告もあります。

変形性膝関節症のスタンダードな治療法として人工関節置換術が挙げられますが、耐久年数や適応の限界などの問題から、再生医療を用いた治療法の確立が求められるでしょう。

再生医療の効果に関する研究が行われた疾患

試験管を見る人

紹介した疾患のほかにも、さまざまな分野の疾患に再生医療の効果を確認する研究が行われています。

研究されている疾患のなかには、現時点では治療法が明確にされておらず、治すことができない疾患も含まれています。そのため、再生医療による治療ができる可能性があれば、大きな期待が寄せられるでしょう。では、順番に見ていきます。

滲出型加齢黄斑変性

加齢黄斑性は、老化により黄斑部網膜の老廃物を処理する働きが低下して発症すると考えられています。加齢黄斑変性のなかでも、滲出型加齢黄斑変性は進行が早く突然見えなくなる疾患です。

黄斑部に老廃物が沈着してしまうと、網膜の細胞や組織に異常が発症します。治療法として、抗VEGF治療(硝子体内注射)による対症療法がありますが、効果が無ければレーザー・手術による治療の対象です。

今までの治療法では根本的な解決にはなりませんでしたが、iPS細胞を用いた移植治療の臨床研究が開始され大きな期待を寄せられています。

網膜組織の修復・再生を促すことにより、目の機能を改善する治療ができれば、治療の幅は大きく広がるでしょう。

パーキンソン病

食事風景

パーキンソン病とは、脳の中脳黒質と呼ばれる部分で、ドパミン神経細胞が進行性に脱落することが原因で発症する疾患です。

手足の震え・こわばり・運動低下などの症状が見られます。ドパミンの補充を目的とした薬物療法により、症状を一時的に抑えることが可能です。しかし、治療を開始して5年以上経過すると効果が薄くなり、副作用が増強しやすくなります。進行は止められないため、対症療法といわざるを得ませんでした。

近年では、多能性幹細胞からドパミン神経の前駆細胞を誘導し、ドナー細胞としてパーキンソン病の脳へ移植する臨床研究が行われています。移植後は半年〜年単位の期間を経て、運動機能の症状改善が確認されていますが、パーキンソン病が進行しすぎた症例には有効性は高く期待できません。

パーキンソン病の治療は今までの治療法は継続して必要であり、再生医療は治療方法のオプションとしてとらえておくとよいでしょう。

進行性骨化性線維異形成症

進行性骨化性線維異形成症とは、常染色体優性の遺伝性疾患です。特徴として、全身の激しい関節拘縮や骨格筋などの異所性骨化が挙げられます。

運動や精神機能の発達にはほとんど問題がみられないものの、生まれたときから先天性の奇形が生じている場合がある疾患です。年齢とともに拘縮は進行していき、思春期以降は食事や運動などが困難になり日常生活動作(ADL)は著しく低下し、ベッド上の生活になり死に至る可能性があります。

手術のような外科的治療法では、損傷した部位の骨化につながるため、治療が困難とされていました。そこですすめられているのが、再生医療を用いた製薬です。

まず、進行性骨化性線維異形成症を発症している患者さんの細胞から、疾患の情報を持つiPS細胞を作り出します。培養した細胞に疾患の進行を抑制する成分を合わせ、効果的な薬を作り出す研究が進められており、今後が注目されている研究の1つです。

ペンドレッド症候群

耳

ペンドレッド症候群は、家族性の変動性進行性難聴・甲状腺腫・めまいを合併した症候群であり、常染色体劣性遺伝性疾患です。発症している患者数は多いものの、特異的な治療法はない状態でした。

長年の研究で疾患のメカニズムの解明は大きく進歩し、2013年からはマウスによる実験からヒトiPS細胞を使用した研究へと移行し、現在も進められています。疾患を発症している方から採取したヒトiPS細胞を用いることで、増殖させた細胞と薬の成分から効果を確認できました。

ほかにも、採取した疾患の原因となる遺伝子変異を正常化して、疾患のiPS細胞の変異が消失することも明らかになってきています。

根本的な治療は遺伝子治療になりますが、iPS細胞による研究で薬剤を用いた難聴の進行を抑制する治療が可能になるでしょう。

幹細胞による再生医療のリスク

診察

平成15年に文部科学省は「再生医療の実現化プログラム」を10ヵ年計画で開始し、その後iPS細胞という画期的な研究成果が出ています。

その後も研究は進められており、幹細胞治療には大きな期待が寄せられてきました。自分の細胞を採取し、使用する場合は免疫抑制の影響をほとんど受けずに治療ができるでしょう。

しかし、幹細胞治療をはじめとする再生医療には、以下のようなリスクもあります。

  • 幹細胞の種類
  • 投与方法
  • 品質
  • 染色体安定性
  • 造腫瘍性
  • 感染症

ES細胞では受精卵を用いるため、倫理的に問題があるとされています。ほかにも疾患がある人の細胞と健常者の細胞では、細胞のデータは異なるでしょう。

また、幹細胞の種類により発がん性への指摘もあります。体性幹細胞の発がんリスクはほとんど見つかっていませんが、ES細胞やiPS細胞のような多能性幹細胞では、発がんリスクが高いといわれています。発がんしなかった場合でも、多能性幹細胞は分化・増殖しやすい細胞です。治療の目的と異なる細胞の分化・増殖リスクも考えられています。

いずれのリスクも原因の追求や改善が求められています。しかし、幹細胞治療の臨床への期待値は高く、研究は今後も続けられるでしょう。

疾患の治療・予後のQOLの向上に向けて、安全性が高く効果的な治療ができる環境が整ったうえで、実用化を期待しましょう。

まとめ

看護師

幹細胞治療について解説しました。幹細胞治療のなかには実用化されているものも一部ありますが、多くの患者さんに提供するには時間と技術が必要です。

しかし、これまで治療ができなかった・困難だった疾患が治る可能性があることから、幹細胞治療のメリットは大きなものになっています。疾患の治療ができれば、患者さんのQOLの向上につながります。ほかにも、医療費を含めた社会保障費の抑制にもなるでしょう。

今後の幹細胞治療を含む再生医療には、大きな期待が寄せられています。

参考文献

この記事の監修歯科医師
松澤 宗範医師(青山メディカルクリニック院長 慶応義塾大学病院形成外科)

松澤 宗範医師(青山メディカルクリニック院長 慶応義塾大学病院形成外科)

2014年3月 近畿大学医学部医学科卒業 2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医 2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局 2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科 2017年4月 横浜市立市民病院形成外科 2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科 2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職 2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長 2020年5月 青山メディカルクリニック 開業

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