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再生医療

幹細胞治療以外の再生医療(PRPなど)|変形性膝関節症に対するAPS療法も解説

幹細胞治療以外の再生医療(PRPなど)

再生医療は、病気やけがなどによって機能不全になった組織や臓器を、人体の再生する力を利用して治すことをめざす医療です。

再生医療によって、これまで有効な治療法が見出せなかった疾患の治療ができるようになるのではないかと期待されています。現在のところ、安全性の高さを確保することと実用化の推進が急務の課題です。

ここでは、主に幹細胞以外の再生医療(PRPなど)について解説します。変形性膝関節症に対するAPS療法や再生医療の対象となる疾患の例も掲載しています。

この記事を読んで再生医療についてより一層理解を深め、治療の選択肢を広げていただけると幸いです。

幹細胞治療以外の再生医療の種類

実験道具

再生医療に用いられる幹細胞には、決まった細胞をつくり続ける組織幹細胞とES細胞・体性幹細胞・iPS細胞のようにさまざまな細胞をつくることのできる多能性幹細胞があります。

再生医療では幹細胞の性質を利用し、細胞そのものを薬として病気やけがの治療を行います。

一方、幹細胞ではなく血液の中の血小板に含まれる成長因子の力を利用して行う治療がPRP療法です。PRP療法では、患者さんご自身の血液を用いて血小板濃度を通常の血液の3〜7倍に濃縮した多血小板血漿(PRP)を使います。

このPRPに含まれる成長因子によって、人が持っている治す力を引き出すのです。血小板には組織の修復を促す働きがあり、幹細胞は実際に組織を修復できます。

PRPを凍結・乾燥させてパウダー状にし、生理食塩水などで溶いて注射するPRP-FD療法は、細胞から抽出した液を使用する治療法です。

PRP療法とPRP-FD療法は、いずれも血小板の成長因子を利用して本人の治癒力を高めるものですが、再生医療に位置づけられているのはPRPだけです。

また、再生医療で使用されるのは血小板だけではありません。ほかにもがん治療に用いられるリンパ球や、糖尿病患者さんのインスリンを不要にするために膵島の細胞が使用されます。

iPS細胞(人工多能性幹細胞)を脊髄や肝臓などのさまざまな組織に分化させ、病気やけがの治療に応用しようとする研究も進められています。

PRP療法が適用となる可能性のある部位

模型

PRP療法は、けがをしたりやスポーツで傷めたりした組織の再生を促す治療法です。組織の傷んだ部分を修復する効果があるのではないかと考えられており、広い範囲の運動器疾患への適応が期待されています

骨・軟骨

PRPには骨の再生を促す効果があるため、インプラント治療など骨造成手術に広く併用されています。スポーツ選手が骨折や捻挫をしたときなども、早期復帰をめざしてPRP療法を取り入れた治療を行います。

ただしこの治療法は、関節にPRPを注入して痛みや炎症を抑えることを目的としており、PRP自体が軟骨になるものではありません。そのため、軟骨の損傷が特に強い場合は効果が出にくい可能性があります。

靭帯

靭帯

靭帯に対してもPRP療法が注目されています。靭帯は、骨と骨をつなぐとともに関節を形成し、関節を適切な位置に保つ役割があります。

転倒や捻挫などで靭帯を損傷すると痛みや腫れ、可動制限が生じて関節が不安定になる症例にPRP療法が検討されるのです。

例えば成長期の子どもやスポーツ選手によくみられる野球肘は、肘内側側副靭帯などが損傷して生じるため、PRP療法の対象となります。

PRP療法は、本人の血小板に含まれる成長因子を利用して損傷した組織の修復力を促し、痛みの軽減や早期治療を目指します。

筋・腱

テニス肘

関節の筋肉や腱の炎症に関しても、PRP療法による早期回復や再発予防などの効果が期待できます。これまでの保存療法ではなかなか改善されなかった難治性障害にとって、新たな治療方法の一つになるのではないかと注目されています。

  • 上腕骨外側上顆炎(テニス肘)
  • 上腕骨内側上顆炎(ゴルフ肘)
  • 肩腱板損傷
  • 足底腱膜炎
  • 筋挫傷
  • 膝蓋腱炎
  • 肉離れ
  • アキレス腱炎

これらの疾患は、筋や腱に関連してPRP療法が適用になるものです。

神経

PRP療法は、末梢神経の機能再建をめざす治療の一つになる可能性が期待されています。

中枢神経(脳・精髄)以外の末梢神経には運動神経・感覚神経・自律神経があり、末梢神経に損傷があるとしびれや痛み、力が入りにくいなどの症状が起こるのです。

PRP療法を末梢神経損傷の治療に応用する研究では、動物実験で神経再生が優れ、神経細胞の増殖率が高いことが示されています。

変形性膝関節症に対するAPS療法とは

膝を抑える

変形性膝関節症は、加齢や肥満などにより膝関節の軟骨が摩耗・変形していく多因子疾患です。中高年の人の多くが罹患するこの疾患の予防・治療は、高齢化社会においても重要な課題です。

これまでは手術に至るまでの保存療法の選択肢が少ないことが問題でしたが、新たな選択肢の一つとして再生医療のPRP療法が誕生しました。さらに近年、PRP療法より高い効果と持続性が期待されるAPS(自己たんぱく質溶解液)療法が行われています

APS療法は、高濃度の成長因子と抗炎症性物質を用いて行われ、次世代型PRP療法と呼ばれる新しい治療法です。ここでは、変形性膝関節症に対するAPS療法について詳しく解説します。

多血小板血漿の脱水生成

血液検査

APS療法は、多血小板血漿(PRP)を遠心分離・脱水生成し、炎症を抑えるたんぱく質と成長因子を抽出した自己たんぱく質溶解液(ASP)を使って行われます。関節の痛みや炎症が軽減され、軟骨の変性や破壊を抑制する効果も期待できる治療法です。

APSは本人の血液を採取して作製するため、免疫反応が起こる可能性が低いと考えられています。患者さんへの処置は、PRP療法と同様に採血と膝関節注射です。

APS療法は、PRP療法の効果に加えて関節内で発症した炎症に対しても抑制効果が期待できるため、関節の中で起こる変形性関節症・骨壊死・離断性骨軟骨炎などにも適用されます。

抗炎症性サイトカインの抽出

膝関節の中には、大きく分けると2種類のサイトカインという低分子の生理活性たんぱく質があります。炎症を引き起こす炎症性サイトカインと、その活動を阻害して炎症を抑える抗炎症性サイトカインです。

変形性膝関節症は関節内でこの2つのサイトカインのバランスが崩れ、炎症性サイトカインの方が優位に活性化している状態になっています。その影響で痛みが出現し、関節軟骨の破壊が進むのです。

APSは脱水生成などPRPの特殊処理を行うことで、成長因子だけでなく抗炎症性サイトカインを高濃度に含んでいます。そのため、APS療法はPRP療法以上に炎症を抑えて痛みを軽減し、軟骨の損傷が進むのを予防する効果が期待できるのです。

再生医療の対象となる疾患

医師 診断

細胞や組織を用いて行う再生医療は、これまで治療が困難とされていた疾患に対して新たな治療の道を開く可能性があります。世界中でこの治療法に関する研究が進められており、日々新たな成果が取り上げられています。

再生医療における対象は、代謝性疾患・循環器系疾患・悪性腫瘍・消化器疾患・呼吸器疾患・運動器系外傷・免疫疾患などさまざまです。ここでは再生医療の対象となる疾患の例を5つ紹介します。

変形性膝関節症

膝が痛い 男性

変形膝関節症は、初期には歩きはじめなど動作の開始時に痛み、次第に正座や階段の昇降が困難になって歩行などの日常生活にも支障をきたすようになる疾患です。

外用薬・内用薬による薬物療法や訓練・温熱療法などの理学療法、運動などによっても症状が改善しない場合は、人工膝関節置換術などの手術を施行します。

近年、従来の保存治療では効果が少ないが手術するほどには変形が進んでいない、という患者さんにとって新たな選択肢となるPRP療法が開発されました。

PRP療法は、血小板に含まれる成長因子のはたらきによって損傷した組織を修復したり、疼痛を軽減したりする効果が期待できる治療法です。

さらに、このPRPに脱水生成などの追加処理を施して治療効果を増強させたAPS療法も行われるようになりました

ウィルソン病

ウィルソン病は、常染色体の劣性遺伝で遺伝する先天性の銅過剰症です。ATP7B遺伝子の変異によって銅の排泄が阻害されることで全身の臓器に銅が付着し、肝機能障害やさまざまな神経症状などの臓器障害を引き起こします。

ウィルソン病は、生涯にわたって適切な服薬による治療を続ける必要がある指定難病です。使用する薬剤には副作用もあることから、この病気の詳細な状態をとらえて新しい治療法を見出すことが課題となっていました。

近年、日本の研究グループはiPS細胞の技術でウィルソン病の病態を再現することに成功しました。これらの細胞を使った研究により、肝細胞の異常を緩和するATRA(オールトランスレチノイン酸)や、イレチノイドと呼ばれる物質が発見されたのです。

ATRAには、肝細胞に脂肪が溜まる異常でみられる活性酸素を減らすはたらきがあることもわかりました。この研究の成果は、ウィルソン病や関連疾患の新たな治療法の開発につながると期待されています。

再発または難治性のマントル細胞リンパ腫

マントル細胞リンパ腫は、白血球の中のリンパ球ががん化する悪性リンパ腫で、B細胞リンパ腫の一種です。

首や腋の下などリンパ節の多いところにしこりができて発熱や体重減少などの症状があらわれることもあり、分子標的薬と抗がん剤を組み合わせた治療や放射線による治療を行います。

こうした標準治療で十分な効果を得られなかったり再発したりした場合は、大量の化学療法や全身の放射線照射の後に低下した骨髄機能の回復を目的として造血幹細胞移植が行われます。

造血幹細胞移植では、あらかじめ採取した本人の造血幹細胞を用いる自家造血幹細胞移植が一般的です。

また血液のがんの新しい治療法として、本人の血液から免疫細胞の一種であるT細胞を採取し、免疫力を強化して体に戻すCRAT細胞療法が承認されました

この治療法は正常な組織を攻撃することがなく、ドナーを探す必要もありません。再発または難治性のマントル細胞リンパ腫などが治療の対象になっています。

多発性骨髄腫

入院している人

多発性骨髄腫は、白血球の中のリンパ球のうちB細胞から分化した形質細胞が骨髄腫細胞となって骨髄で増えていく病気です。

正常な血液細胞が生成されなくなって赤血球・白血球・血小板が減少し、貧血・鼻血・倦怠感・めまい・頭痛・食欲不振などの症状があらわれることがあります。

多発性骨髄腫では、分子標的薬や抗がん剤、ステロイドなどを組み合わせた薬物治療を行うのが一般的です。

年齢や体の状態、本人や家族の意向などを踏まえたうえで、大量化学療法と全身放射線治療による移植前処置を経て造血幹細胞移植を行う選択肢もあります。

また、一定の条件を満たす再発または難治性の多発性骨髄腫の治療を目的としたCART細胞療法が、再生医療として新しく早期使用ラインでの使用を承認されました。

今後も引き続き、患者さんの選択肢を広げる治療法の開発が期待されます。

ユーイング肉腫

ユーイング肉腫は、骨・軟骨・筋肉・神経などの非上皮組織に発生する悪性腫瘍で、小・中学生や高校生ぐらいの若年層に発生しやすいのが特徴です。

主な症状は間欠的な痛みや腫れなどですが、肉腫が骨盤などにあってしこりが触知されにくい場合は発見が遅れるかもしれません。ユーイング肉腫が進行すると骨や周囲の軟部組織に浸潤し、肺やほかの骨に転移していきます。

治療の三本柱は、薬物療法・手術・放射線治療です。まずは薬物療法で抗がん剤による治療(化学療法)を行い、その後に手術や放射線治療を行います。学校生活や将来への不安など患者さんの悩みに周りの人が寄り添い、声に耳を傾けることが大切です。

近年、大学を中心とした研究チームによって、ユーイング肉腫の治療に効果が期待できる免疫細胞(キラーT細胞)が作製されました

このiPS細胞由来のキラーT細胞は、動物実験で強力な抗腫瘍効果が認められており、実用化に向けて今後の研究に注目が集まっています。

まとめ

手を差し伸べる

再生医療は、従来の対症療法とは異なり細胞や組織の治す力を利用して治療を行う新しい医療です。これまで症状の改善が難しいとされていた疾患の治療ができるようになるなど、社会的に大きな期待が寄せられています。

一方で、再生医療は新しい医療であることから、医学的な検証を重ねるとともにルールや手続きを定める必要があります。多くの治療が自由診療で治療費が高額になるため、普及に向けた保険適用の拡大も課題です。

再生医療の倫理面にも目を向けなければなりません。臨床試験における参加者の権利と福祉を保護するための取組みも重要です。現在、各方面で研究が進められており、国でも審議会や検討会などで活発に協議されています。

再生医療の効果・注意点・課題などについて医療の受け手と担い手がともに正しく認識し、患者さん一人ひとりが本人の心身の状態や環境に合わせてよりよい治療を選択できるようになることが望まれます。

参考文献

この記事の監修歯科医師
松澤 宗範医師(青山メディカルクリニック院長 慶応義塾大学病院形成外科)

松澤 宗範医師(青山メディカルクリニック院長 慶応義塾大学病院形成外科)

2014年3月 近畿大学医学部医学科卒業 2014年4月 慶應義塾大学病院初期臨床研修医 2016年4月 慶應義塾大学病院形成外科入局 2016年10月 佐野厚生総合病院形成外科 2017年4月 横浜市立市民病院形成外科 2018年4月 埼玉医科総合医療センター形成外科・美容外科 2018年10月 慶應義塾大学病院形成外科助教休職 2019年2月 銀座美容外科クリニック 分院長 2020年5月 青山メディカルクリニック 開業

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