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再生医療で視神経は再生できる?iPS細胞を用いた再生医療も併せて解説

再生医療 視神経

視力の低下や失明の原因になる視神経の損傷は、現在の医療では治療が困難な状態です。しかし、近年の再生医療の発展により、将来的には視神経の再生が可能になるかもしれません。

再生医療とは細胞や組織、臓器などを人工的に作り出すことにより、損傷した部位を修復する医療技術です。特に、iPS細胞と呼ばれる万能細胞を用いた再生医療は、多くの研究が行われています。

本記事では、視神経の再生に関する研究結果や、iPS細胞を用いた再生医療のメリットや費用などを解説します。

視神経の再生医療について

研究員

再生医療とは?
再生医療とは、ケガや病気などによって失われた生体組織・臓器に対して、細胞・人工的な材料を積極的に使用して 再生を図る医療のことです。主に培養増殖した幹細胞を体内に移植し、人間の体に備わった再生する力を利用して、機能の回復を目指します。
幹細胞はさまざまな細胞に姿を変える力を持った細胞のことです。幹細胞にもさまざまな種類があり、人体のどのような細胞でも作り出すことができる細胞のことを多能性細胞といいます。
多能性細胞の一種が、ES細胞やiPS細胞と呼ばれるものです。再生医療の技術は、現在では難病の原因解明や薬の開発などにも用いられています。
再生医療によってどのようなメリットが得られますか?
再生医療を用いることで、副作用・感染・合併症などのリスクを軽減できる可能性があります。通常の薬剤治療や手術では、副作用や合併症などのリスクがあります。
それに対して再生医療では、患者さん自身から採取した幹細胞を培養して移植するため、拒否反応などの副作用が起こるリスクを軽減するのに役立つでしょう。従来の治療では根治が難しかった難病にも効果を期待できる可能性があります。
また、手術のような大きな跡を残さない再生医療も研究されています。多くの場合は入院も必要ないため、日常生活や仕事の負担にならないこともメリットとなるでしょう。
再生医療のデメリットを教えてください。
再生医療のデメリットは、すべての人に100%の効果が得られるわけではない点です。再生医療の効果や、その効果が持続する期間には個人差があるからです。治療効果が出るまでに数ヵ月かかる場合もあります。また、副作用は少ないとはいえ、出るケースもあります。
体の中に戻された幹細胞が痛みや腫れを引き起こすケースなどが挙げられるでしょう。再生医療は医療技術としての歴史は新しく、従来の治療法と比較すると、症例数はまだまだ少ないです。有効性や安全性が確認されていないものも多くあります。
別のデメリットとして、費用の問題も挙げられるでしょう。ほとんどの場合は自由診療となるため、治療費は高額になりがちです。
視神経の再生医療について教えてください。
視神経は眼球で集められた外界からの光の情報を脳に伝える神経線維の集まりで、中枢神経といわれるものです。視神経に障害が起こる病気を視神経症といい、原因は炎症・血流障害・腫瘍・外傷などさまざまなものがあります。これまで視神経のような中枢神経は、一度障害があると再生は不可能といわれてきました。
しかし、 iPS細胞やES細胞を使って視神経を再生させる治療法が考えられています。実際に、iPS細胞・ES細胞から長い軸索をもつ網膜神経節細胞(RGC)を自己的に分化させることに成功した研究例が報告されています。これにより、ヒト細胞を用いた視神経の研究を試験管内で行うことが可能となりました。
このように、網膜の細胞作成の研究は成功しており、視神経の研究も進んでいます。そのため、近い将来、視神経の分野でも再生医療を使った治療が行われるようになる可能性があるでしょう。

iPS細胞を用いた視神経の再生医療について

iPSと虫眼鏡

iPS細胞とは何ですか?
iPS細胞とは、 人工的に作られた多能性幹細胞のことです。多能性幹細胞とは、培養すれば、骨・心臓・神経・血液など人体を構成するどのような細胞にも分化する性能を持った細胞です。
人体では胚や臍帯血に存在しますが、倫理的な問題や供給量の限界があります。iPS細胞は皮膚や血液などから採取した細胞に特定の遺伝子を導入し、リプログラミングといわれる細胞の初期化を施します。
このようにして、さまざまな細胞に分化する多能性を持つようになったものがiPS細胞です。
視神経の再生医療の一つであるiPS細胞を用いた治療とはどのようなものですか?
視神経は目から脳へと視覚情報を伝える神経です。視神経が損傷すると、視力が低下したり、失明したりする可能性があります。視神経は一度損傷すると自然に修復されることが難しいといわれている中枢神経です。
しかし、iPS細胞を用いた治療では、iPS細胞から作った視神経細胞を患者さんの眼球内に移植することにより、 視神経の再生を促すことが期待されています。現在はiPS細胞から視神経細胞が作られ、神経としての機能を示す軸索流や電気生理反応が認められています。
今後は、iPS細胞から作った視神経細胞を用いることにより、さまざまな視神経疾患に対して原因解明・診断法の開発・創薬などの可能性があるでしょう。
iPS細胞を用いた視神経の治療はどのような疾患に効果がありますか?
視神経の疾患には大きく分けて、視力低下や中心暗点などの症状が現れる視神経症と、炎症による視神経炎があります。視神経症の場合、原因により症状は異なることが特徴です。原因は、遺伝性・循環障害・圧迫・栄養障害・中毒・外傷などさまざまなものがあります。
視神経炎は通常片目に起こり、目の奥に痛みがあるほか、急激な視力低下を引き起こします。原因はウィルス感染や多発性硬化症などがありますが、原因不明であることも珍しくありません。iPS細胞を用いた視神経の再生医療では、こうした疾患により損傷した視神経の修復が可能になると考えられています。
緑内障に対する視神経の再生医療について教えてください。
緑内障は眼圧が高くなることにより、視神経が圧迫されて損傷する病気です。進行性の疾患であり、放置すると失明に至る危険性があります。
現在の治療法は、眼圧を下げる薬や手術などにより進行を遅らせる治療が一般的ですが、一度損傷した視神経は再生できません。しかし、iPS細胞を用いた視神経の再生医療では、損傷した視神経にiPS細胞由来の神経細胞や支持細胞を移植することが考えられています。
こうした治療により、視神経の機能を回復させることが目指されています。こうした治療法は今のところ研究段階ですが、将来的には多くの緑内障患者の視力改善に貢献する可能性があるでしょう。

編集部まとめ

ガッツポーズをする医療スタッフ

本記事では、再生医療で視神経は再生可能かどうかや、iPS細胞を用いた再生医療を解説しました。再生医療は、損傷した視神経を修復するための有望な技術です。

特にiPS細胞を用いた再生医療は、自分の細胞から作られた視神経の移植により、拒絶反応や倫理的な問題を回避できると期待されています。しかし、まだ臨床応用はされておらず、安全性や効果性などの検証が必要です。

今後も視神経の再生に関する研究が進められることにより、失明の予防や治療に役立つことが期待されるでしょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
柳 靖雄医師(横浜市大 視覚再生外科学客員教授 お花茶屋眼科院長)

柳 靖雄医師(横浜市大 視覚再生外科学客員教授 お花茶屋眼科院長)

東京大学医学部卒業(1995年 MD)/ 東京大学大学院修了(医学博士 2001年 PhD) / 東京大学医学部眼科学教室講師(2012-2015年) / デューク・シンガポール国立大学医学部准教授(2016年-2020年)/ 旭川医科大学眼科学教室教授(2018年-2020年) / 横浜市立大学 視覚再生外科学 客員教授(2020年-現在) / 専門は黄斑疾患。シンガポールをはじめとした国際的な活動に加え、都内のお花茶 屋眼科での勤務やDeepEyeVision株式会社の取締役を務めるなど、マルチに活躍し ています。また、基礎医学の学術的バックグラウンドを持ち、医療経済研究、創薬、国際共同臨床研究などを行っています。

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