組織幹細胞の研究は様々な発展を遂げています。
多くの細胞が研究の対象となる中で、分化能力が高く、再生医療の発展を支える可能性を秘めた幹細胞が存在することが明らかになってきました。
まだ一般的にはあまり知られていないこの治療法の研究ですが、将来的には我々の身近な存在となる治療法になる可能性があります。
このような細胞を用いた再生医療の可能性やそのメカニズムについて、確認していきましょう。
間葉系幹細胞とは何か? 再生医療との関連性
細胞には様々な種類がありますが、その中でも特に分化能力が高いとされるのが幹細胞です。最初に発見されたのは1960年代の骨髄から見つかった幹細胞で、その後2000年代に脂肪組織からも見つかりました。これらの細胞が「間葉系幹細胞」と呼ばれています。
間葉系幹細胞の定義と特性
・間葉系幹細胞の基本的な特性 間葉系幹細胞は体性幹細胞の一つで、骨、軟骨、脂肪、神経など様々な細胞へと分化できます。また、傷ついてしまった組織に対して、修復や再生に必要な栄養素を放出する特性を持っており、骨髄や脂肪、歯随、へその緒、胎盤などの部分に存在しています。
・間葉系幹細胞の役割と機能 間葉系幹細胞は組織の再生、血流改善、炎症の抑制、そして免疫の正常反応などを促し、身体機能や恒常性の維持などを行う役割があります。 また、それぞれの体の部位の細胞を正常化する機能を持っています。 組織の再生だけでなく修復作用も持っていることから、傷ついた組織を間葉系幹細胞を用いて修復する予防医療の分野でも期待がされています。
再生治療とは何か
再生医療とは、失われた組織や臓器を人工的に作り出し、その機能を改善する医療のことを指します。また、失われていないものの機能が低下した組織や臓器の改善も、この再生医療の目的とされています。
これまでの医療では、失われた組織や臓器を再生することは難しく、ドナーを募って移植を行うか、欠損した状態で生活できるような工夫が求められてきました。
しかし、再生医療の可能性を高める細胞が発見されたことをきっかけに、人工的に組織や臓器を作り出す研究が進められるようになりました。
今までの研究で、再生医療の方法として有力視されているのが幹細胞を使用した治療です。 日本では2014年に再生医療に関する法制度が整備され、これをきっかけに多くの研究機関で再生医療の研究が進められました。
現在では動脈硬化や脳梗塞、心筋梗塞、脊髄損傷、さらに肝硬変や変形性関節症など、様々な症状に対して再生医療が行われるようになってきています。 さらに美容分野においても、肌質やシワの改善などの研究が積極的に行われています。
ES細胞やiPS細胞と間葉系幹細胞の違い
細胞の分化能力が高いという点では、ES細胞、iPS細胞、間葉系幹細胞は同等の評価ができます。 しかし、ES細胞やiPS細胞は1つの細胞から様々な組織や臓器へと分化できるのに対し、間葉系幹細胞は複数の細胞を組み合わせて分化・再生を行う細胞です。 これが分化における主な違いとなります。
また、ES細胞は受精卵、それも生成初期段階の一部分からしか得られないため、再生医療に用いるためには受精卵を犠牲にしなければなりません。
この場合、多くは体外受精の余剰分を使用しますが、倫理的・道徳的な問題が議論されています。
受精卵自体が一つの命と考えられるため、治療を目的に受精卵を作り出し、その後犠牲にすることに対しては、多くの批判的な意見が存在します。
iPS細胞は成体の細胞より抽出し生成できますが、遺伝子操作を必要とするため、作り出された組織や臓器が移植後に腫瘍化するリスクを抱えています。
また、移植までの準備期間が長い、拒絶反応が起きる可能性が高い、費用が莫大になるなどのデメリットも存在します。さらに、定期的な経過観察が必要で、場合によってはせっかく移植した組織を切除しなければならなくなる可能性もあります。
悪性腫瘍のリスクもあり、治療を目的とする一方で、病巣を広げてしまう可能性もあるため、iPS細胞を用いた治療には課題が多いと言えます。
一方、間葉系幹細胞は、ES細胞やiPS細胞のようなデメリットが少なく、採取も比較的容易で研究もしやすい環境であることから、近年は多くの機関で様々な研究が盛んに行われています。遺伝子操作も必要ないため、腫瘍化するリスクは低いとされています。
また、様々な組織や臓器へと分化する多分化能は、間葉系幹細胞に対する大きな期待の一つでもあります。
組織や臓器の再生には準備期間が必要なため、実際に再生医療の現場で使用するには多くの時間と費用が必要となりますが、デメリットの少なさから間葉系幹細胞を再生医療の主軸として考えている機関も少なくありません。
間葉系幹細胞を用いた再生医療は、今後さらに大きな発展が期待されています。
間葉系幹細胞の種類について解説! 再生医療に使われやすいのは?
間葉系幹細胞を用いた再生医療はデメリットが少なく、多くの機関で一定の研究成果が上がっていることから、今後さらなる発展が見込まれます。
研究からは間葉系幹細胞の中にも種類が存在し、部位や組織ごとに適した培養方法が見つかっていることが明らかになっています。
間葉系幹細胞の種類
幹細胞には大変多くの種類がありますが、再生医療で注目されている間葉系幹細胞は、培養条件に応じて脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞、骨細胞の4つに分化されます。
骨髄や皮下脂肪などから採取でき、再生させたい組織や臓器に特化した培養を行うことで、再生を目指していく形となります。
間葉系幹細胞の種類としては、骨髄由来と脂肪由来の2つに分けることができます。 骨髄由来の間葉系幹細胞は骨の中から採取するため、患者への負担が大きいです。一方、脂肪由来の間葉系幹細胞は皮下脂肪から採取できるため、比較的容易に治療に用いることができるとされています。
脂肪由来間葉系幹細胞の特性と利点
脂肪由来間葉系幹細胞は皮下脂肪から抽出した幹細胞です。
多分化能、自己複製能、免疫調整機能を持ち、主に脂肪や血管などの組織を生成します。 脂肪組織から比較的容易に採取でき、さらに培養もしやすいため、この種の細胞を用いた治療は再生医療の現場で頻繁に行われるようになっています。
低血清培養法と脂肪由来MSC
低血清培養法を用いて増殖された脂肪由来間葉系幹細胞(脂肪由来MSC)は抗炎症効果が期待できるという研究結果もあります。 さらに、透析の必要性が高い腎炎に対して高い治療効果をもたらすことが明らかになっています。
このように、培養方法によって間葉系幹細胞に様々な特性を持たせる研究も進められており、今後はさらに多くのことが明らかになると期待されています。
間葉系幹細胞を用いた再生医療の可能性
間葉系幹細胞を用いた研究は各機関で盛んに行われており、再生医療の可能性を大きく広げています。これまで分からなかった点についても徐々に解明がされてきており、今後はさらに詳細な研究が進むことでしょう。
現在、組織や臓器の再生や修復が再生医療の主要な治療法ですが、研究の進捗によっては今まで検討されてこなかった新たな分野へ転用される可能性もあります。
特に、骨を用いた再生医療の可能性は非常に大きいと考えられています。
間葉系幹細胞による再生治療の拡大
再生医療では間葉系幹細胞よりもiPS細胞やES細胞を用いた治療法の研究が進んでいましたが、それぞれの細胞を用いた治療には多くの問題点が存在します。
iPS細胞では遺伝子の操作が必要なため、移植後に腫瘍化してしまうリスクがあります。 また、ES細胞は受精卵から抽出しなければならず、命を持った受精卵を犠牲にするという倫理的な問題もあります。
間葉系幹細胞は骨髄や脂肪から採取可能で、遺伝子操作も必要ありません。
研究しやすい幹細胞であるため、今後はさらに間葉系幹細胞を用いた研究が主流となる可能性があります。また、間葉系幹細胞は様々な細胞へ分化できるため、再生治療の可能性を大きく広げられる存在となっています。
血管の再生と血流改善
・間葉系幹細胞による血管再生のメカニズム
高齢者の方が増えている現代では、血管系の疾患を抱える方も増えており、血管の再生や血流の改善は非常に重要な研究テーマとなっています。
血管再生では、患者自身の体中にある間葉系幹細胞を利用し、細胞や血管を作る作用を持っているサイトカインを使って再生を促す方法が研究されています。
・血流改善への期待
間葉系幹細胞を用いた血流改善は、新たに血管を作り出すことによる血流量向上やバイパス的な役割が期待されています。
血管が詰まってしまい血行不全状態にある組織に対しても、間葉系幹細胞を含んだ骨髄液を投与することにより新しい毛細血管が形成され、血流が改善する治療も行われています。
神経細胞の活性化および再生
・間葉系幹細胞による神経細胞の活性化と再生のメカニズム
間葉系幹細胞は神経幹細胞として機能することもあり、損傷した脳細胞周辺の神経細胞の再生や活性化が期待できます。
また、内因性神経の再生を促すことも期待でき、これを活性化させることにより神経幹細胞をより強く定着させて神経細胞の再生を促進する治療も行われています。
・神経細胞再生への期待
間葉系幹細胞の投与によって確実に神経細胞を再生させるには、まだまだ多くの研究が必要な状況です。
しかし、間葉系幹細胞と神経細胞との間には強い関連性があることが研究で明らかになっており、神経細胞再生の可能性は非常に高いと考えられています。
実際に間葉系幹細胞を投与して神経細胞が再生した例も多く、今後はその可能性をより高める研究が求められています。
血管の修復と脳卒中再発の予防
・間葉系幹細胞による血管の修復作用
間葉系幹細胞は血管の再生だけでなく、既存の血管の修復作用も期待できます。
そのため、既に血管系の疾患を抱えている患者や、予防的な治療を必要とする人々に対して、弱った血管を修復するための間葉系幹細胞の投与が効果的である可能性があります。
・脳卒中の再発予防への期待 血管系の疾患は再発しやすく、中でも脳卒中は再発予防は非常に重要です。
そのため、間葉系幹細胞を用いた血管の修復作用への期待は大きく、再発予防に有効な手段として注目を集めています。
間葉系幹細胞を用いた再生医療の現状と未来
間葉系幹細胞を用いた再生医療は現在大きな発展を遂げており、様々な治療法が確立されています。
まだ実用化されている治療法は少ないとはいえ、それぞれの治療法は非常に効果的と言えます。
将来的には多くの治療法が実用化されるのはもちろんのこと、現状で実用化されている治療法も精度がさらに高まり、より良い効果をもたらすものになるでしょう。
現在の間葉系幹細胞を用いた再生医療の状況
間葉系幹細胞を用いた再生医療は、血管の再生や修復、更年期障害の改善、免疫力の向上、炎症の抑制など、様々な治療が行われています。 臨床研究も進んでおり、今後さらに多くの症例に対して効果を発揮することが期待されています。
・現在の治療例とその効果
血管の再生において間葉系幹細胞の投与は非常に有効な治療法とされ、複数の医療機関で血管疾患の治療・予防に用いられています。 また、最近では新型コロナウイルスによって重症化した肺炎に対して、間葉系幹細胞を用いることで炎症を抑制し、組織を再生させる研究も進んでいます。
間葉系幹細胞を用いた再生医療の未来
間葉系幹細胞を用いた再生医療への期待は大きく、世界中の医療機関で研究が進められています。
細胞の再生においてはiPS細胞やES細胞の方が知名度が高いですが、間葉系幹細胞は採取が容易で治療におけるリスクも少ないこと、さらに様々な細胞へ分化しやすい点が評価され、iPS細胞やES細胞を上回る研究が行われています。
・今後の研究方向と期待される進歩
間葉系幹細胞は様々な疾患の治療や予防に効果的であることが分かっており、それぞれの分野で研究が進められています。 今後はさらに具体的な症例に対しての効果や安全性の確認が求められており、少しずつ治療法が広がっていくことが期待されています。
また、美容分野で間葉系幹細胞に対して注目をしている研究機関もあるため、病気の治療以外への活用も広がっていく可能性があります。
まとめ
間葉系幹細胞の可能性は無限大とも言えるほど、日々大きな進展を遂げています。
今後の再生医療にはなくてはならない存在であることは間違いありません。
各研究分野においてもポジティブな結果が大変多く発表されており、今後は失った組織や臓器の再生治療がさらに一般的になっていくことでしょう。
参考文献
- 間葉系幹細胞とは|CPC株式会社取締役
- 間葉系幹細胞の利用価値|幹細胞情報データベースプロジェクトSKIP
- iPS細胞から間葉系幹細胞の誘導方法を確立 動物由来成分を含まず再生医療への利用に期待|京都大学iPS細胞研究所CiRA
- 幹細胞について②:組織幹細胞・間葉系幹細胞(MSC)とは|D.CLINIC
- 間葉系幹細胞である証明 | 脳卒中の後遺症改善、再発予防の再生医療【ふくとみクリニック】
- MSC(間葉系幹細胞)の原理 – 幹細胞治療・再生医療外来 | 表参道ヘレネクリニック(HELENE CLINIC)
- 脂肪由来幹細胞を用いた再生医療|名古屋大学大学院医学系研究科 腎臓内科
- 再生医療について|神田医新クリニック