年齢を重ねるごとに、膝の曲げ伸ばしがしづらくなったと感じる方がいるかもしれません。
加齢は変形性膝関節症の最大の危険因子です。40代以降は年代が上がるにつれて増加します。各年代で女性は男性より多く発症することがわかっており、自然治癒は望めません。
本記事では、変形性膝関節症の治療方法や膝の痛みへの対処方法 を詳しく説明します。
日常生活動作には欠かせない膝について、本記事を参考にしていただければ幸いです。
変形性膝関節症の治し方
変形性膝関節症の治し方は、症状を和らげる保存療法と必要に応じて手術を行う手術療法の二つに分けられます。
最初にするべきことは、保存療法の一環である運動療法と基本的な薬物療法を活用して痛みに対処することです。
もし保存療法が数ヶ月経っても改善が見られない場合や、膝の痛みや変形が進行している場合は、手術療法が検討されます。以下では、具体的な治療方法について詳しく説明します。
変形性膝関節症の治療方法は?
変形性膝関節症は膝の軟骨が損傷し、それによって膝が痛む状態を指します。軟骨が一度損傷すると、ほとんど元の状態には戻りにくくなります。
そのため、症状に早く気づいて積極的に対処することが非常に重要です。では、変形性膝関節症の治療方法にはどのようなものがあるのでしょう。
ここでは、変形性膝関節症の治療方法について深堀します。
薬物療法
痛みと炎症を和らげるために非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が使われます。代表的なものにはイブプロフェンやロキソニンがありますが、長期使用には慎重が必要です。
アセトアミノフェンなどが鎮痛薬として使われ、痛みを軽減します。ただし、NSAIDs同様に慎重に使用する必要があるでしょう。外用薬として、NSAIDsや唐辛子由来成分のキャップサイシンを含むクリームやジェルが使われることがあります。
変形性膝関節症の薬物療法は、どの治療が適しているかは医師が個々の患者さんの状態や評価に基づいて判断するのです。
外科的治療
変形性膝関節症の外科的治療法を3つ挙げます。
一つ目は関節鏡手術で、変形性膝関節症が進行しておらず初期段階の治療法です。
二つ目は高位脛骨骨切り術で、40~60代の若年の患者さんに向けた治療法です。仕事やスポーツを続けたい方に適しています。
三つ目は人工関節置換術で、60歳以上で変形が進んだ患者さんに適した治療法です。
物理療法
物理療法は徒手療法や運動療法の前に用いられることが多く、患者さんの状態に合わせ温熱療法・電気刺激療法・超音波療法など機器を用いて治療します。
光や熱・電気的な刺激を活用した膝の不快感や炎症を軽減する治療法には、温熱療法と寒冷療法があるのです。
温熱療法は膝を温め、血行を増進させて痛みを軽減する手法です。この治療法では、病院では赤外線・低周波・レーザー・ホットパックなどが一般的に利用されます。
自宅でもお風呂や温シップ・温かいタオルを用いて実施できるでしょう。痛みの予防には、膝を温かく保つためにサポーターを使用することも重要です。一方、寒冷療法は冷シップや冷たいタオルなどで膝を冷やし、痛みを緩和するアプローチとなります。
筋力訓練
変形性膝関節症に対する筋力訓練は、膝へのしっかりとしたサポートを築き上げ関節にかかる負担を軽減する効果があります。膝の前面・後面・内側・外側の筋肉を鍛えることで、関節へのサポートが向上するのです。
特に大腿四頭筋・ハムストリングス・腓腹筋を中心にした訓練が行われます。また、患者さん自身の体が空間のどこにあるか位置を把握する身体能力を鍛える訓練は、膝の安定性を向上させるのです。
筋力訓練は単発で行うのではなく、継続的な習慣として取り入れないといけません。患者さんは定期的に筋力訓練を行い、生活に組み込まれることが重要です。
関節可動域訓練
変形性膝関節症における関節可動域訓練は、膝を柔軟にし正常な動きを促進するための効果的なトレーニングです。膝周りの筋肉や腱を柔軟に保つため頻繁にストレッチングを行うことで、関節可動域が広がり日常生活や運動時の動きが改善されるでしょう。
患者さんは特定の動作やエクササイズを通じて自分の膝関節可動域を向上させ、関節の柔軟性や機能性向上に寄与します。関節周りの筋力を増強しバランスを維持するトレーニングにより、膝への負担が均等に分散され安定性が向上するのです。
関節可動域訓練は一度きりではなく、継続的なトレーニングが必要となります。したがって、患者さんは定期的にプログラムを実施し、関節の柔軟性を維持するよう心掛けなければいけません。
ウォーキング
変形性膝関節症の改善 には、ウォーキングを習慣化することが大切です。普段あまり運動しない人が急に運動を始めると、膝関節に負担がかかる可能性があります。
特に中高年層が新たに運動を始める場合は、自分の年齢や体力に合った範囲でゆっくりと始めることが重要です。ウォーキングは年齢や運動経験に関係なく、1人でも気軽に楽しみながら体を動かせるよい選択肢です。
有酸素運動の代表であるウォーキングは、酸素を取り入れながら脂肪を燃焼し筋力をアップさせるのに役立ちます。特に、ポールを両手に持って歩行するノルディックウォーキングは、膝関節の伸展能力を改善させるのです。
最初は一日30分、週3回から始めてみましょう。また、膝に痛みがあり運動できないときは、水中ウォーキングを行いましょう。水中の浮力を利用することで、関節や筋肉にかかる負担が減り軽い運動でも十分に筋肉を鍛えることができるのです。
装具療法
装具療法は痛みの緩和や運動機能のサポートを目指す治療法で、膝や足底に装具が利用されサポーターとインソールがよく採用されています。サポーターは関節が不安定な状態の際に支援し、膝を安定させる役割があるのです。
変形性膝関節症では大腿四頭筋などの筋肉が衰え、膝をサポートする能力が低下します。この不安定な状態で膝に不規則な負担がかかると、軟骨がすり減り痛みが生じるのです。
したがって、サポーターを使用することで膝を支え、安定性を向上させて痛みを和らげることが期待できるでしょう。ただし、サポーターは筋肉を補助する道具であり、痛みがない状態で絶えず使用すると膝の筋力低下につながる可能性があるので注意が必要です。
インソールは、膝の角度や荷重線を調整して内側軟骨のすり減りや痛みを和らげます。変形性膝関節症の患者さんはO脚に傾きがちで、これが膝に負荷をかける要因です。
インソールの使用により、体重の荷重線を膝の中心に近づけ痛みの軽減が期待されます。X脚の場合も、逆に親指側を持ち上げる特殊な装具があるのです。
そのほかの保存的治療
そのほかの保存的治療には、注射療法と安静・減量があります。注射療法は関節内注射で、主にヒアルロン酸関節内注射とステロイド関節内注射です。
ヒアルロン酸は関節内の潤滑を促進し、その効果は約1週間程度で分解されるため通常は週1回・合計5回の施行が行われます。一方でステロイドは強力な抗炎症作用があり痛みを効果的に軽減しますが、さまざまな副作用が存在します。
免疫低下・組織変性・骨壊死などのリスクがあり、頻繁なステロイド注射は推奨されません。これらの注射は膝関節内の針を使用して行われますが、感染のリスクがともないます。
感染が生じると膝の組織が損傷し、症状が悪化する可能性があるのです。そのため、注射後は入浴を避け、注射部位を清潔に保つことが重要となります。
保存的治療の一環として、安静や減量があります。安静は自然治癒力を最大限に活かす方法で、無理な運動を避けることで早期の痛み緩和が期待できるのです。痛みが治まった後に運動を始めることがすすめられます。
また、膝の痛みに対しては体重の減量が有益であり、食事や運動の調節が大切です。無理なく続けることが重要なため、少しずつ始めるとよいでしょう。
変形性膝関節症の外科的治療
保存療法が有効でないか期待できない場合、手術治療が検討されることがあります。
手術治療の選択肢には、主に関節鏡を使用した手術・高位脛骨骨切り術・人工関節置換術が考えられるでしょう。これらの手術法は患者さんの年齢や病気の進行度に応じて検討されます。
手術は膝関節の具体的な状態や患者さんのニーズに合わせて、個別に計画・実施されるのです。
ここでは、手術方法について深掘りし詳しく説明します。
関節鏡手術
変形性膝関節症に対する関節鏡手術は、一時的に痛みを軽減したり、変形を遅らせたりすることが目的です。この手術は、初期や中期の段階において一時的な症状の緩和を目的としています。
関節鏡は関節内部を観察するための内視鏡で、膝に数カ所の小さな穴を開け棒状の内視鏡を挿入して行う手術です。傷が小さく入院期間が短縮され手術後の負担が軽減でき、手術によっては早ければ翌日には退院できる場合もあります。
初期段階の手術では痛みの原因となる擦り切れた半月板や軟骨のささくれ、増殖した滑膜を取り除くのです。
半月板が断裂している場合には、ときには縫合が行われることもあります。軟骨の損傷が深刻な場合、軟骨に小さな穴を開けて出血を起こし軟骨の治癒を促進させるのです。
また、軟骨の修復を目的とする手術では、損傷した軟骨に移植片を使用することもあります。これらの手術によって、痛みの軽減や軟骨の損傷の進行を遅らせることが期待されますが、効果は一時的であるとされているのです。
高位脛骨骨切り術
高位脛骨骨切り術は、変形性膝関節症による内側への過重なストレスを修正する手術です。これにより、O脚の形状が正常な角度に矯正されます。
手術では、患者さんの骨を切り外側に軟骨のある箇所に移動させるのです。患者さんの膝は保護または再生され、正座が可能となりスポーツや仕事に復帰できる見込みがあります。
手術後は一時的な痛みがあるかもしれませんが、骨が癒合するまでの期間は気にする必要はありません。リハビリが必要ですが、中程度の症状で活動的な患者さんや仕事を続けたい方におすすめです。
膝蓋大腿関節置換術
変形性膝関節症に対する治療法の一つとして、膝蓋大腿関節置換術があります。
この手術は、慢性的な膝関節の変形や損傷による激しい痛みや機能障害を和らげ、患者さんの生活の質を向上させることを目的としているのです。
手術では、膝関節の部分または全体を人工の膝関節で取り替え、正常な動きを回復させることが期待されます。膝蓋大腿関節置換術は、変形性膝関節症による激しい痛みや可動域の制限に悩む患者さんに対して適用されるでしょう。
手術では、損傷した膝関節の一部を摘出し、金属やセラミックで構成された人工の膝関節に置き換えます。これにより、痛みの緩和と膝の機能向上が期待されるのです。
膝蓋大腿関節置換術は、患者さんの具体的な症状や状態に応じて個別に計画されます。手術後は適切なリハビリテーションが必要で、定期的なフォローアップを受けながら安全性が高で効果的な回復を目指すのです。
人工膝単顆置換術
人工膝単顆置換術は、特定の内側または外側の関節に生じる関節症に対処する治療法です。
人工膝単顆置換術では、前・後十字靱帯を残しながら問題のある部分だけを人工関節で交換する手術が行われます。この手法には、通常の人工膝関節置換術に比べて侵襲が少なく、関節の可動域が保たれやすい利点があるのです。
手術は小さな皮膚切開なため、早期回復が期待されます。ただし、人工膝単顆置換術は対象が損傷した部分だけであるため、人工膝関節置換術よりも適用範囲が制限されるのです。
適用条件には、肥満がなく低い活動レベルの個人(70歳以上)で前十字靭帯の変性が軽度であり、膝蓋大腿関節に著しい関節症変化がないことが挙げられます。関節リウマチなどの炎症性疾患には適用されません。
人工膝関節全置換術
人工膝関節全置換術は、変形した膝関節を金属やセラミック・ポリエチレンなどで構成された人工膝関節で交換する手術です。
これにより、患者さんの痛みが軽減され、歩行能力が大幅に向上します。患者さんの年齢や骨の状態によっては、骨セメントを使用するかセメントを使わずに骨を直接固定するかが選択されるでしょう。
手術時間は通常1~2時間で、ほとんどの患者さんは術後6週間以内に杖を使用して歩行できるようになります。痛みやこわばりが緩和され、多くの日常動作が可能になるのです。
人工膝関節全置換術は膝関節の問題を抱える患者さんに大きな利益をもたらしますが、時間の経過とともに緩みが生じるため再置換手術が必要となる場合があります。
ただし、再置換手術を受けても1~1.5ヶ月の入院でほぼ元通りの状態に回復できるでしょう。
膝の痛みの原因は?
ひざの痛みの原因は、加齢にともなって膝の軟骨が水分不足になり弾力性が低下することです。これにより、軟骨がすり減り次第に痛みが生じることがあります。
特に女性では40歳以降、男性では50歳以降で発症が増えやすくなるのです。
女性が男性の4倍も変形性膝関節症になる要因は、女性の筋肉量が男性と比較して少なく、膝の軟骨にかかる負担が大きいことが影響していると考えられます。
肥満や激しい運動など軟骨のすり減りを促進するリスク因子がある場合、変形性膝関節症はそれよりも若い年齢で発症する可能性があるでしょう。
膝に痛みが出た際の対処方法
膝に痛みが出た際の対処法を5つ挙げます。
- 安静にしアイシングをする
- 快適な高さに膝を調整し、クッションなどでサポートする
- 膝に負担のかからない範囲で軽いストレッチや運動をする
- 非ステロイド性抗炎症薬を使用する
- 適切な体重を維持する
痛みが持続または生活に支障が出る場合は、速やかに医師に相談しましょう。
膝の痛みで病院を受診する目安
膝の痛みで病院を受診する目安は、膝に痛みや腫れ・曲げ伸ばしの制限などが現れたらできるだけ早く医療機関を受診しましょう。
変形性膝関節症では、早い段階での治療が膝の痛みや腫れを和らげ、膝の機能を維持するのに役立ちます。これによって進行を防ぎ、手術が必要になる可能性を回避または遅らせることができるのです。
膝の痛みが頻繁に続く場合は、整形外科を受診して痛みの正確な原因を確認するとよいでしょう。膝に痛みや制限がある場合でも、ためらわずに相談することが大切です。
まとめ
これまで変形性膝関節症の治療方法や対処方法について説明しました。
中高年の多くが経験する変形性膝関節症のような運動器疾患では、痛みが日常生活に大きな影響を与えることがあるのです。
今後の日本は、ますます高齢化していくことが予想されます。年を重ねると膝が痛くなるのは一般的なことかもしれませんが、我慢するだけでは膝の変形が悪化してしまうかもしれません。
膝からのサインを見逃さないよう注意し、早めの受診をすることで生活の質を保つようにすることが大切です。
この記事を参考にし、当てはまる症状があれば信頼できる医療機関を受診することをおすすめします。
参考文献
- 変形性膝関節症と手術療法
- 骨関節疾患リハビリテーションの実学(運動器の10年)-変形性膝関節症のリハビリテーション実学-
- 理学療法ハンドブック シリーズ7 変形性膝関節症
- 122回市民公開講座『変形性膝関節症 ~予防と治療~』
- 変形性膝関節症の治療|近畿大学病院
- 慢性疼痛治療ガイドライン
- 代表的疾患 膝|高知大学整形外科
- 変形性関節症の リハビリテーション
- 変形性膝関節症患者におけるポールウォーキングの歩行時疼痛軽減効果と効果に影響する要因について
- 【参考資料】治療用装具療養費について
- 変形性膝関節症における関節鏡視下手術の検討
- 変形性膝関節症|慶應義塾大学病院
- 下肢人工関節・関節機能再建|神戸大学医学部整形外科
- 膝関節グループ|東京女子医科大学整形外科
- 変形性膝関節症|北里大学北里研究所病院
- 高齢期に多い運動器疾患|公益財団法人 長寿科学振興財団