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造血幹細胞移植の治療の流れは?移植から提供までを解説

造血幹細胞移植の治療の流れは?

造血幹細胞移植は幹細胞移植とも呼ばれています。造血幹細胞は赤血球・白血球・血小板などすべての血液細胞を作れるのが特徴です。

造血幹細胞の移植が可能になって、それまで助からなかった血液疾患の患者さんを完治させられる可能性が高くなりました。しかし、実際の移植はどのような流れで行われるかなどについては、知らない方が殆どでしょう。

この記事では造血幹細胞移植の流れを、移植前から退院後まで解説します。造血幹細胞移植の種類・患者さんの移植前処置・退院後のアフターフォローについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。

造血幹細胞移植の流れについて

造血幹細胞移植の流れ

造血幹細胞移植とはどのようなものですか?
造血幹細胞移植は、骨髄の中で血液を生成する役目を持つ造血幹細胞を点滴と同じ要領で患者さんに輸注する治療法です。
化学療法や免疫療法では根治しなかった悪性の血液疾患・免疫不全症・再生不良性貧血の患者さんに対して行われます。
移植に使う造血幹細胞は病気の種類によって違いますが、患者さん本人の骨髄液から採取したものか、臍帯血バンクの臍帯血・骨髄バンクや献血のドナーから提供されたものです。患者さんに投与された造血幹細胞は移植後2~3週間から1か月程度で骨髄に生着し、正常な血液を作り始めます。
同種造血幹細胞移植と自家造血幹細胞移植の違いは?
同種造血幹細胞移植は、ドナーの造血幹細胞や臍帯血を移植する方法です。
血縁者でも非血縁者でもドナーになれますが、骨髄や末梢血にある造血細胞の場合は白血球の抗原「HLA」8つのうち6つ以上が患者さんと一致していなければなりません。臍帯血の場合は「HLA」6抗原のうち4つが一致していれば移植に使えます。
自家造血幹細胞移植は、患者さん自身の造血幹細胞を使う方法です。患者さんの末梢血から採取した造血幹細胞を使います。
対象疾患は悪性リンパ腫など一部の疾患のみです。しかし、患者さん自身の細胞を移植するので、移植後に拒絶反応や移植片対宿主病(GVHD)を発現するリスクがほとんどないのがメリットです。
また、移植前の前処置として同種造血幹細胞移植では大量の化学療法と放射線照射の両方が行われますが、自家造血幹細胞移植では化学療法による骨髄抑制のみになります。
同種造血幹細胞移植の種類を教えてください。
造血幹細胞移植でも同種造血幹細胞移植は、移植に使う造血細胞の種類によって3つに分類されています。
1つ目は骨髄移植で、ドナーの骨髄から採取した造血幹細胞を患者さんに移植する方法です。ドナー・患者さんともに負担の大きい方法ですが、移植が必要な血液疾患の治療法として最も歴史が長く、移植後3~4週間で患者さんの骨髄に生着して造血を開始します。
2つ目は末梢血幹細胞移植です。ドナーに白血球を増やす薬剤「G-CSF」を投与し、腕の静脈から成分献血と同じ要領で造血管細胞だけを取り出します。ドナーは麻酔などの負担がないうえ、患者さんは移植後2~3週間で造血幹細胞が生着するので、ドナー・患者さんのどちらも負担が少ないのがメリットです。
3つ目は臍帯血移植で、出産後、へその緒に残った血液由来の造血幹細胞を患者さんに移植します。子どもや小柄な成人によく行われる治療法で、ドナーが見つかりやすいうえ移植後GVHDなどの症状が軽くすむのがよいところです。
造血幹細胞移植後の合併症について教えてください。
造血幹細胞移植でも同種造血幹細胞移植は、移植に使う造血細胞の種類によって造血幹細胞移植後に起こる合併症にはさまざまなものがあります
特に、同種造血幹細胞移植の場合は臓器障害やGVHDが起こりやすいのが特徴です。移植後、造血機能が回復するまでは免疫が著しく低下し、赤血球・白血球・血小板など血液中の細胞も非常に少なくなっています。
同種移植・自家移植のどちらでも感染症・出血・貧血が起こりやすい状態になっているので、注意深い見守りが必要です。また、造血幹細胞移植後の合併症には永久不妊・発達障害・二次発がんなど長期、あるいは生涯に渡るものもあります。

移植前処置の具体的な方法と副作用

移植前処置の具体的な方法と副作用

移植前処置の目的は?
造血幹細胞移植を受ける患者さんに前処置を行うのは、ドナーの健康な造血管細胞が患者さんに生着しやすいようにするためです。
患者さんのがん細胞や造血管細胞を全滅させる・骨髄を空っぽにする・免疫力を抑制するために、移植日までの1~2週間をかけて大量の抗がん剤を投与したり全身放射線照射を行ったりします。
患者さんの状態に合わせて、どのような方法で移植前処置を行うか、どの程度の強さで処置をするか判断するのは治療を担当する医師チームです。しかし、どの処置も患者さんの身体には非常に大きな負担がかかります。
移植前処置の方法について教えてください。
造血幹細胞移植の前処置は、同種造血幹細胞移植か自家造血幹細胞移植によって内容が異なります。同種造血幹細胞移植の場合は移植後の生着を良くしたり拒絶反応を防止したりするため、大量化学療法・全身放射線照射・免疫抑制剤を組み合わせて行うのが特徴です。
自家造血幹細胞移植の場合は、強力な抗がん剤の大量投与のみで骨髄抑制を行います。
同種造血幹細胞移植の方がどうしても強力な前処置が必要になりますが、1990年代後半から前処置の強度を弱めたミニ移植が行われるようになりました。
ミニ移植は拒絶反応やがんの再発が起きやすくなりますが、前処置の副作用や合併症が軽いので、年配の方やほかの臓器に障害がある患者さんによく適用されます。
移植前処置の副作用はどんなものがありますか?
造血幹細胞移植の移植前処置には、強い副作用があるのが事実です。抗がん剤によるものには薬剤の種類によって異なりますが脱毛・口内炎・吐き気・嘔吐・下痢・食欲低下・味覚障害・貧血・感染症などがあります。
全身放射線照射の副作用は軽度ですが、嘔吐・下痢・耳下腺炎など急性期に起こるものと、間質性肺炎・白内障・ホルモン障害など晩期に起こるものがあるのが特徴です。
また、免疫抑制剤の副作用には嘔吐・下痢・食欲低下・発熱などがよくみられますが、薬剤によっては皮膚・心臓・腎臓・膀胱に影響を及ぼすものがあります。

造血幹細胞移植後について

造血幹細胞移植後

移植後はどのような状態になりますか?
造血幹細胞移植の後は、移植した細胞が生着するまでさまざまな身体症状が現れます。最も起こりやすいのは感染症と発熱です。
患者さんによっては前処置の影響で重い下痢や口内炎などの症状が出る方もいます。特に、同種造血幹細胞移植をした場合は移植片対宿主病「GVHD」に対する注意が必要です。
GVHDには移植後早期に皮疹・下痢・肝機能障害を発症する急性のものと、移植から3か月~数年にわたって複数の臓器から症状が出る慢性のものがあります。GVHDには免疫抑制剤やステロイド剤、感染症には疾患別の薬剤など対処法があるので、体に異常を感じたらすぐ医師に相談してください。
退院までどのくらいかかりますか?
造血幹細胞移植を受けた患者さんは、移植後2~4か月で退院できるケースがほとんどです。
退院が認められるには、自力で造血できている・食事が摂れる・大きい感染症や合併症がない・免疫抑制剤の摂取量が安定しているなどの条件を満たす必要があります。
早い退院・社会復帰を希望する方は、移植前後に行われるリハビリに取り組みましょう。リハビリの内容は食事摂取や運動ですが、積極的に筋肉を動かすことで体力や筋力が維持されるので感染症の予防にもなります。
アフターフォローはありますか?
造血幹細胞移植を受けた患者さんには、移植後も長期にわたるフォローが必要です。近年は晩期合併症の発見や治療をしたり、生活指導を受けたりしやすいように専門外来「移植後長期フォローアップ外来(LTFU外来)」を設ける病院も増えました。
体調が安定していれば、通院は移植した日から半年後・1年後など節目の時期にします。体調に不安が生じたり日常生活で困ったりした場合は、随時受診しましょう。
LTFU外来は患者さん本人だけでなく、家族の相談にも応じてもらえるのがよいところです。

編集部まとめ

編集部まとめ

造血幹細胞移植の誕生で、かつては治療が困難だった悪性血液疾患も根治できる可能性が高くなってきました。近年は末梢血や臍帯血など、造血幹細胞を採取する方法も増えているので、ドナーも探しやすくなっています。

移植を受けられる患者さんは多くなりましたが、未だに体に強い負担がかかる前処置があったり、移植後のフォローが大変だったりするのが事実です。

血液がんに限らず、がんは治療後も長い経過観察が必要になります。造血幹細胞移植については退院後の専門外来があるので、患者さん本人も家族も困ったら積極的に受診・相談してください。

参考文献

この記事の監修歯科医師
甲斐沼 孟医師(上場企業産業医)

甲斐沼 孟医師(上場企業産業医)

平成19年(2007年) 大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部医学科 卒業 平成21年(2009年) 大阪急性期総合医療センター 外科後期臨床研修医 平成22年(2010年) 大阪労災病院 心臓血管外科後期臨床研修医 平成24年(2012年) 国立病院機構大阪医療センター 心臓血管外科医員 平成25年(2013年) 大阪大学医学部附属病院 心臓血管外科非常勤医師 平成26年(2014年) 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医員 令和3年(2021年) 国家公務員共済組合連合会大手前病院 救急科医長 令和5年(2023年) 上場企業産業医

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