「再生医療」という言葉は、ニュースなどで耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。患者さん本人の細胞や血液からつくった成分を治療に使用し、損傷した部分を再生させる治療法です。
再生医療によって、従来であれば治療が困難だった症状や負傷でも改善できる可能性が出てきました。ただし、まだ新しい治療法であるだけに知られていないことも多々あります。
本記事では、自由診療として受けられる再生医療の種類と現在の課題について、さまざまな疑問にお答えしています。
自由診療における幹細胞治療について
- 幹細胞を使った治療とはどのようなものですか?
- 人間の皮膚や血液などの細胞は、寿命が短い代わりに常に新しいものと入れ替わり続けています。このサイクルを維持するために、新しい細胞の生産や補充の役割をもっている細胞が「幹細胞」です。
幹細胞治療とは、幹細胞がもっている自己治癒力を利用して損傷してしまった組織や器官などを再生させる治療法を指します。幹細胞治療の特性は、さまざまな種類の細胞に分化できることです。
幹細胞治療では、幹細胞がもつ特性を活用することで、病気や事故などで損傷したり失ったりした体の部位を治療することができます。幹細胞治療で対応できるのは、主に以下のような病気です。- 血管の病気
- 神経の病気
- 骨・軟骨の病気
- その他の疾患
血管の病気としては、脳梗塞・心筋梗塞といった血管の病気全般が挙げられます。
神経の病気としては認知症・小児麻痺など、骨・軟骨の病気として挙げられるのは変形性関節症・リウマチなどです。
また、その他に幹細胞治療で対応できる疾患として免疫疾患・糖尿病などが挙げられます。
- 治療に使われる幹細胞の種類について教えてください。
- 再生治療に利用される幹細胞は「多能性幹細胞」と「組織幹細胞」という2つの種類に大きく分かれており、幹細胞によって体のどの部分に分化するのかが異なります。以下でそれぞれの幹細胞についてご案内します。
- 多能性幹細胞
- 組織幹細胞
「多能性幹細胞」とは胞分化する細胞が決まっておらず、人体のほぼすべての細胞に分化する能力をもった幹細胞です。成人の体細胞からつくられ特定の因子を導入することで多機能性を発揮する「iPS細胞」と、受精卵からつくられる「ES細胞」が広く知られています。
「組織幹細胞」は多能性幹細胞とは異なり、特定の種類の細胞にのみ分化する能力をもった細胞です。赤血球や白血球に分化する「造血幹細胞」、骨や脂肪に分化する「骨髄幹細胞」、脂肪組織から採取される「脂肪幹細胞」、歯の組織に分化する「歯髄幹細胞」などが挙げられます。
- 費用について教えてください。
- 一口に「幹細胞治療」といっても、実際に使用される幹細胞の種類や治療をおこなう医院のレベル、治療の内容などによって費用は大きく異なります。
また、「造血幹細胞移植」のように保険適用として認められた幹細胞治療がある半面、試験段階にある治療を含めた大部分の幹細胞治療は保険適用外の自由診療です。
たとえば自分自身の幹細胞を採取し、培養して治療に活用する場合は、採取・培養・再注入といった手順が必要になるため費用は高額になります。大まかな費用の相場は以下のとおりです。- 幹細胞を取り出して再注入する治療:数十万円~数百万円(税込)
- 幹細胞を培養・増殖して再注入する治療:数百万円~一千万円(税込)以上
患者さん自身の幹細胞を取り出して再注入するという点では同じですが、培養・増殖する過程が必要な場合は費用が数倍になるのが一般的です。
自由診療における再生医療について
- 自由診療のPRP療法について教えてください。
- 外傷を負ってしまった場合などに体を元通りに再生させる際には、血液に含まれる血小板が重要な役割を果たしていることが知られています。
PRP(多⾎⼩板⾎漿)とは、自分自身の血液を遠心分離することで取り出される血小板を多く含んだ血漿層です。PRP療法は、このPRPを負傷した部分に注入することで組織の修復を促進させます。
PRP療法は、関節炎や軟骨損傷やスポーツ傷害など幅広い症状の治療に活用されており、治療自体の手順が単純であることや自分自身の血液を使用するため副作用のリスクが少ないことが特徴です。
- 自由診療のAPS療法について教えてください。
- APS療法とは、PRP療法と同様に治療を受ける患者さん自身の血液を活用した治療法です。血液中には、炎症を抑える機能をもったたんぱく質が豊富に含まれています。
特殊な機器を使用して採取した血液から濃縮したAPS(自己たんぱく質溶液)をつくり、患者さん自身に注入することで炎症や痛みを抑えます。
APS療法は特に関節炎の治療に有効であるとされており、治療を受ける患者さん自身の血液を使用するためにアレルギーや拒絶反応などのリスクが少ないことが大きなメリットです。
- 各治療の比較について教えてください。
- 患者さん自身の血液を使用するという点で共通しているPRP療法とAPS療法ですが、期待できる効果や特徴などはそれぞれ異なります。
- PRP療法
- APS療法
「PRP療法」は 広範囲の疾患に対する効果が期待できる治療法で、筋・腱・靭帯損傷といった症状の治療のほか美容などにも使用されます。PRPに含まれる炎症を抑制する成分や成長因子はAPS療法と比べると少なく、3~4回投与する必要があります。
「APS療法」は、関節炎や炎症性疾患に対して特化した効果をもった治療法です。PRPから抗炎症成分を抽出しており、炎症を抑制する作用や成長因子がPRP療法よりも多くなります。投与回数が1回で済むことも特徴です。
- なぜ自由診療なのか教えてください。
- 再生医療はその大部分が保険診療の対象外であり、自由診療となっています。その理由として挙げられるのは、再生医療が医療全体の中でも新しい分野にあたり厚生労働省による公的な承認が得られていないことです。
再生医療の安全性や治療効果に関しては、認定再生医療等委員会や認定再生医療等委員会が審査をおこなっていますが、国が設定している審査とは異なります。そのため、再生医療を受ける際には治療に関わるすべての費用を患者さんが自己負担する必要があります。
費用負担は増えますが、まだ認可されていない新しい医療技術による治療に挑戦できるということが、自由診療のメリットだといえるでしょう。
- 現状の課題と展望について教えてください。
- 再生医療はまだ新しい分野であり、その安全性と効果が科学的に証明されていないのが現状です。
国からの承認を得るためには十分な臨床試験と研究が必要となっており、今後も再生医療が発展してデータが蓄積されれば将来的には保険適用の範囲に含まれる可能性もあります。
その他の課題として挙げられるのが、治療法の標準化とコスト削減です。現在は非常に高額な治療費がかかるため、患者さんによっては治療を受けたくても受けられないことも少なくありません。技術の進歩によって、より多くの患者さんが再生医療を受けられるようになることが期待されています。
治療後の流れと注意点について
- 治療後の流れについて教えてください。
- 再生医療では外科手術のような負担の大きい治療はおこなわれず、基本的には1日で治療が完了します。治療後はそのまま帰宅し、普段どおりの生活を送っていただいて問題ありません。
ただし、幹細胞治療やPRP療法といった再生医療は、治療を受けたからといってすぐに効果があらわれるような即効性があるものではありません。
投与した直後も痛みなどの症状は残りますが、数日から数週間という期間を経て効果が実感できるようになります。患部をしっかり治すためにも、治療後の経過観察は重要です。
- 治療後の注意点について、どのようなものがありますか?
- 再生医療では、治療当日から基本的には普段と同じ生活を送っても問題ありませんが、飲酒は控えましょう。また、治療直後には細胞の代謝が活発になることから炎症が発生して痛みや腫れが生じる場合があります。
治療後2~3日は炎症が出る可能性があるため、運動などは避けて様子を見ましょう。
ただし、関節へ投与した場合は治療後1ヶ月間はランニングなどの過度な運動は避け、様子を見ることをおすすめします。
編集部まとめ
本記事では幹細胞治療やPRP療法、APS療法などの再生医療について解説しました。再生医療は患者さん自身の細胞や血液を使用するため拒否反応が起こりにくく、高い効果が期待できる治療法です。
ただし、まだ新しい治療法であるために公的な承認が得られておらず、高額な自由診療を選ばざるを得ないのが現状です。誰でも治療を受けられる未来のために、さらなる発展が望まれます。
再生医療を活用することで、従来の治療では治せなかった症状でも治療できる可能性が広がります。再生医療は、未来の医療を変える可能性をもった治療法だといえるでしょう。
参考文献