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膝を人工関節にするリスクは?人工膝関節置換術後の合併症や注意点も解説

人工関節 膝 リスク

年齢を重ねても、できるだけ自分の足で自由に歩きたいと望む方は多いでしょう。

膝の痛みが生じると、歩行動作能力が障害され、生活の質(QOL)が低下する要因になります。

膝の痛みの原因として、加齢や病気により膝の関節軟骨が傷むケースがあります。関節軟骨は一度傷つくと、再生することはできません。

そのような場合の代表的な治療法が、人工膝関節置換術です。

この記事では、人工膝関節置換術について詳しく解説します。手術にともなうリスク・術後合併症・術後の注意点についてもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。

膝を人工関節にするリスク

手術

人工膝関節置換術は、効果的に膝の痛みを取り除き、歩行能力を改善できる手術です。

手術件数は年々増加しており、安全性の高い手術として広く普及しています。

しかし、人工膝関節置換術に限らず、手術にはリスクが存在します。そのため、人工膝関節置換術にともなうリスクについて、十分に理解しておくことが重要です。

感染や創部出血などの術後合併症は、手術において避けられないリスクとして挙げられます。

術後合併症のリスクを完全に無くすことはできません。しかし、さまざまな予防策を講じることで、術後合併症の予防に努めています。

また、人工膝関節置換術後は、日常生活で注意すべき動作や姿勢もあります。

術後合併症や術後の注意点は後ほど詳しく解説するので、ここで解説する人工膝関節置換術のリスクは、人工関節の耐久性についてです。

人工関節の品質は年々向上しており、耐久年数はおよそ20年といわれています。そのため、多くの患者さんは一度手術をしてしまえば、人工膝関節の入れ替えをしません。

しかし、激しい運動や太り過ぎによって人工膝関節に過度な負担がかかると、人工関節のゆるみや破損などのトラブルが生じます。その際は、人工膝関節の入れ替えが必要です。

このように、人工膝関節置換術には手術のリスクがまったくないわけではありません。しかし、それ以上に、膝の痛みが消えて歩行能力が改善するというメリットが存在します。

膝を人工関節にする手術について

器具

人工膝関節にするための手術には以下の3つの術式があり、年齢・レントゲン所見・活動性などを考慮して、医師が適切な術式を決定します。

  • 膝蓋大腿関節置換術(PFA)
  • 人工膝単顆置換術(UKA)
  • 人工膝関節全置換術(TKA)

ここでは、これらの手術について、それぞれ解説します。

膝蓋大腿関節置換術

膝蓋大腿関節置換術(PFA)は、膝蓋大腿関節に限局して病変がある患者さんに対して行われる、人工膝関節部分置換術です。

PFAのメリットは、膝蓋大腿関節以外の正常な関節を温存できることです。

正常な関節が残ることで、術後の膝の違和感が少なく、深くしゃがみ込むことや正座ができる可能性があります。

一方で、手術をしなかった関節が悪化し、追加の手術が必要になる場合もあります。また、TKAよりも高い技術が要求される手術です。

人工膝単顆置換術

人工膝単顆置換術(UKA)は、病変が膝の内側もしくは外側に限局した患者さんに対して行われる、人工膝関節部分置換術です。

ただし、適応条件がほかにもいくつかあり、前十字靭帯の機能が温存されていて変形が軽度の患者さんに限定されます。

UKAのメリットは、病変部以外の正常な関節を温存できることです。

正常な関節が残るため術後の膝の違和感が少なく、膝の可動域も良好なため、深いしゃがみ込みや正座ができる可能性があります。

一方で、手術をしなかった部位が経年的に悪化し、追加手術が必要になる場合もあります。また、TKAよりも適応症例が限定され、熟練度が要求される手術です。

人工膝関節全置換術

人工膝関節全置換術(TKA)は、除痛性・安定性・耐久性などの面で非常に高い信頼を確立しており、広く普及している手術です。

TKAは関節内の広範囲の軟骨が傷んでいる場合や靱帯も傷んでいる場合など、症状が進行・悪化した患者さんでも、ほぼすべての症例に対して行えます

また、人工膝関節部分置換術と比較してTKAは、人工関節の耐久年数が長いです。

一方で、膝関節のすべてを人工関節に置換するため、膝の違和感が強く曲がりが悪い場合もあります。

そのため、深くしゃがみ込んだり正座をしたりすることは難しいです。

人工膝関節置換術の効果

膝を押さえる

人工膝関節置換術は、痛みの軽減にともない歩行能力が改善して、QOLも向上することが期待されます。

痛みや歩行能力がどの程度改善するのか、手術の効果が気になる方も多いでしょう。

ここでは、人工膝関節置換術を4つの項目で評価した際に、手術の効果はどのように現れているのかを解説します。

術後の可動域(ROM)

リパビリ

可動域(ROM)とは、自分自身で動かすことのできる関節の範囲を指します。

人工膝関節置換術後の可動域の目安は、屈曲120°・伸展0°です。

健常な人の膝関節の可動域は屈曲130°・伸展0°のため、人工膝関節置換術によって、ROMはほぼ正常値までの改善が可能です。

ただし、術後の可動域は術前のROM・術式・術後のリハビリに影響され、個人差があります。

また、生活様式によって必要な膝関節の可動域も変わります。日常生活を送るうえで、膝関節の可動域は120°以上の確保が重要です。

しかし、和式のADL動作は深くしゃがみ込むため、膝関節の可動域は130°以上の屈曲が必要になります。例えば、正座をするためには、膝関節の可動域は150°の屈曲が必要です。

そのため、人工膝関節置換術後は、術後の膝関節のROMを考慮した生活様式への変更が大切です。

術後のJOAスコア

問診

JOAスコアは、関節の疾患に対して整形外科的な身体機能の判定基準として用いられる評価表です。 評価項目は、以下の4つです。

  • 疼痛・歩行能力(0~30点)
  • 疼痛・階段昇降能力(0~25点)
  • 可動域(0~35点)
  • 腫脹(0~10点)

身体機能を合計100点満点でスコアリングし、術前術後で比較することで、治療効果を客観的に評価できます。

TKAを施行した80歳未満の患者さんのJOAスコアは、術前平均47.7点から術後平均74.4点にまで改善したという報告があります。

80歳以上でTKAを施行した患者さんのJOAスコアも、術前平均42.9点から術後平均73.3点にまで改善しました。

TKAの施行により痛みが軽減し、歩行動作能力やROMが改善したことがわかります。

術後の歩行能力

階段降りる

人工膝関節置換術は、術後合併症などが生じなければ、術後早期から歩行能力の改善がみられます。

通常は、術後1〜2日目には離床して車いすに移乗し、術後2~3日目には平行棒内歩行や歩行器歩行のリハビリが始まります。

一般的な入院期間は1ヶ月程度であり、T字杖歩行・階段昇降ができるようになってから退院となることが多いです。

人工膝関節置換術後における歩行能力の改善には約6ヶ月かかるとされていますが、入院期間中だけでも、歩行能力を大幅に改善することができます。

術後のFTA

骨

FTAとは大腿骨の長軸と脛骨の長軸のなす角度のことであり、正常な場合は176°です。FTAが180°以上だと内反変形(O脚)とされ、FTAが170°以下だと外反変形(X脚)です。

TKAを施行した80歳未満の患者さんのFTAは、術前平均185.7°から術後平均174.0°に改善したという報告があります。

80歳以上でTKAを施行した患者さんのFTAも、術前平均189.7°から術後平均171.1°に改善しました。

FTAが正常値に改善されることで、下肢筋力が回復し、膝関節の可動域が拡大します。その結果、歩行動作の改善・関節の安定性・痛みの軽減が期待されます。

人工膝関節置換術後の合併症

女医

人工膝関節置換術に限らず、手術には合併症のリスクが存在し、それらのリスクを完全に回避することは難しいです。

しかし、術後に起こりやすい合併症は、ある程度予測がつきます。そのため、医療者はさまざまな合併症の予防策を講じ、早期発見に努めています。

また、術後の早期回復にもつながるため、患者さん自身が術後合併症について理解することは重要です。

ここでは、人工膝関節置換術で起こりやすい術後合併症について詳しく解説をします。

出血

骨は血液に富んでいる組織のため、人工膝関節置換術で骨切りをすると、出血は避けられません。そのため、以前は輸血をすることが多い手術でした。

しかし、現在は以下のような予防策を講じることで、出血量をコントロールしています。

  • 駆血しながら手術を行う
  • 術中・術後に止血剤を投与する

これらの対策をすることで、人工膝関節置換術の総出血量は400ml程度に抑えられます。そのため、貧血がない患者さんであれば、輸血をする必要はありません

また、骨からの出血は術後48時間程度続くため、血液が貯留しないように関節内にドレーンを留置します。

ドレーンの抜去は術後2日目には行われますが、その間、出血の量や性状などを観察して異常の早期発見に努めています。

感染

手術中に細菌が侵入すると、創部感染を引き起こします。手術は空気中の細菌が極力少ないクリーンルームで行い、術後には予防的に抗生剤の点滴投与を行います。

しかし、このような対策をとっても、創部感染は約1〜3%の割合で生じているのが現状です。また、糖尿病・関節リウマチ・ステロイド治療中の方は、感染率が高くなります。

早期の感染症であれば、人工関節を温存したまま治療が可能です。しかし、多くの場合は一度人工関節を抜去しなければなりません。

その後は感染症の治療を行い、感染が鎮静化したら人工膝関節の再置換を行います。

創部感染の症状としては創部の痛み・腫脹・熱感があり、血液検査でも感染の有無をチェックしています。

静脈血栓塞栓症

術後は生体防御反応として、血液は固まりやすい状態になります。加えて、手術中は同じ姿勢を長時間とり、術後もベッド上での安静が必要です。

このような状況下では、下肢の血流が停滞して血栓ができやすくなるのです

下肢の静脈に血栓ができた状態を深部静脈血栓症といい、その血栓が剥がれ落ちて、肺の血管に詰まった状態を肺塞栓症といいます。

深部静脈血栓症と肺塞栓症を合わせたものが、静脈血栓塞栓症です。

人工膝関節置換術後に肺塞栓症が起きやすい状況は、術後初めて立ち上がるときですが、術後2週間程度経過して急に起こることもあります。 肺塞栓症が生じた場合は、息苦しさや胸部痛などの症状が現れます。

肺塞栓症は命に関わる重大な合併症となることがあり、肺塞栓症の予防には静脈血栓塞栓症の予防が重要です。

そのため、静脈血栓塞栓症を予防するために、以下の予防策がとられます。

  • 術中・術後に弾性ストッキングや空気ポンプを装着
  • 血栓予防の薬を服用

上記の予防策以外にも、患者さん自身が行える予防策があります。それは、足首を動かして血液の流れを促すことです。

ベッド上では足首を定期的に動かし、日中は積極的に歩行練習をして、下肢の血流が停滞しないようにしましょう。

人工関節のゆるみ

人工関節を長期間使用していると、金属部品と骨の接合部にゆるみが生じ、膝の痛みや歩行障害を引き起こす場合があります。ゆるみが進行する場合は、人工関節を再置換することもあります。

人工関節のゆるみを予防するためには、以下のような予防策が重要です。

  • 膝関節に大きな負担のかかる作業や運動は控える
  • 体重管理を行い、膝関節に持続的な負担がかかるのを避ける
  • 膝関節周囲の筋力が低下しないように、適度な運動を行う

また、退院後の外来でも定期的にレントゲン撮影を行って、人工関節のゆるみがないか確認をしています。

脱臼・骨折

人工膝関節置換術後に脱臼することは非常に稀です。しかし、脱臼する可能性は完全にゼロではなく、転倒で脱臼する可能性はあります。

転倒により人工関節周囲の骨折を生じることもあるため、術後は転倒しないように注意することが重要です。

具体的には、下肢の筋力低下を防ぐために適度な運動を継続したり、歩行に不安がある場合は杖を使用したりするようにしましょう。

神経損傷

人工膝関節置換術後のベッド上安静のときに、腓骨小頭部(膝の後方外側)が圧迫されることで、腓骨神経麻痺が生じる場合があります。

具体的には、つま先が外側に倒れるような格好で長時間寝ていると、腓骨神経が圧迫されます。 腓骨神経麻痺の主な症状は、膝下の外側から足の指にかけてしびれたり、感覚が鈍くなったりすることです。

また、足首を自力で上側に向ける動き(背屈)ができなくなり、つま先立ちのような下垂足になります。

腓骨神経麻痺が生じると歩行が難しくなるため、腓骨小頭部が圧迫されないように、注意が必要です。特に、術後ベッド上安静の間は腓骨神経麻痺が起きやすいです。

腓骨小頭部が圧迫されないように、タオルを当てて除圧するようにしましょう。

人工膝関節置換術後の注意点

看護師

人工膝関節置換術後は、1ヶ月程度で退院して社会生活に戻ります。

その際に「日常生活で気をつけることはないのか」「スポーツをやってもいいのか」など、気になる方も多いでしょう。

術後の日常生活での注意点は、以下に挙げる6つがあります。ただし、これらは一般的な注意点であり個人差もあるため、退院前に医師や看護師に確認するのがよいでしょう。

  • 椅子とテーブル・ベッド・洋式トイレなど、洋式の生活様式に変更する
  • 重い荷物は持たない
  • 太り過ぎないように体重管理を行う
  • 転倒に注意する
  • 膝関節に負担がかかるスポーツは控え、散歩や水泳などの運動をする
  • 定期的に外来受診をする

このように、退院後は膝関節に負担をかけない生活を心がけるようにしましょう。

人工膝関節置換術後に気をつけるべき体勢

バツマーク

人工膝関節置換術後に気をつけるべき姿勢として挙げられるのは、正座です。正座をするためには、膝関節の可動域が150°必要です。

しかし、人工膝関節置換術後の屈曲の平均可動域は120°のため、術後に正座ができる患者さんは5〜10%程度とされています。

ただし、術後の関節可動域は個人差があるため、正座ができるまで膝を曲げられるようになれば正座をしても問題ありません。

正座をしてもよいかどうかは、医師やリハビリスタッフに確認するのがよいでしょう。

まとめ

夫婦

本記事では、人工膝関節置換術について詳しく解説をしました。

人工膝関節置換術を受ける際には、術後合併症や人工関節の再置換などのリスクが存在します。しかし、その一方で膝の痛みが軽減し、歩行能力が改善するという大きなメリットが存在します。

膝の痛みが軽減すれば日常生活動作をよりスムーズに行えるようになり、旅行や運動などの趣味を再び楽しめることで、QOLの向上にもつながるでしょう。

人工膝関節置換術を受ける予定の方や検討している方にとって、この記事が参考になれば幸いです。

参考文献

この記事の監修歯科医師
松繁 治医師(新東京病院)

松繁 治医師(新東京病院)

岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科

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