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再生医療における難聴の現状|現在研究されているiPS細胞を活用した治療法も併せて解説

再生医療 難聴

老人性難聴・突発性難聴・メニエール病などいくつかの難聴は、主に内耳で発生する感音難聴です。難聴を治療するのが難しい理由の1つは、内耳の検査です。

適切な検査が行えないため疾患の原因がはっきりせず、その結果、治療法の開発が遅れることがあります。

iPS細胞は患者さんの血液などから作り出されます。そして、患者さんのさまざまな臓器の細胞が人工的に複製される技術です。

iPS細胞の技術を用いたアプローチによって、将来的には老人性難聴を含むさまざまな難聴の原因が詳細に解明されることが期待されています。

本記事では、再生医療における難聴治療の概要や、iPS細胞を活用した治療法などを詳しく解説します。

再生医療のメリットや注意点も併せて解説しますので、ぜひ参考にしてください。

再生医療における難聴治療の現状

耳のチェックをされる女性

従来の治療法ではなぜ難聴の治療が難しいといわれているのですか?
難聴には、伝音性難聴と感音性難聴の2種類があります。音の伝達が悪くなる難聴の伝音性難聴は補聴器を使うことで改善が見込めます。一方、感音性難聴は検査が難しく、治療も困難です。
感音性難聴は内耳、もしくは内耳から中枢側にて障害が起こる原因不明な難聴になります。難聴の原因は幅広く、その診断は複雑なことがあります。難聴を的確に診断するための画像診断機器がなく、CTやMRIでは対応ができないため正確な診断を難しくしているのです。
また、蝸牛は骨の奥に位置し、リンパ液で満たされた臓器のため、その細胞を採取するのは難しいです。そのため、病理検査ができません。耳の内部ではさまざまな要素が相互に影響しあっており、内耳・聴神経・耳の構造・中枢神経などが複雑に絡み合っています。このことも正確な診断が難しい原因となっています。
十分な検査ができないと原因を突き止めることも難しいです。その結果、治療法の開発が遅れ、難聴の治療は難しいとされているのです。
難聴は再生医療で治療できるのですか?
残念ながら、現時点では難聴に対する再生医療の治療は難しいです。現在、両側70dB以上の感音難聴の場合は人工内耳手術を行いますが、片耳が聞こえている場合は人工内耳手術の適応外となるため治療ができません。そのため、片耳が聞こえている場合は悪化するのを待つ必要があり、不便な生活を強いられることになっていました。
基礎的な研究は行われているものの、高度に分化した感覚である聴覚は構造上の特徴から臨床応用までにはかなりの時間を要するでしょう。
再生医療で難聴のための医薬品の開発が行われるとのことですが…
再生医療でiPS細胞を用いた難聴のための医薬品開発は行われています。体の取りやすい組織から作られ、個々の遺伝子情報を保持しています。この特性を利用して、患者さんの細胞からiPS細胞を作り、それを増やして成長させることで病気を人工的に再現できるのです。
iPS細胞を使い病気の特性を再現した細胞や組織でさまざまな物質や薬剤を試し、その効果を確かめます。これにより、これまでのやり方では見つからなかった新しい薬剤が見つかり、新しい医薬品が開発される可能性があるのです。
幹細胞は多様な細胞に変化する能力を持っており、これを使って損傷を受けた耳の組織の再生を促進する薬が開発されています。なお、iPS細胞は人工的につくった幹細胞の一種です。このiPS細胞により、有毛細胞や内耳組織を再生し、聴力を回復させることが期待されます。
進行性の難聴を起こすペンドレッド症候群は遺伝性難聴では患者数が多いですが、慶応義塾大学医学部研究チームは免疫抑制剤として用いられているシロリムス(別名ラパマイシン)に治療効果がある可能性を発見しました。また一部の薬は臨床試験段階にあり、その安全性や効果など課題があるものの、実用化に向けた研究が進められています。
難聴治療における再生医療の進展は、患者さんのQOLを向上させる重要な一歩となるでしょう。iPS細胞を使えばすでに病気を患っている患者さんの細胞から病気を再現し、薬品のテストを行うことが可能です。これにより難病だけでなく、一般的な病気に対する治療法や薬剤の開発が進むことが期待されます。
まだ課題はあるものの、iPS細胞は今後、医療の進展に大きな役割を果たす分野と考えられています。
後天的に生じた難聴にも再生医療は適用できますか?
後天的に生じた難聴には、突発性難聴・メニエール病・加齢・騒音・外傷などさまざまな原因があります。現在、iPS細胞を使って内耳組織を再生させる試みが行われています。慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉化学教室と生理学教室との共同研究チームにて蝸牛のほとんどの種類の細胞が作成されており、将来的には有毛細胞の再生もできる可能性があるでしょう。
ただし、内耳はとても複雑な構造を持っており、それを再生することには技術的な難題が伴います。難聴の原因や進行度により、再生医療の有効性が異なる可能性があるかもしれません。現状、できることはこれ以上有毛細胞を減らさないことです。

再生医療における難聴治療法

診察を受ける女性

iPS細胞を活用した治療法について教えてください
iPS細胞は、体の細胞に特定の遺伝子を導入して、その細胞を受精卵に近い状態で戻す技術です。遺伝子とは私たちの体を作る設計図のようなもので、この遺伝子に基づいて維持されています。iPS細胞は、患者さん自身の細胞から作り出され、多彩な種類の細胞に変化することが可能です。この変化を活用して、将来的には聴覚器官の損傷を回復できる可能性があります。iPS細胞は患者さんごとに生成されるため、個々の遺伝子情報や体質に適した治療を行うことが可能です。
日本企業のアステラスとノーベルファーマは、遺伝性難聴のPendred症候群に対するラパリムス錠の第2段階の試験を行っています。この治療法は、iPS細胞を使って作った内耳モデルで効果が示されていて、注目を集めています。さらに、iPS細胞を利用した難聴治療薬の研究はほかのベンチャー企業でも進んでおり、将来的な発展が期待されています。
鼓膜が破れるなどの一時的な聴覚機能異常にも再生医療は有効ですか?
通常、鼓膜が破れると自然に修復が始まることがありますが、再生医療が介入してその修復を促進する可能性も考えられます。例えば、鼓膜が裂けたり破れたりした状態では、鼓膜の振動が弱くなり蝸牛にうまく伝わらなくなることで難聴になります。この鼓膜を再生する鼓膜再生療法は、健康保険が認められた再生医療です。
幹細胞や成長因子を使用して損傷を受けた鼓膜の細胞を修復・再生させることにより、鼓膜の機能を回復できる可能性があります。再生医療では損傷した組織をサポートするためにバイオマテリアルを使用する方法が検討されています。患者さんごとの状態に合わせて治療を調整することが重要です。再生医療は患者さんの個別の特性に応じたアプローチの提供が期待されるでしょう。
難聴を罹患した際に再生医療以外の治療法でも改善は可能ですか?
難聴になった場合、再生医療以外にも治療法はあります。ただし、治療の成果は難聴の原因や程度によって異なるでしょう。治療法には補聴器の使用と手術があります。軽度から中程度の難聴に悩む場合、補聴器はとても有益な解決策となるでしょう。補聴器は外部からの音を増幅し、患者さんがより明瞭に聞こえるようサポートします。形状だけでなく機能にもさまざまな種類が存在し、難聴の程度に合わせて軽度から高度な難聴まで対応できるものがあるのです。補聴器を最大限に活用するためには、難聴によって影響を受けた耳の残存聴覚を利用し言葉を聞き取る能力を引き出すことが重要です。
難聴が進行し重度難聴として認定されると、聴力に合った補聴器の購入費用の一部が支給されることがあります。難聴の程度に応じて、ビタミンB12・血行改善剤・ステロイドホルモンなどの薬物療法が個別に検討されるでしょう。特定の難聴に対しては薬物療法が有効なことがありますが、その適用は限られています。
言語やコミュニケーションの発達に影響を与えた場合、特に小児に対して早期の言語聴覚療法が役立ちます。また、難聴を改善するうえで、日常生活のなかで気を付けなければならないことは、ストレスを溜めない・十分な睡眠を取る・高脂質な食生活を避けることです。これにより、免疫力を高め血流を改善し、リスクを軽減することが大切です。

再生医療における難聴治療を受ける際に知りたいこと

顎に手をあて考える女性

再生医療における難聴治療のメリットと注意点を教えてください
再生医療における難聴治療のメリットは、患者さんそれぞれの遺伝子情報や体質に応じて治療ができ、個別に合わせたアプローチが可能なことです。幹細胞を使って耳の損傷を受けた組織や細胞を再生することで、聴力が回復する期待があります。再生医療による治療効果は、一度の治療で得られた結果が長期間にわたって続く可能性があります。
注意点は、耳の複雑な構造に起因する技術的な問題があり、治療を実用化するために技術の進歩が不可欠です。新しい治療法の安全性が確認されていない場合、予測できないリスクがあるため臨床試験や研究での安全性確認が必要です。再生医療には倫理的な問題が関わるため、患者さんの同意や治療に関する倫理的なガイドラインが不可欠です。遺伝学的な検査は難聴に関して将来の病態進行を予測し、治療法の選択に有益な情報を提供する重要な手段となっています。特に若年で双方の耳に影響を及ぼす感音難聴の遺伝子検査は、現在では保険の対象とされ、医療診療において積極的に利用されています。
難聴の再生医療での治療は現在誰でも受けられますか?
再生医療を用いた難聴治療は、現時点では一般的に提供されてはいません。この治療はまだ研究の段階であり、治療が広く一般に利用可能になるにはまだ時間がかかる可能性があります。患者さんが再生医療を受けるには特別な条件や参加要件を満たす必要があるでしょう。
治療を受けるためには、関連する臨床試験や治療プログラムに参加する必要があります。これらのプログラムへの受け入れは、患者さんの状態や関連する条件に基づいて決まるため、詳しく知りたい場合は医師に相談してみることをおすすめします。
再生医療は自費診療となりますか?
再生医療における難聴治療が自費診療になるかどうかは、医療機関や治療プログラムによって異なりますが、現在、再生医療の難聴治療はまだ研究や臨床試験の段階であるためわかりません。一部の治療や臨床試験は、自費診療として提供されることがあります。これらは高度な技術や専門的な知識が必要であり、費用が高額になることがあるのです。
保険適用になるには、特定の医療処置やサービスが国の公式な認可を受ける必要があります。これにより、保険がその処置やサービスを正当なものとして承認し、患者さんがこれを利用する時には保険の給付を受けられるのです。なお、若年発症型両側性感音難聴は、難病医療助成制度の対象であるため医療費の助成を受けられます。

編集部まとめ

医師と患者

再生医療を活用した難聴治療を詳しく解説しました。

再生医療は治療過程で体への負担が軽減され優れた予後が期待されるため、さまざまな状況で注目を浴びています。

感音性難聴の再生医療はまだエビデンスが多くないため現状はとても困難でありますが、大学や企業による研究が進んでいるため、将来的な発展が期待されるでしょう。

また、現時点ではまだ医療保険の適用がないため治療費が高額になりますが、その一方で保険対象となる遺伝子検査で得られるメリットや治療の可能性が大いに期待されています

難聴でお困りの方はまずは専門の耳鼻咽喉科を受診し、再生医療に関する情報や適切なアドバイスを得ることをおすすめします。

参考文献

この記事の監修歯科医師
渡邊 雄介医師(国際医療福祉大学 教授 山王メディカルセンター副院長 東京ボイスセンターセンター長)

渡邊 雄介医師(国際医療福祉大学 教授 山王メディカルセンター副院長 東京ボイスセンターセンター長)

1990年、神戸大学医学部卒。専門は音声言語医学、音声外科、音声治療、GERD(胃食道逆流症)、歌手の音声障害。耳鼻咽喉科の中でも特に音声言語医学を専門とする。2012年から現職。国際医療福祉大学医学部教授、山形大学医学部臨床教授も務める。

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