髪の毛は自然に生え変わりますが、あまりにも抜ける本数が多い場合は、脱毛症かもしれません。脱毛症は、年齢に関係なく、20代でも30代でも発症します。本記事では、抜け毛の原因をはじめ、異常脱毛の見分け方、抜け毛対策、治療法などを解説します。
抜け毛の中でもストレス要因と思われるものは?
抜け毛の原因は加齢だと考える方が多いですが、必ずしもそうとは限りません。ここでは、ストレスによって発症する円形脱毛症や、分娩後脱毛症、女性・男性型脱毛症について詳しく説明します。
円形脱毛症
円形脱毛症は、突然に髪の毛が円形や楕円形に抜ける現象を指します。毛根が健康な箇所と、そうでない箇所がくっきりと確認できるのも特徴的です。抜け毛の範囲は、個人差があり、10円玉くらいの大きさの単発型から、全頭型、眉毛・まつ毛まで及ぶ全身型までさまざまです。一部の人は再発が繰り返され、治療が難しいケースもあります。
円形脱毛症が発症する原因には、ストレスをはじめ、出産、遺伝などが考えられ、その一つに自己免疫疾患があります。自己免疫疾患とは、免疫機能の異常による疾患です。脱毛という症状の場合は、身体に何も害がない毛包(髪をつくる器官)を異物だと認識してしまうことで、髪の毛が抜けてしまいます。これは、年齢を問わず発症するため、大人だけでなく、小学生や中学生も円形脱毛症を患う可能性があります。
分娩後脱毛症(女性)
産後における女性の脱毛症は、主に女性ホルモン分泌の変化が影響しています。妊娠期間中はエストロゲンやプロゲステロンが増加し、髪が抜けないよう保持されます。しかし、産後に急激なホルモンの減少が起きることで、保持されていた髪が急速に抜け落ちてしまいます。このホルモンの変化に加えて、産後の身体的なストレスや新生児の育児に伴う不規則な生活、睡眠不足などの状況が、脱毛症の悪化を促進します。
授乳の頻度が多く、十分な休息が難しいことがストレスや疲労の原因となり、これが身体や頭皮の血行不良を引き起こして抜け毛を進行させる要因となります。さらに、母体のエネルギーが母乳の製造に取られ、食事が不規則になることで、髪の成長に必要な栄養素が不足しやすくなります。特に、鉄分、ビタミン、亜鉛の不足は脱毛の深刻化につながるとされています。
女性男性型脱毛症(FAGA)
FAGAは女性の薄毛を指す総称で、AGAは男性の薄毛を指します。男性の場合は、局所的な脱毛が見られ、額や頭頂部が薄くなることが一般的です。他方で、女性の場合は薄毛が頭頂部や全体的に均一に広がる特徴があります。女性の薄毛の主な原因は、ストレスによるホルモンバランスの乱れです。
ホルモンの乱れにより、女性ホルモンの分泌が低下し、髪のハリやコシが失われ、髪の毛全体のボリュームが減少します。FAGAは40代前後の女性に多いとされていますが、20代でも発症することがあります。治療を受けることで抜け毛の進行を抑えることができますので、抜け毛が目立ってきたら医療機関を受診しましょう。
異常な抜け毛の見分け方
異常脱毛は、患者さんが気づかない間に進行します。見分けるポイントとしては、「1日に100本以上の毛が抜ける」「毛根の形がいびつ」「髪の毛が短く、細い毛がある」などです。次の記事では、それらの見分けるポイントについて詳細に説明します。
1日に100本以上が抜ける
髪の毛が健康な状態であれば、1日に50本から100本の髪の毛が自然に抜けるものです。しかしこの範囲を超え、排水口や枕元に見られる抜け毛が増えた場合には、異常脱毛の兆候となり得ます。そのほかにも、鏡を見たときに地肌が透けて見えたり、髪の毛のボリュームが減少したりするなど、異常脱毛にはさまざまなサインがあります。
毛根の形がいびつになっている
髪の抜け毛において、毛根や形状に注目することで異常脱毛を見抜くことができます。自然な脱毛では抜けた髪の毛はマッチ棒のような形状をしており、根元は白っぽい色を帯びています。毛根が小さくて丸みがない、または形にくびれが見られない場合、これは異常脱毛による抜け毛の兆候かもしれません。
細い毛や短い毛が抜ける
ストレスによる抜け毛かどうかを判断する際に、毛根の状態が鍵となります。自然に抜けた髪は完全に成長した後に抜け落ちるため、太さやハリがあります。一方で、ストレスの影響で抜けた髪は異常脱毛と呼ばれ、成長の途中で抜け落ちるため、細くて短く、毛根が黒いのが特徴です。
ストレスによる抜け毛の理由
ここでは、ストレスによって起きる、自律神経の乱れ、ホルモンバランスの崩れ、自己免疫疾患について詳しく解説します。
自律神経のバランスが崩れている
強いストレスがかかると、自律神経のバランスが乱れることがあります。自律神経は血流を含むさまざまな生理機能を制御しており、ストレスによる影響で血行が悪くなると、頭皮への栄養供給が不足しやすくなります。この状態が続くと、毛髪の成長サイクルが乱れ、その結果、抜け毛や薄毛が生じることがあります。毛髪の健康を維持するためにも、ストレスの発散方法やリラックス方法を見つけることが大事だと言えます。
ホルモンのバランスが崩れている
自律神経の乱れと同様に、ストレスがかかることで、ホルモンバランスにも大きな影響が出ます。男性も女性も、男性ホルモンであるDHT(ジヒドロテストステロン)が過剰に分泌されることで、髪の毛が抜けやすくなります。ホルモンバランスの乱れに伴い、髪の毛の成長サイクルが乱れ、結果として薄毛が急速に進行することが考えられます。
自己免疫疾患にかかっている
円形脱毛症は、自己免疫疾患に属する病気です。自己免疫は、ウイルスや細菌などの有害物質から身体を守る機能を果たしています。しかし、何らかの原因で自己免疫が異常反応を引き起こすと、害のない物質に対しても過剰に反応し、さまざまな症状が発生します。円形脱毛症では、自己免疫が毛根を異物と見なしてしまい、その結果、髪が抜け落ちる状態が生じます。この自己免疫の異常は、遺伝的な要因だけでなく、ストレスや疲労など複合的な要因が絡むことで起きます。特に、ストレスや疲労が発症のトリガーとなることが知られています。男性よりも女性が発症しやすい傾向があり、注意が必要です。
自分でできるストレスによる抜け毛への対策
誰しも若くして脱毛症になるのは、嫌だと思います。生活習慣において、抜け毛の発症を防ぐポイントについてお伝えします。
規則正しい生活を送る
生活習慣の乱れは、ストレスによる抜け毛と密接に関連しており、不規則な生活、運動不足、睡眠不足などが該当する方は要注意です。特に運動不足は血行不良を引き起こし、これが抜け毛の原因となる可能性があります。さらに、睡眠不足は成長ホルモンの正常な分泌を妨げ、健康な髪の成長を止めてしまいます。
現代社会の忙しい生活では、生活習慣の改善は難しいかもしれませんが、運動は無理のない範囲でストレッチやウォーキングをすることで全身の血行を改善し、頭皮の血流も向上させます。また十分な睡眠を確保することは、髪の成長に不可欠な成長ホルモンの分泌を助けます。これらの健康的な習慣の組み合わせが、髪の健康を維持し、抜け毛を予防する一助となります。
栄養バランスの良い食事を取る
健康な髪の成長を促進するには、栄養バランスの取れた食事が欠かせません。たんぱく質、ミネラル、ビタミンなどの栄養素をまんべんなく摂取することで、髪が必要な栄養をしっかり得ることができます。食生活に十分な注意を払い、栄養不足を防ぐようにしましょう。ただし、食事の偏りは髪の健康に悪影響を与える可能性があります。
特に注意が必要なのは、就寝前の摂取と、糖質や脂質の過剰な摂取です。寝る直前に食事を取ると、胃腸が覚醒し、成長ホルモンの分泌が低下します。成長ホルモンは髪の成長に寄与するため、寝る2時間前からは食事を控えましょう。また、脂質や糖質の取りすぎも避けるべきです。脂質の多い食事は頭皮の皮脂分泌を増加させ、毛穴の詰まりを引き起こします。これにより、髪に必要な栄養が頭皮に十分に届かず、髪の成長が阻害される可能性があります。バランスの取れた食事と食事のタイミングに留意することで、健康で美しい髪を維持できます。
ポジティブに考える癖をつける
過度な心配は逆にストレスを生み出し、抜け毛の改善を妨げてしまうことがあります。特に産後の抜け毛は、自然なサイクルに沿って改善されていくものです。時間がたてば、状態が良くなることを期待できます。ポジティブな視点で考え、前向きな気持ちを持つことが大切です。
頭皮を清潔に保つ
毛が抜けることを気にして洗髪を控えてしまう方もいるかもしれませんが、不清潔な状態を放置すると毛穴が詰まったり、皮膚炎が発生したりする可能性があります。頭皮を清潔にするためのいくつかのポイントを抑えましょう。まず洗髪をする際は、ぬるま湯を使用し、シャンプー前に頭皮や髪を十分にぬらします。シャンプーは痛みや刺激がなければ変える必要はありませんが、刺激を強く感じる場合には、シャンプーの使用を控えることも検討しなくてはなりません。
使用する際は、髪の毛に原液を直接つけるのでなく、手で泡立てから洗うことがポイントです。また、洗髪は爪をたてずに、指の腹を使って優しくマッサージするようにしてください。その後、シャンプーが地肌に残らないように、十分に洗い流します。そして、清潔なタオルで水分をふき取り、ドライヤーでよく乾かします。ドライヤーの当てすぎも良くはありませんが、濡れた髪は菌が住み着きやすくなる環境を生み出し、抜け毛を発症させる原因にもなります。
病院での抜け毛の治療
どこの医療機関を受診するかによって、抜け毛への治療アプローチ方法は異なります。ここでは、皮膚科・心療内科・AGA専門のクリニックの3つに分けて説明します。
皮膚科での治療
皮膚科では、ストレスや自己免疫が原因となる円形脱毛症や、甲状腺機能障害による薄毛の治療を行っています。これらの疾患は保険診療の対象であり、治療にかかる費用は保険によってカバーされます。一方で、男性型脱毛症(AGA)や女性型脱毛症(FAGA)などは自由診療として扱われるため、これらの治療を受ける場合は保険診療と比べて高額な費用がかかります。
心療内科での治療
円形脱毛症の治療において、心因性やストレスが影響を及ぼす場合、皮膚科の治療だけでなく、心療内科的な治療のアプローチも重要です。患者さんには、認知行動療法などの心理療法を受けてもらい、自己モニタリングを通じてストレスの発散方法やリラックス法を身につけてもらいます。心身の健康が正常な状態に維持されれば、抜け毛を減少することにつながるでしょう。
AGA専門クリニックでの治療
AGA専門クリニックでは、さまざまな薬やコースが提供されています。治療薬には、抜け毛を抑制する薬、発毛を促進する薬、ビタミン剤などが含まれます。一部の髪の毛を増やす薬には強い副作用があるため、患者さんの健康状態に応じて、内服薬ではなく外用薬が処方されることもあります。また、毛髪再生治療を提供するクリニックもあります。専門のカウンセラーと相談しながら、自身に合ったコースを選択することが大切です。
毛髪再生治療(幹細胞再生治療)
幹細胞再生治療は、自分の皮下脂肪から取り出した幹細胞を用いて行う再生医療の一種です。体内では絶えず細胞が入れ替わり、失われた細胞は新しいものに補充されます。その中で、幹細胞は再生と補充の能力を持ち、新しい皮膚や血液のもととなる役割を果たします。具体的には、組織幹細胞と多能性幹細胞に分けられます。組織幹細胞は特定の組織や臓器で失われた細胞を再生させる能力があります。一方、多能性幹細胞は特定の役割を持たず、さまざまな細胞に分化・変化できる特別な幹細胞です。毛髪再生治療(幹細胞再生治療)では、幹細胞を頭皮に注入し、髪を生成する細胞を活性化させ、ヘアサイクルを整えます。
まとめ
最後まで記事をご覧いただきありがとうございます。日ごろのケアも大切ですが、薄毛の症状に気づいた時点で、皮膚科やAGA専門のクリニックを受診することが症状を悪化させないためには重要です。この記事を通じて、一人でも多くの患者さんの抜け毛に関する悩みを解消できれば幸いです。
参考文献