薄毛というと男性のイメージがありますが、女性であっても薄毛や抜け毛に悩む方は少なくありません。男性の場合は生え際や頭頂部の薄毛が目立ちますが、女性の場合は年齢とともに髪のボリュームが減ってきたり、髪が細く弱々しくなったと感じます。女性の薄毛はなぜ起こるのでしょうか。毛髪が生える仕組みから、薄毛が起きる原因や女性の薄毛の症状や特徴、薄毛の治療方法について解説します。
毛髪が生える仕組み
毛髪は、地肌から出ている部分を毛幹、地肌のなかにある部分を毛根といいます。毛髪が作られるのは毛根の一番奥、表皮の下、真皮のなかにある毛球と呼ばれる部分です。毛球のなかでは、毛乳頭からの指示によって毛髪のもととなる毛母細胞が常に毛髪を作り続けています。毛母細胞は分裂や増殖をして各部位に分化し、さらにそれが角化したものが毛髪になる仕組みです。毛髪はいわば死んだ細胞。毛母細胞が分裂と増殖して新しい細胞が作られることで、押し出されるようにして伸びていきます。なお、毛髪は1年間に10cm以上、長い場合は6年以上伸び続けるといわれています。
1本の毛髪が作られ、成長してから抜け落ちるまでの周期をヘアサイクル(毛周期)といいます。毛髪は永遠に伸び続けるものではなく、ある程度成長すると自然に抜け落ち、そこからまた新しい毛髪が作られるものです。ヘアサイクルは成長期、退行期、休止期を繰り返していきます。
◎成長期
成長期は新しい毛髪が生える段階で、毛母細胞の分裂や増殖が進行して、髪が伸びていきます。成長期は2~6年程度ととても長く、毛髪全体の80~90%が成長期にあたります。成長が止まると、退行期に移ります。
◎退行期
毛母細胞の分裂が衰えて髪の成長がストップする段階です。退行期は2~3週間程度といわれています。
◎休止期
休止期になると毛母細胞の分裂は止まり、毛根の位置が浅くなります。しかしその奥では新たな髪を作るために細胞分裂が活発化しており、新しい髪に押し出される形で、今ある髪は自然に抜け落ちます。なお、自然に抜ける髪の本数は、1日に80~100本程度といわれています。
女性の薄毛が起きる原因
男性の薄毛は男性ホルモンによる影響が大きいと考えられています。一方で、女性の薄毛が起きる原因は多様化しています。女性の薄毛が起きる主な原因について解説します。
ホルモンバランスの乱れ
女性は卵巣からエストロゲンとプロゲステロンという女性ホルモンが分泌されており、このエストロゲンには毛髪の成長期を伸ばす働きがあります。ホルモンバランスが乱れると、こうした女性ホルモンの働きが弱まり、薄毛につながってしまうことがあるのです。
ホルモンバランスは加齢によって大きく変動するもので、髪の状態も年齢とともに変化します。髪質や毛量は20代でピークを迎え、年齢を重ねるとともに乾燥、うねり、ハリやコシ不足といった悩みも出てきやすくなるでしょう。更年期に入るとエストロゲンの量が激減するため、更年期以降に薄毛の症状が出ることが多くなります。
ストレス要因
ストレスによって薄毛の症状が出る方も少なくありません。人間関係、仕事や家庭内での問題など、慢性的なストレスがあると自律神経に乱れが生じて血行不良を起こす可能性があります。毛髪を作るには栄養素や酸素が必要です。これらは血液に乗って毛根まで運ばれますが、血行不良の状態ではうまく栄養素や酸素が届かず、薄毛や抜け毛の原因になります。
ストレスや自律神経の乱れはホルモンバランスの乱れを招き、結果的に薄毛の原因になってしまうこともあるでしょう。ストレスを溜めない生活を心がけることが、髪の健康にもつながります。
生活習慣の乱れ
睡眠不足、喫煙や飲酒、栄養バランスの偏りといった生活習慣の乱れも薄毛の原因になりえます。深い睡眠によって分泌される成長ホルモンは、毛髪の成長に必要なものです。睡眠不足によって成長ホルモンが低下すると、毛髪の成長にも悪い影響がでてしまいます。喫煙や飲酒についても控えることをおすすめします。飲酒や喫煙は、女性ホルモンに悪影響をおよぼし、生理不順や不妊のリスクも高まるため注意が必要です。
食事において栄養バランスの偏りがあると、必要な栄養素が満たされずに薄毛や抜け毛の原因にもなってしまいます。過度なダイエットは髪にもよくありません。バランスのよい食生活を心がけましょう。
遺伝的な要因
薄毛には遺伝的な要因もあり、特に母方の祖父が男性型脱毛症(AGA)の場合は、産後脱毛を起こしやすい可能性があるといわれています。産後脱毛とは、出産後にエストロゲン分泌量が急激に減少するために起きる脱毛のことです。通常は6ヵ月~1年程度で自然にもとに戻りますが、長引く場合は医療機関を受診することをおすすめします。
女性に起きる脱毛症とその特徴について
女性に起こる脱毛症にはさまざまな種類があります。脱毛症の種類とその特徴について解説します。
女性型脱毛症
女性型脱毛症はFPHL(Female Pattern Hair Loss)として、男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版にて定義されました。女性型脱毛症は女性が発症する脱毛症の総称をいい、以下に紹介するさまざまな脱毛症も含まれます。
女性の脱毛症は男性型脱毛症とは異なり、毛髪が全体的に薄くなってしまい脱毛した部分との境界がはっきりしていない、細く短い毛髪に変わるといった特徴があります。髪全体のボリュームダウン、分け目や地肌の薄さが目立つ、髪がペタッとした印象になるといった症状が見られます。
休止期脱毛
休止期に起きる脱毛である急性休止期脱毛とは、成長期の毛髪が急激に休止期へ移行することで、成長途中で脱毛してしまうもので、細くて短い髪が抜けるのが特徴です。原因としてはストレスや栄養不足、手術、出産などが挙げられます。
同じく休止期に起きる慢性休止期脱毛は、6ヵ月以上継続するのが特徴です。女性男性型脱毛症(FAGA)と似ており、前髪の生え際、頭頂部、側頭部の脱毛が特徴です。
びまん性脱毛症
女性型脱毛症のほとんどがびまん性脱毛症であり、女性の薄毛ではよく見られるタイプです。男性に見られるM字型やO字型のように局所的な薄毛ではなく、頭髪全体に均等に脱毛して全体的に髪が薄くなるのが特徴で、40代以降の女性に見られます。主な原因としては加齢、ストレス、極端なダイエット、誤ったヘアケア方法などがあります。原因を取り除くことで改善することもありますが、気になる場合は医師の診察を受けましょう。
円形脱毛症
円形や楕円形に脱毛する症状で、前触れもなく突然一気に髪が抜けるのが特徴です。数か所発症することもあり、頭髪以外にも全身の毛が抜けるケースもあります。
原因は自己免疫疾患や、ストレスや出産によるホルモンバランスの乱れなどさまざまで、原因を特定するのが困難なケースも少なくありません。自己免疫疾患が原因の場合は、元凶となる病気を治すことで脱毛症状が改善することがあります。
分娩後脱毛症
分娩後脱毛症は、出産後に一時的に脱毛する脱毛症の一種です。妊娠中に増えたエストロゲンが出産によって急減することが原因で起こります。出産後に脱毛が始まり、3ヵ月~半年でピークを迎えるのが一般的です。出産後は育児ストレスや疲労、生活習慣の変化によって脱毛が起こることもありますが、6ヵ月~1年程度で自然に戻ります。
ひこう性脱毛症
粃糠(ひこう)といい、乾燥したフケを伴う脱毛症のことです。乾燥した細かいフケが毛穴を塞ぐことで炎症が起き、毛髪が成長できなくなることで起こります。進行すると強いかゆみや赤みが見られ、末期にはかさぶたや熱を持つこともあります。
シャンプーが合っていない、誤ったヘアケアなどが原因になることが少なくありません。炎症が起きている場合は、薬による治療が行われます。 女性の脱毛症にはさまざまな種類がありますが、これらの脱毛症にはどのような治療方法があるのでしょうか。次章で詳しく見ていきましょう。
脱毛症が起きた場合の治療方法
脱毛症が起きてしまったときには、どのような治療が行われるのでしょうか。一般的な薄毛の治療方法について解説します。
薄毛治療薬の服用
女性の薄毛治療薬は、パントガールが代表的な内服薬です。女性の薄毛や抜け毛改善を目的に作られた治療薬であり、毛髪や頭皮に必要な栄養を配合しています。ビタミンB群、アミノ酸、パントテン酸などを主成分としており、副作用が出にくく継続しやすい治療薬です。ただし、消化器系の副作用が起きることもありますので、医師と相談したうえで服用してください。
女性用の外用薬としてはミノキシジルがあります。ミノキシジルは日本で発毛成分として認められているもので、頭皮に直接塗るタイプの治療薬です。ミノキシジル配合の市販薬も販売されています。
薄毛治療薬は病院で処方される薬のほか、ドラッグストアなどで市販薬を購入することもできます。ただし、成分によっては副作用などの注意が必要な治療薬もありますので、病院で相談のうえ、自分に合った治療薬を処方してもらうことをおすすめします。
発毛レーザー用いた治療
医療用発毛レーザーを用いて、体内の発毛システムを活性化させる治療方法です。レーザーを照射することで、頭皮のなかにある毛根に小さな傷をつけ、眠っている毛根を目覚めさせて発毛を促進します。レーザーでつけた傷を修復する過程で、細胞からサイトカインというタンパク質が分泌され、毛母細胞を増殖させます。さらには新しい毛細血管が作られ、血流も促進します。発毛レーザー治療では、毛根を強くして、太く強い毛髪が発毛されることが期待できます。
再生医療を用いた治療
再生医療とは、体内から採取した細胞や組織を、培養などを施して移植する医療技術のことをいいます。薄毛治療における再生医療は、発毛に有効な成長因子や幹細胞を頭皮に注入して、毛髪の再生を促進する治療方法です。再生医療を用いた治療については、次章で詳しく解説します。
再生医療を使った薄毛治療とその効果
再生医療を使った薄毛治療としては、幹細胞培養上清治療が代表的です。幹細胞培養上清治療とはどのような治療方法なのか、期待される効果や注意点を解説します。
幹細胞培養上清治療について
幹細胞とは、さまざまな細胞に分化できる細胞の赤ちゃんのようなものです。骨髄や血液など体内のいろいろな組織に存在していますが、特に脂肪からの抽出が効率的といわれています。 培養上清は培養する過程で精製される上澄み液のことです。幹細胞培養上清には、幹細胞が分泌する成長因子やサイトカインが含まれており、これらの成分が毛包細胞に働きかけることで、毛髪の成長が促進される仕組みです。幹細胞培養上清治療では、他人の脂肪や臍帯、歯髄の幹細胞を培養し、その上澄み液を頭皮に注入することで薄毛改善を目指します。
幹細胞培養上清治療の期待される効果
毛根の周りにある脂肪前駆細胞が活性化し、成長因子が休止状態の毛根に作用します。これによって、休止期にあったヘアサイクルが成長期へと切り替わり、毛乳頭細胞が活性して毛母細胞の分裂と増殖が促されます。
血管が新生されることで血流がよくなり、栄養素や酸素が十分届くことで太く強い毛髪が育てられるメリットもあります。脂肪を注入することで、脂肪不足で硬くなった頭皮がやわらかくなり、発毛に適した頭皮環境になる効果も期待できるでしょう。
幹細胞培養上清治療の注意点
幹細胞培養上清治療は副作用が少ない治療といわれています。しかし、まれに頭皮の炎症や赤みが見られることもあります。また、妊娠中や授乳中の方、病気治療中の方については、事前に医師に相談し、治療方針を決めてください。
脂肪採取部分では、内出血や腫れといったダウンタイム症状が起きることがあります。2週間程度で落ち着きますが、術後しばらくは強く引っかくなどの刺激を与えないように過ごすことが必要です。
治療にあたっては自分の体調や状態に合った内容かをよく確認し、医師と相談したうえで治療に臨むことをおすすめします。
まとめ
女性の薄毛は、全体的なボリュームダウンや毛髪が細く弱くなってしまうといった症状が見られます。女性の薄毛の原因は、加齢によるホルモンバランスの変化、ストレス、生活習慣の乱れなどさまざまです。脱毛の症状も、びまん性脱毛症を中心に多岐にわたります。気になる場合は女性の薄毛治療専門クリニックに相談するのもひとつの手です。治療方法としては、薬物治療、レーザー治療、再生医療など複数あります。医師と相談のうえ、自分の状態や体調に合った治療方法を選択しましょう。
参考文献