再生医療は、病気や怪我によって失われた体の機能を回復させるための革新的な医療技術です。
また、リハビリテーションもまた思うように動かせなくなった体を回復させるために重要な分野です。
そして、再生医療とリハビリテーションの組み合わせは、患者さんの生活の質(QOL)を向上させるための新たな希望として注目されています。
この記事では、再生医療とリハビリテーションの関係性・歴史・再生医療とリハビリの種類・受診時のリスクや費用について詳しく掘り下げていきます。
再生医療とリハビリについて
- 再生医療とリハビリの関係性を教えてください。
- 再生医療とリハビリテーションは、患者さんの治療と回復を行う上で、切っても切れない関係にあります。再生医療は、損傷した組織・器官の修復や再生を目指す医療技術です。
ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授らによるiPS細胞も、この再生医療に役立つ研究として期待されています。この再生医療によって再生された組織や器官がもつ機能はすぐに通常の組織や器官と同様に働くわけではありません。
そのため、それらの組織や器官を回復させ、機能を取り戻すためにリハビリテーションが必要となるのです。このように、再生医療によって修復された組織の機能を最大限に活用し、患者さんの生活の質を向上させるために効果的なリハビリテーションが不可欠です。
- 再生医療とリハビリの歴史について教えてください。
- 再生医療の歴史は、20世紀後半に細胞や組織の培養技術が発展したことに始まります。
1990年代に入ると、幹細胞研究が進展し、様々な疾患の治療に応用されるようになりました。一方リハビリテーション医学は、第二次世界大戦後に急速に発展し、慢性疾患や障害を持つ人々の社会復帰を支援する分野として確立されました。
21世紀に入ると、再生医療とリハビリテーションの組み合わせは、特に神経系の障害や筋骨格系の損傷に対する治療法として重要視されるようになってきたのです。
再生医療とリハビリの種類について
- 経頭蓋的磁気刺激療法(γ-TMS)の効果と促進について教えてください。
- 経頭蓋的磁気刺激療法(γ-TMS)は、体を傷つけない刺激を用いて脳の特定の部位を活性化させる治療法です。
より具体的には、磁気パルスを用いて脳の神経細胞をピンポイントで刺激する治療法です。この刺激によって、神経系の機能を改善し、運動機能の回復や認知機能の改善が期待されます。
特に、脳卒中やうつ病の患者さんに有効とされています。
- 電気刺激と反復運動について教えてください。
- 電気刺激は、筋肉や神経に直接電流を流すことで筋肉の収縮を促す治療法です。
この治療法は、筋力の低下や運動機能の障害を持つ患者さんに対して行われます。中枢神経や末梢神経が傷つき、筋肉を思うように動かせなくなった場合などに、電気で刺激を与えることで筋肉の再教育や強化が期待できます。
また、反復運動は特定の動作を繰り返し行うことで、その動作に関連する筋肉や神経の機能を強化するリハビリテーション手法です。これらの方法は、特に脳卒中や脊髄損傷の患者さんのリハビリテーションに有効です。
- ロボティクスについて教えてください。
- ロボティクスを用いたリハビリテーションは、ロボット技術を活用して患者さんの運動機能の回復を支援する方法です。
ロボットアームや歩行支援ロボットなどがあり、これらのロボットによって患者さんの動作を支援し、より効果的で安全なリハビリテーションが可能となりました。
通常の訓練と組み合わせて、ロボティクスを用いた歩行訓練を行うことで、歩行自立度や歩行速度の改善が見られたという研究結果もあります。
リハビリテーションにおいて反復練習を適切な負荷で、適切な介助を受けながら行うことが重要です。ロボット機器はこうしたリハビリテーションにおける重要な要素を担う様になってきています。
- 進化を遂げるロボティクスについて教えてください。
- ロボティクスの分野は急速に進化しており、リハビリテーションにおいてもその進歩は顕著です。
新しいロボット技術には、人工知能(AI)や機械学習を組み込んだものがあり、これにより患者さんのニーズに合わせたリハビリテーションが可能になってきました。
また、仮想現実(VR)と組み合わせることで患者さんがより没入感のあるリハビリテーションを体験できるようになり、モチベーションの向上やリハビリ効果の増大が期待されます。
このようにロボティクスは、新しい技術を取り入れながら、リハビリテーションの効率と効果を高めて患者さんの生活の質の向上に大きく寄与していくことが期待できます。
再生医療とリハビリの受診リスクと費用について
- 再生医療を受診する際のリスクと対策について教えて
- 再生医療による治療を受ける場合のリスクとして、安全性や有効性が証明されていない治療が行われる可能性がある点には注意が必要です。
再生医療の多くは自由診療という枠組みにおいて医師と患者さんの合意によって、提供される治療方法です。
そのため、安全性や有効性の面において、十分な科学的エビデンスが存在しない治療であっても提供することが可能となっています。もちろん「再生医療等安全性確保法(再生医療法)」によって一定の条件は設定されてはいます。
しかし、安全性や有効性が示されていない治療が含まれている可能性は否定できません。安全性や有効性が証明されていない治療を避けるためにも「合法だから安全で有効だ」と安易に信じないようにすることが重要です。
セカンドオピニオンなども活用して、本当に科学的に安全で有効な治療法なのかを確認をするのもよいでしょう。
- 再生医療にはどのくらいの費用がかかりますか?
- 再生医療はほとんどの治療が自由診療となるため、高額な費用がかかる傾向にあります。数少ない保険適用可能な再生医療としては、造血幹細胞移植や脊髄再生治療が挙げられます。
それぞれの費用目安は以下の通りです。- 造血幹細胞移植:15万円(税込)程度
- 脊髄再生治療:300万円〜450万円(税込)程度
ただし、脊髄再生治療についてはこの治療法を受けられる条件が細かく定められています。そのため、脊髄再生治療を希望する場合には条件を満たしているかを確認することが必要です。
これら以外の再生医療は自由診療となるため、費用は医療機関によって異なっており、数十万円(税込)から数千万円(税込)するものもあります。ただし、再生医療も医療費控除の対象となる可能性があります。
医療費控除とは、支払った医療費から保険などの補填分を引いた金額が年間10万円(所得が200万円未満の人は所得の5%)以上の場合は、税務署に申告をすることで税金の還付を受けられる制度です。
美容整形などの治療目的以外では対象とはなりませんが、医療目的であれば再生医療も対象となる可能性があります。再生医療による治療を受けた場合は高額になることが多いため、医療費控除の申請も検討しましょう。
- リハビリの費用と種類について教えてください。
- リハビリの費用は、リハビリを行う施設のレベルと疾患の内容の2つによって異なってきます。施設のレベルは(I)〜(III)の3つに区分されており、(I)に区分される施設が最も充実したリハビリ施設を持っています。
その(I)〜(III)に対応した各疾患の費用目安は以下の通りです。- 心大血管疾患リハビリテーション:(I)2050円(II)1250円
- 脳血管疾患等リハビリテーション:(I)2450円(II)2000円(III)1000円
- 廃用症候群リハビリテーション:(I)1800円(II)1460円(III)770円
- 運動器リハビリテーション:(I)1850円(II)1700円(III)850円
- 呼吸器リハビリテーション:(I)1750円(II)850円
編集部まとめ
本記事では、再生医療とリハビリテーションの関係性やその費用相場などについて解説してきました。
再生医療は新しい技術を用いた医療を受けられるというメリットはあるものの、新しい技術であるがゆえに保険適用が難しく高額になりやすいというデメリットもあります。
また、リハビリテーションの分野は経頭蓋的磁気刺激療法(γ-TMS)・電気刺激・ロボティクスなどの新たな治療方法が取り入れられており、今後も発展が期待できる分野といえます。
再生医療による治療を受けた後は、患者さんの身体機能を取り戻すためにもリハビリテーションが欠かせません。これら2つの分野のさらなる発展が期待されます。
参考文献
- 脳卒中患者のリハビリテーションにおけるロボット活用
- 特集:臨床応用を目指した医療福祉ロボットシステムの開発
- [1-5] リハビリテーション|公益財団法人 東京都医師会
- 脊髄損傷に対する再生医療等製品「ステミラック注」を用いた診療について|札幌医科大学附属病院
- 自由診療で行われる再生医療の審査に関する課題を調査 今後の制度改正に期待 | 国立大学法人 京都大学iPS細胞研究所
- リハビリテーション科専門医インタビュー 再生医療とリハビリテーション医学 | 公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
- 再生医療を目的とした幹細胞研究の歴史(ES細胞, iPS細胞, 組織幹細胞)
- 経頭蓋磁気刺激による治療抵抗性うつ病の治療
- 自由診療で行われる再生医療がもたらす財政的リスク 〜日本における医療費控除に基づく還付金額の試算〜 | 国立大学法人 京都大学iPS細胞研究所