変形性膝関節症の治療にはどのくらいの費用がかかるのでしょうか? この記事では、変形性膝関節症の手術とその費用相場を解説します。また、変形性膝関節症の治療には、従来の治療法に加えて、近年、再生医療という選択肢も出てきました。再生医療で変形性膝関節症の治療を受けた場合の費用も、記事のなかで詳しく紹介します。さらに、少しでも費用負担を軽減するために利用できる制度や仕組みも紹介しています。変形性膝関節症の治療費について心配な方は、ぜひ参考にしてみてください。
変形性膝関節症の治療方法
膝の関節は、通常軟骨で覆われていますが、加齢や肥満、またはO脚などの理由によりその軟骨が摩耗すると、日常的な膝の曲げ伸ばしの際に痛みが出たり、歩行に支障をきたすようになったりします。これが変形性膝関節症です。変形性膝関節症の治療は、従来、運動療法、薬物療法、手術などがありましたが、近年では再生医療という新たな選択肢が注目されています。
運動療法
変形性膝関節症の治療では、まず運動療法を行うのが一般的です。膝の痛みで足を動かさなくなると膝周りの筋力が落ちて関節が不安定になり、さらに膝に負担がかかるという悪循環が起こりがちです。このような場合、運動療法で膝周りの筋力を鍛えることで、膝への負担を軽減することができます。運動療法といっても特別な運動ではなく、仰向けで反対側の膝を曲げたまま片方の脚をまっすぐ上げる運動や、椅子に座ったまま足首を立てた状態で片足を水平に伸ばす運動など、簡単な動作やストレッチがほとんどで、自宅で気軽に始められます。このような簡単な運動であっても、続けることによって痛みの改善が期待できます。また、手術前後のリハビリとしても運動療法採用されることがあります。ただし、変形性膝関節症の症状は人によって異なるため、詳しい運動のやり方や回数は、主治医の指示に従うようにしましょう。膝の痛みがなければ、ウォーキングやプール歩行などの全身運動も予防として推奨されます。
薬物療法
変形性膝関節症の軽度の場合には、薬物療法が採用されることもあります。使用される薬剤には、下記のような種類があります。ただし、薬物療法にはさまざまな副作用のリスクがあるため、長期的な使用や服用は避けるのが一般的です。
・外用薬
非ステロイド系抗炎症剤の成分の含まれる軟膏やクリーム、ゲルなどの塗り薬や湿布など
・内服薬
消炎鎮痛剤のジクロフェナク、ロキソプロフェン、インドメタシンなど
・座薬
インドメタシンやジクロフェナクなど
・注射薬
ヒアルロン酸注射
手術
運動療法や薬物療法では痛みが治らない場合は、手術が選択されることもあります。手術には、関節鏡視下手術、高位脛骨骨切り術、人工関節置換術などがあり、手術の種類によって必要な入院期間は異なります。どの手術を選択するかは、変形性膝関節症の程度や患者さんの年齢などから総合的に判断されます。
再生医療
関節の変形が軽度の場合や、軟骨が十分に残っている場合は、運動療法や薬物療法あるいは骨切り術といった関節温存療法がとられます。一方、関節の変形が重度の場合や軟骨がほとんど残っていない場合は、従来、人工膝関節置換術しか治療法がありませんでした。そこで登場した新たな治療法として近年注目されているのが、膝関節の再生治療です。膝関節の再生治療には、自分の血液から有効成分を抽出して関節内に投与する方法、脂肪などから幹細胞を採取して組織を修復させる方法、関節内の軟骨を採取して培養した後に移植する方法の三つがあります。こうした治療を実施するには、厚生労働省の認可を受けた施設であり、所定の研修を受けた整形外科医による執刀であること、という条件を満たす必要があります。
手術による変形性膝関節症治療の費用相場
では、変形性膝関節症で手術を受ける場合、どのくらいの費用がかかるのでしょうか? 変形性膝関節症の手術は種類によって費用が異なりますが、多くの手術で保険が適用となるため、実質的には3割または1割の自己負担で済むことがほとんどです。なお、手術費用とは別に、食事代や個室などの特別室を希望した際の差額ベッド代など、入院に関わる自己負担が発生します。(ただし、住民税非課税世帯の場合は、申請によって食事代の補助を受けることができます。)
関節鏡視下手術
関節の周囲の皮膚に小さな穴を2〜3ヵ所開け、関節鏡と呼ばれる内視鏡を使って損傷した部位を修復する手術を、関節鏡視下手術といいます。従来の手術法に比べて患者さんへの負担も小さく、ほかの手術と比べて入院期間が短期であるうえに、傷跡も小さいなどの利点があります。ただし、効果が持続しにくい場合もあります。
関節鏡視下手術の費用は約25万円です。健康保険の自己負担割合が3割の場合は約7.5万円、1割の場合は約2.5万円となります。
高位脛骨骨切り術
高位脛骨骨切り術は、すねの骨を一部切って角度を変えることで膝関節内側の軟骨のすり減りや変形を食い止める手術です。手術後一定期間を経過すると、インプラントを抜くこともできるため、人工関節置換術などと違って体内に人工物が残らず、長期的には活動制限もあまりありません。スポーツ選手や運動が趣味の方など、活動性の高い患者さんに向いています。その反面、リハビリに時間がかかる点や、関節鏡視下手術と比べて入院期間が長くなる点がデメリットといえます。また、骨粗しょう症の方や70歳以上の方には適用できない場合があります。
高位脛骨骨切り術の費用は約146万円です。健康保険の自己負担割合が3割の場合は約43.8万円、1割の場合は約14.6万円となります。
人工関節置換術
人工関節置換術とは、傷ついた膝関節を、関節の代替として働くインプラントと呼ばれる人工膝関節部品に置き換える手術です。人工関節を使うことから膝関節の痛みや動きやすさが改善され、歩行時のバランスがよくなるなどのメリットがあります。ただし、ほかの手術と比べて侵襲性が高いことや合併症のリスクがあることなどがデメリットです。また、人工関節には耐用年数があることにも注意が必要です。
人工関節置換術の手術費用は約186万円です。保険適用の自己負担割合が3割の場合は約55万円、1割の場合は約18.6万円となります。
再生医療による変形性膝関節症の費用相場
では、再生医療による変形性膝関節症の治療費用についてはどうでしょうか? 変形性膝関節症の再生治療にはPRP‐FD療法、脂肪由来幹細胞治療、自家軟骨移植術などの種類があります。ここではそれぞれの治療の費用面について解説します。
再生医療の治療法は保険が適用される?
ところで、再生医療の治療には保険が適用されるのでしょうか? 結論からいうと、大部分の再生医療は保険適用外となります。保険適用の診療は、国による長期間の審査を経て認められます。再生医療は新しい治療方法であるため、今のところ自由診療の対象となっていることがほとんどです。ただし、現在、自家軟骨移植術は保険適用が認められています。また、高額療養費制度や限度額適用認定証の利用、医療費控除で税金の還付を受けることなども可能です。これらの制度については後述します。
PRP‐FD療法
変形性膝関節症の再生治療のひとつに、PRP‐FD療法があります。PRP(Platelet-Rich Plasma)とは多血小板血漿のことで、血小板を濃縮したもののことを指します。自身の血液中から活性の高い成長因子を抽出し、その力を利用して組織の修復を図ります。また、FDとはFreeze Dry(フリーズドライ)のことで、PRPを凍結乾燥して加工することを指しています。この方法では自分の血液成分を用いるため免疫反応が起きにくく、体への負担が少ないという利点があります。また、痛みも生じにくいとされ、入院をせずに治療できる点もメリットといえます。ただし、患者さんの年齢などによっては安定した効果が出にくい場合があります。
費用は医療機関によりますが、少なくとも15万円以上はかかるところがほとんどのようです。適合する分量によって金額が変化するため、まずは診断を受けたうえで費用の概算を相談するようにしましょう。
脂肪由来幹細胞治療
脂肪由来幹細胞治療とは、幹細胞を用いて行う再生治療です。幹細胞とは、失われた細胞を再び生み出して補充する能力を持った細胞のことで、人間の体のなかに備わっているものです。この幹細胞の性質を利用して、直接関節内の組織の修復を促すことができます。幹細胞は体内のさまざまな箇所から採取することができますが、脂肪由来幹細胞治療ではお腹や太ももの脂肪から幹細胞を採取して培養した後、膝関節に投与します。自己細胞を用いているため拒絶反応の心配がなく、人工関節に拒否感のある患者さんや従来の治療に効果を感じられない患者さんにとって新たな選択肢となっています。ただし、こちらもPRP‐FD療法と同様に個人差があり、効果が出にくい場合があります。また、幹細胞治療は厚生労働省からの認定が必要であるため、限られた医療機関のみで実施されています。
費用は幹細胞の数によって異なり、幹細胞数が2,500万個で約100万円、1億個で約170万円などとなっているところが多いようです。こちらもまずは診断を受けたうえで、培養する細胞の数や治療内容を見極めることが大切です。
自家軟骨移植術
自家培養軟骨移植とは、自分の軟骨組織の一部を採取し、体外で培養して移植する治療法です。軟骨は一度損傷すると自然修復が難しい組織ですが、軟骨の細胞そのものには増殖する能力があるため、その力を利用して軟骨の修復を図る方法です。この治療法は、特に軟骨の損傷度合いが大きい場合などに有用とされています。また、PRP‐FD療法や脂肪由来幹細胞治療と違い、保険適用の治療であるという点もポイントです。ただし、保険診療として治療を受けるには、軟骨の損傷面積が4センチ平方メートル以上である、などの条件があります。また、基準を満たした医療機関でのみ受けられる治療法であることにも注意が必要です。
自家軟骨移植術の費用は、材料費や入院費用、手術費用、検査費用などを合わせて合計440万円程となりますが、保険適用可能で高額療養費制度も利用できるため、健康保険の自己負担割合が3割の場合は、実質約25万円程度(年収450万円の場合)となります。
変形性膝関節症の治療費用を抑える方法
自家軟骨移植術以外では保険適用ができない再生医療の治療費にも、負担額を抑えるために利用できる制度がいくつかあります。ここでは高額療養費制度、限度額適用認定証、医療費控除の三つをご紹介します。
高額療養費制度を活用する
高額療養費制度とは、医療機関や薬局の窓口で支払った金額が、ひと月で一定額を超えた場合に、その超えた金額を支給する公的な制度です。年齢や所得に応じて限度額が決められており、超過した分は、後日払い戻しを申請できます。申請の手続きは健康保険組合や市区町村の窓口で行います。ただし、この制度の対象は治療費や手術代などで、差額ベッド代や食事代は対象外となります。また、払い戻しには数ヵ月かかるため、一時的には高額な支払いをしなくてはなりません。なお、現在、医療費の増大を背景に、高額療養費制度のひと月における自己負担額の引き上げが検討されています。制度の変更などもありえますので、利用する際は払い戻しが受けられるかどうかを健康保険組合などに相談することをおすすめします。
限度額適用認定証を発行してもらう
高額療養費制度は治療費の軽減につながりますが、払い戻しに時間がかかるため、医療機関では一時的に高額な支払いをすることになります。こうした負担を避けたい場合は、限度額適用認定証を利用するとよいでしょう。あらかじめ高額な診療費用が見込まれるときは、健康保険組合などで事前に限度額適用認定証を取得することで、医療機関での支払いを限度額内に抑えることができます。また、70歳以上の方で高齢受給者証をお持ちの方は、窓口での提示で同様に負担額を軽減することができます。現在ではマイナ保険証を利用して限度額内での支払いにすることもできるので、興味のある方は健康保険組合に問い合わせてみることをおすすめします。ただし、この場合も差額ベッド代や入院時の食事代などは対象外です。また、事前申請の必要があるため、時間に余裕を持って手続きをするようにしましょう。
医療費控除で税金の還付を受ける
高額療養費制度や限度額適用認定証以外で治療費負担を抑制する制度として、医療費控除で税金の還付を受けるという方法があります。医療費控除とは、一年間の医療費が10万円を超えた場合、確定申告によって所得税の一部が戻ってくる制度です。これは変形性膝関節症の治療に限らず、その他の病気や怪我で入院もしくは通院した費用も含みます。また、医療機関への治療費だけでなく、薬局などで購入した市販薬や通院のための公共交通機関の交通費、入院時の食事代なども対象となります。ただし、予防接種代や異常の見つからなかった健康診断代、美容整形の費用、ビタミン剤などのサプリメント代、入院時の自己都合による差額ベッド代などは対象外となりますので、どういった項目が対象となるか確認することをおすすめします。申請は確定申告の際に行うため、通常は2月16日から3月15日までの確定申告の期間に前年の医療費控除の申請を行うことになります。また、医療費控除は5年前までさかのぼって申告することも可能です。確定申告は、直接税務署で行う以外にも、オンラインや郵送で行うこともできます。
まとめ
変形性膝関節症の治療では、従来の治療や手術に加えて、近年では再生治療による方法を選択することもできるようになりました。保険適用にならない治療法でも、高額療養費制度や限度額適用認定証、確定申告の医療費控除などの仕組みを利用して、治療費を軽減することも可能です。まずは医療機関でしっかりと診断を受け、自分の症状に合った治療法を見つけることが大切です。疑問に思ったことや不安に感じることがあれば、医師によく相談して、後悔のない選択をしたいですね。
参考文献