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再生医療で膝軟骨を治療できる?自家培養軟骨移植術の特徴と注意点を解説

再生医療で膝軟骨を治療できる?自家培養軟骨移植術の特徴と注意点を解説

膝軟骨の損傷は自然治癒が難しく、長年効果的な治療法が模索されてきました。現在では、再生医療の進化により、膝軟骨を修復・再生する新しい治療法として自家培養軟骨移植術が注目されています。この治療法は、患者さん自身の軟骨を利用するため拒絶反応が起こりにくく、大きな損傷にも対応可能です。また、保険が適用されるため、経済的負担も軽減されます。本記事では、自家培養軟骨移植術の特徴やメリット、リスクについて詳しく解説します。ぜひ、再生医療について考えるきっかけにしてもらえればと思います。

膝軟骨の再生医療について

膝軟骨の再生医療について 現在、膝関節治療で実際に利用されている方法には主に3種類あります。そのなかでも自家培養軟骨移植術は、特に注目されている治療法のひとつです。以下では、この治療法について詳しく説明します。

自家培養軟骨移植術とは

自家培養軟骨移植術は、患者さん自身の健康な軟骨を採取して体外で培養し、損傷や欠損部分に移植する治療法です。膝軟骨が自然に治癒しにくいという特徴を克服するために開発されました。

膝関節は血流が乏しいため、軟骨が損傷すると自然治癒が難しい環境にあります。そのため、一度欠損した軟骨を自力で再生させることは長い間困難とされてきたのです。

自家培養軟骨移植術は外傷性軟骨欠損症や離断性骨軟骨炎の治療に用いられ、軟骨の再生を目指す新しいアプローチとして注目されています。

自家培養軟骨移植術の治療方法

軟骨細胞の採取は関節鏡手術を用いて行われ、手術時間は約40分です。この手術は大きな切開を必要としないため、体への負担も少ないとされています。

その後、採取した軟骨を培養し、十分に増殖した状態で患部に移植します。移植手術では大きく切開する必要があり、手術時間は約2時間を要します。

術後のリハビリも計画的に進められます。手術から約1週間後には筋力トレーニングを開始します。移植した部位にもよりますが、1ヶ月程度は足に体重をかけないような松葉杖での生活となります。そして体重がかけられるようになる1ヵ月後に退院できるケースが一般的です。スポーツなどへの復帰は半年から1年程度です。

また、6年間の追跡調査においても深刻な問題は確認されておらず、患者さんの痛みの軽減や関節機能の改善が認められています。このことから、再生医療として高い安全性と効果が示されています。

自家培養軟骨移植術の特徴

自家培養軟骨移植術の特徴 自家培養軟骨移植術は、再生医療のなかでも特に注目されている治療法です。この治療法にはいくつかの大きな特徴があります。

拒絶反応がおこりにくい

移植医療では、拒絶反応をいかに抑えられるかが治療成功の鍵となります。

しかし自家培養軟骨移植術では、患者さん自身の軟骨組織を使用するため、免疫系が外部からの異物と認識する可能性が低く、拒絶反応がほとんど起こりません。この点がほかの移植医療に比べて大きな特徴であり、利点でもあります。

大きな膝軟骨損傷に対応できる

自家培養軟骨移植術は、これまで治療が難しいとされていた大きな膝軟骨損傷(合計4㎠以上)のケースでも対応可能です。治療対象となる患者さんが増え、損傷の程度が深刻な場合でも再生を目指すことができます。

保険適用で自己負担が少ない

再生医療と聞くと、高額な自費治療を想像する方もいるのではないでしょうか。しかし、自家培養軟骨移植術は保険が適用される治療法です。

治療費は患者さんの年齢、収入、入院期間などによって変わりますが、自己負担額はおおよそ数十万円程度に抑えられます。これにより経済的な負担が軽減され、多くの患者さんが利用しやすい治療法となっています。

そのほかの特徴

上記で述べた点以外にも、自家培養軟骨移植術にはさまざまな特徴があります。

まず、日本で2番目に認可された再生医療であり、これまでに1,000人以上の患者さんが治療を受けています。しっかりとした実績があるため、受ける心理的なハードルが多少下がるでしょう。

またこの治療法は、認可から現在に至るまで技術が進化しており、2019年1月には従来の骨膜に代わり人工コラーゲン膜を使用することが可能になりました。この変更により、手術の柔軟性が向上し、患者さんの負担軽減にもつながっています。

さらに、外傷などが原因となる二次性変形性膝関節症を治療対象とする治験も実施されており、適応範囲がさらに拡大しています。

このように自家培養軟骨移植術は、進化を続けながら、より多くの患者さんが利用できる治療法として発展を遂げています。

自家培養軟骨移植術の注意点

自家培養軟骨移植術の注意点 ここでは、自家培養軟骨移植術の注意点を紹介します。手術を受けたいと考える場合は、対象となる疾患や条件について理解することが重要です。

保険適用となる疾患

自家培養軟骨移植術は保険が適用されますが、すべての疾患に対応しているわけではありません。保険適用となるのは、以下の2つの疾患のいずれかに該当する必要があります。

・外傷性軟骨欠損症(がいしょうせいなんこつけっそんしょう)
スポーツ中の接触や交通事故など、外部からの強い衝撃によって膝の軟骨が一部欠けたり剝がれたりしてしまう症状です。この疾患が原因で軟骨が損傷し、その合計面積が4㎠以上である場合が対象となります。

・離断性骨軟骨炎(りだんせいこつなんこつえん)
激しいスポーツや労働など、膝に繰り返し負担がかかることで発生する疾患です。この症状では、軟骨が下にある骨とともに剝がれてしまいます。特にスポーツ選手や若年層に多く見られるのが特徴で、こちらも軟骨損傷の面積が4㎠以上である場合に治療対象となります。

保険適用にならない疾患

自家培養軟骨移植術は、高い効果が期待できる再生医療ですが、適用される疾患には明確な条件があります。対象外となる疾患は、先述した外傷性軟骨欠損症や離断性骨軟骨炎以外のものです。

例えば、膝関節の変形が進んだ一次性変形性膝関節症や、加齢による軟骨の自然な摩耗などは適用外です。また、軟骨損傷の面積が4㎠未満の場合も保険の対象とはなりません。

治療を検討する際には、疾患が保険適用の範囲内に含まれるかどうかを医師とよく相談する必要があります。

保険適用されたときの費用

自家培養軟骨移植術は2013年4月から保険適用が認められており、さらに高額療養費制度の対象となっています。この制度の活用により、患者さんが実際に支払う自己負担額は数十万円程度に抑えられます。

具体的には、月額6~25万円程度となり、これは年齢や年収、入院期間などの条件によって変動します。

保険が適用される治療費には、自家培養軟骨の材料費や手術料、麻酔料などが含まれます。一方で、食事代や個室料、追加サービス料などは保険適用外となり、別途支払いが必要です。

具体的な金額については事前に医師や医療機関に確認しておきましょう。また、高額療養費制度の申請方法についても事前に確認し、スムーズな手続きを行う準備をしておくことが大切です。

手術後のリハビリ期間

自家培養軟骨移植術のリハビリ期間は、術後約1年とされています。長期にわたるリハビリが必要な理由は、この治療法が再生医療を用いた新しい手法であり、移植された自家培養軟骨が徐々に硬さを増していく過程を慎重に見守る必要があるためです。

術後のリハビリは、治療にあたって手術と同じくらい重要です。適切なリハビリを行うことで、軟骨の再生と膝の機能改善を促します。逆に、自己判断で回復を早めようとしたり、リハビリを怠ったりすると、せっかくの治療効果が十分にえられない可能性があります。

焦らず、必ず医師の判断のもと、計画的にリハビリを進めましょう。

自家培養軟骨移植術以外の膝の再生医療

自家培養軟骨移植術以外の膝の再生医療 自家培養軟骨移植術以外の膝の再生医療には、幹細胞治療とPRP療法があります。それぞれについて詳しく解説します。

幹細胞治療

幹細胞は、体内のさまざまな細胞から採取可能で、ほかの細胞へと変化する能力を持っています。その性質から、再生医療への応用が進められています。なかでも、膝の再生医療で特に注目されているのは、脂肪細胞に含まれる幹細胞、いわゆる脂肪由来幹細胞を利用した治療法です。

この治療では、お腹や太ももなどから脂肪細胞を採取し、そこから抽出した脂肪由来幹細胞を膝の患部に注射します。対象は主に、変形性膝関節症です。治療方法には、幹細胞を培養して使用するものと、培養せずに使用するものがあり、どちらの方法を採用するかは医療機関によって異なります。

脂肪由来幹細胞を用いた治療の成績からは、膝の痛みの軽減や、それに伴う日常生活動作の改善が期待されています。特に軽度の症状を持つ患者さんにおいて、より効果を発揮しやすいことがわかっています。

PRP療法

PRP療法(多血小板血漿療法)は、患者さん自身の血液から多血小板血漿(PRP)を抽出し、それを膝の患部に注射する治療法です。この方法は、血小板から分泌される成長因子という物質の働きを利用します。成長因子は、組織の修復を促し、自己修復作用や抗炎症作用を高める効果があるため、患部の早期治癒を後押しします。

PRP療法は変形性膝関節症の治療に加え、スポーツ選手のケガの治療にも活用されており、プロ野球選手が治療を受けたことをきっかけに広く知られるようになりました。

治療の流れは以下のとおりです。

①患者さんから約30mLの血液を採取する
②専用キットを使用し、血液を遠心分離機にかける
③血液から血小板が豊富に含まれる多血小板血漿(PRP)を抽出
④抽出したPRPを膝関節内に注射する

PRPから放出される成長因子の働きによって、靭帯や腱の損傷には自己修復作用を高め、回復を早める効果が期待されます。一方、変形性膝関節症に対しては、痛みの緩和や関節機能の改善に寄与するとされています。これらの効果により、患者さんの日常生活や運動機能の向上が期待されます。

再生医療のメリット

再生医療のメリット 再生医療には、体への負担が少なく、日常生活への影響を抑えられるという大きな利点があります。以下では、その具体的なメリットについて説明します。

手術や入院の必要がない

自家培養軟骨移植術以外の膝の再生医療では、皮膚を切る必要がなく、手術を伴わないため体への負担が軽減されます。

治療手順は、採血や注射器による脂肪の吸引を行い、その後膝に注射するというシンプルなものです。採血では通常の採血よりも少し多い量を採取するだけで、脂肪吸引は局所麻酔を用いるため、痛みを心配する必要はほとんどありません

また、これらの治療は入院を必要とせず、日帰りで行うことが可能です。処置後には入浴や飲酒を控える必要はありますが、日常生活への大きな支障はありません。

例えば、エクササイズやランニングといった激しい運動は約1週間控える必要があるものの、そのほかの動作は通常どおり行えます。そのため、治療後はすぐに日常生活へ戻ることが可能です。

合併症のリスクが少ない

再生医療では患者さん自身の血液や脂肪組織を使用するため、薬剤などに比べてアレルギー反応や副作用のリスクがとても低いのが特徴です。治療後に、注射部位が腫れたり痛みが出たりすることがあるものの、これらの症状は通常2~3日程度で収まります。

再生医療を受けるときの注意点

再生医療を受けるときの注意点 再生医療は魅力的な治療法ですが、いくつかの注意点もあります。治療を受ける際には、メリットとあわせて注意点も理解しておくことが重要です。

再生医療が受けられる施設が限られる

再生医療は高度な技術と専門知識を必要とする治療法のため、提供できる医療施設が限られています。そのため、治療を希望する場合は、事前にどの施設で受けられるかを確認し、十分な情報を集める必要があります。

再生医療のリスクを理解する

再生医療は患者さん自身の組織を利用するため、理論上、拒絶反応やアレルギー反応のリスクは低いと考えられています。

しかし、医療行為である以上、リスクがまったくないわけではありません。例えば、脂肪塞栓症(血液中に脂肪が入り込み、血管が詰まる症状)、感染症、さらには神経や血管の損傷といった可能性が挙げられます。

保険適用にならない場合は費用が高額

再生医療は基本的に自由診療であるため、保険が適用されない場合には治療費が高額になります。

自家培養軟骨移植術は保険が適用になりますが、それ以外の治療法では適用されないケースが多く、自己負担額が数十万円から数百万円に上ることもあります。

また、治療の効果には個人差があり、再生医療を受けたからといって必ずしも期待どおりの結果がえられるとは限りません。費用や効果の面での不確実性についても考慮したうえで、慎重に判断する必要があります。

まとめ

膝軟骨の損傷治療において、自家培養軟骨移植術は再生医療の新たな選択肢として注目されています。患者さん自身の軟骨を利用することで拒絶反応が起こりにくく、大きな損傷にも対応可能です。さらに保険が適用されるため、経済的負担を軽減しながら安全性と効果を両立した治療を受けられます。ただし、長期にわたるリハビリが必要な点や、治療の対象となる条件が限られていることも理解しておくべきポイントです。治療を検討する際には、医師の説明をよく聞き、納得したうえで進めましょう。

参考文献

この記事の監修歯科医師
松繁 治医師(新東京病院)

松繁 治医師(新東京病院)

岡山大学医学部卒業 / 現在は新東京病院勤務 / 専門は整形外科、脊椎外科

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