エクソソームは細胞から放出される物質で、抗炎症作用や組織修復作用などがあることから再生医療や美容医療において注目されています。
エクソソーム療法は痛みの改善やエイジングケアに加えさまざまな疾病・症状の予防や改善の可能性があるといわれており、受けてみたい方もいるでしょう。
本記事ではエクソソームの効果やエクソソーム療法の副作用・リスクを解説しますので、エクソソーム療法に興味がある方はぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
エクソソームの効果とは?
再生医療分野で、幹細胞を培養するための溶液の上澄み部分(幹細胞培養上清液)を利用したエクソソーム療法が注目されています。
エクソソームとは細胞から細胞外小胞の一種で、直径50~150nmと細胞膜を透過するほど小さいのが特徴です。以前は、培養した幹細胞を取り出した後の幹細胞培養上清液は廃棄されていました。
しかし残った溶液の中にもサイトカインやエクソソームをはじめ500種類以上もの有効成分が含まれていることがわかり、さまざまな医療分野で治療に利用されています。
以下ではエクソソーム療法にどのような効果があるのかも解説しますので、ぜひチェックしてください。
腰痛の改善
腰痛は男女ともに自覚している方が多い症状で、腰まわりの痛みや張りなどの不快感にお悩みの方もいるのではないでしょうか。
腰痛があると日常生活に影響が出てしまい、長引くことで体力・筋力の低下や精神的負担を引き起こす可能性があります。
腰痛は誰でも経験しうる症状で、骨・軟骨・筋肉・内臓・血管の病気が原因の一つです。
また、感染性脊椎炎・関節リウマチ性脊椎炎・強直性脊椎炎などの炎症が原因となっているケースもあります。
エクソソームには抗炎症作用があるといわれており、炎症が起きている部分の治癒促進と痛みを抑制できる可能性があります。そのため、炎症が原因の腰痛に効果があるといえるでしょう。
疼痛改善
エクソソームの抗炎症作用は、腰痛だけではなく関節・首・肩などの痛みや筋肉痛を改善できる可能性もあります。
炎症を抑制するエクソソームが存在するほか、炎症細胞から分泌される炎症性サイトカインを減少させる働きがあるといわれています。
また、炎症に関与する細胞や分子を抑制する効果も報告されており、抗炎症作用が関節・首・肩などの痛みや筋肉痛を和らげてくれる可能性があるのです。
間葉系幹細胞の培養上清液が変形性関節症の疼痛を軽減させたという報告や、膝・腰・肩の痛みを緩和・消失させたという報告もあります。
関節や筋肉など痛みが気になる部分にエクソソームを投与することで、疼痛が改善できる可能性があるでしょう。
エイジングケア効果
エクソソームにはエイジングケア効果の可能性がある成長因子が多く含まれています。
コラーゲンは加齢にともない減少することがわかっており、肌の老化の一因であることはご存知の方もいるでしょう。
真皮幹細胞から分泌されるエクソソームには肌のコラーゲン産生を促進する作用があるという研究結果があり、エイジングケア効果を得られる可能性があります。
エクソソームが皮膚の真皮層にある線維芽細胞などにアプローチし、コラーゲンやエラスチンの生成を促してハリ・ツヤを生み出すといわれているのです。
またエクソソームには肌のターンオーバーを促進する働きがあるといわれており、肌トラブルが改善できるかもしれません。
エクソソーム療法はシミ・しわ・たるみや肌の老化改善などのエイジングケア効果を得られる可能性があるため、医薬部外品や化粧品においても注目の治療です。
疾病予防
エクソソームには血管再生と新生・活性酸素除去・免疫活性化・組織修復などの作用があるといわれており、さまざまな疾病を予防できる可能性があります。
血管再生と新生は動脈硬化などの疾病の予防・改善、活性酸素除去作用は生活習慣病の予防・改善ができるかもしれません。
またコレステロールで傷ついた血管を修復することで、生活習慣病にともなう心筋梗塞・脳梗塞・脳内出血のリスクを低下できる可能性もあります。
さらに、免疫が活性化することによるがん化の抑制や感染症予防の可能性も示唆されています。
組織修復
傷ついた内臓や筋肉・末梢神経・骨などの組織を修復する作用により、さまざまな疾患に対して有効な可能性があるといわれています。
間葉系幹細胞は組織修復を補助する役割があることが知られていますが、間葉系幹細胞由来のエクソソームも同様に組織修復機能を備えている可能性があるのです。
間葉系幹細胞由来のエクソソームが、肝硬変の治癒を促進させるマクロファージを誘導して治療効果を発揮したという研究結果もあります。
エクソソームには、肝硬変・慢性肝炎などの肝障害や間質性肺炎・皮膚疾患・呼吸器障害・腎臓機能障害に有効な作用があるといわれています。
また糖尿病の合併症・脊髄損傷・骨粗しょう症・歯肉炎など、あらゆる疾患に対して治療効果を持つ可能性があるでしょう。
アレルギー疾患の改善
エクソソームには免疫を調整する作用があるといわれており、アレルギー疾患を改善できる可能性があります。
アレルギー反応は、特定の物質に対し免疫が過剰に反応すると引き起こされる症状です。
アレルギー疾患には気管支喘息・アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎・花粉症などがあり、多くの方が悩まされています。
国民の約2人に1人は何らかのアレルギー疾患があるといわれており、症状を改善したい方も少なくないでしょう。
エクソソームには免疫機能を制御して安定させる働きがあるといわれており、アレルギー疾患を改善できる可能性があるのです。
慢性疲労の改善
エクソソームの持つ活性酸素除去作用には疲労回復効果があるといわれており、慢性疲労による不調を改善したい方にも注目されています。
6ヵ月以上にわたって極度の疲労が続く慢性疲労症候群は、日常生活に支障をきたす病気です。
慢性疲労症候群の原因にはさまざまなものがありますが、ストレスによる免疫機能低下や感染症・ウイルスの活性化による免疫過剰が一因といわれています。
エクソソームの免疫活性化や免疫調整作用で免疫機能が正常になれば、慢性疲労を改善できる可能性があるでしょう。
不眠症の軽減
不眠症はなかなか寝付けない・眠りが浅い・早く目覚めるなどの睡眠障害により、倦怠感や意欲・集中力・食欲の低下などの不調が出る病気です。
原因はストレス・疾患・疲労・生活リズムなどさまざまですが、エクソソーム治療によって原因を取り除くことで不眠症を軽減できる可能性があります。
疲労が原因である場合、エクソソームの疲労回復効果によって不眠症を軽減できるかもしれません。
またエクソソームに含まれるサイトカインには睡眠誘導作用があるといわれており、サイトカインを含むエクソソームを投与すると睡眠が改善できる可能性があります。
エクソソームを使った治療方法
エクソソームを使った治療方法には主に点滴(※1)・点鼻(※2)・局所投与(※3)の3種類があり、疾患や目的に合わせて使い分けます。
点滴は静脈内に投与して全身にエクソソームを行き渡らせ、内臓疾患や全身疾患・疲労回復・エイジングケア・疾病予防など幅広い目的に効果を発揮できる可能性があります。
点鼻は脳内の毛細血管に投与でき、老人性アルツハイマー・記憶力低下・脳梗塞後の症状・認知症予防や初期治療などの脳疾患に用いられる方法です。
局所投与は関節や皮膚などの患部に直接注射して投与して損傷部位を修復し疼痛を軽減するため、特定部位の疼痛緩和やエイジングケアに使用される方法です。
(※1,2,3)未承認医薬品等であるため医薬品副作用被害救済制度の対象とはならない可能性があります。
エクソソーム療法が効果的な難治性疾患とは?
培養増殖した幹細胞により損傷した組織の機能再生を目指す再生医療は、従来の治療法で治療が難しかった難治性疾患への新たな治療法として注目されている治療方法です。
エクソソーム(幹細胞培養上清液)も幹細胞と同様の治療効果を持つ可能性があり、難治性疾患の治療研究が行われています。
エクソソームを診断マーカーとして利用する研究では、国立がん研究センターがエクソソームを用いた大腸がんの早期診断法を開発しました。
がん抗原を持つがん細胞由来のエクソソームをワクチンに応用したり、薬剤をエクソソームに封入して目的の細胞に輸送したりする方法も研究されています。
また、難治性呼吸器疾患である特発性肺線維症に対し線維化の抑制作用があるエクソソームを移植する方法も模索されており、有効な治療法として注目されているのです。
エクソソーム療法の副作用
エクソソーム療法では、ヒト由来の成分を使用するため副作用は起こりにくいといわれています。
ただし、注入箇所の赤み・腫れ・内出血・痛みなどの副作用が出る可能性があるので注意が必要です。
幹細胞培養上清には細胞が含まれないためがん化のリスクはなく、幹細胞治療よりもリスクは低いでしょう。
しかし、悪性腫瘍の治療中や寛解から間もない方・医師が適切でないと判断した場合は施術を受けられないことがあります。
思わぬ副作用を避けるためにも、事前の問診では病歴やアレルギーなどをしっかり申告し医師の判断を仰ぎましょう。
エクソソーム療法のリスク
さまざまな症状の改善や疾患の治療の可能性があるエクソソーム療法ですが、リスクも存在します。
リスクを最小限にするためにも、エクソソーム療法には認可された培養施設で製造された幹細胞培養上清液を使用することが大切です。
以下ではエクソソーム療法のリスクを解説しますので、治療を受ける前に確認しておきましょう。
感染因子の混入による感染
ウイルスや細菌・真菌などの感染因子が混入し感染を引き起こすリスクがあります。
エクソソームは細胞から分泌される物質で、製造工程で感染因子を不活性化したり除去したりすることが困難です。
感染を防ぐためには原材料の段階で感染因子が混入しないようにする必要があり、管理が徹底された施設での培養が重要といえます。
また、衛生的な環境で施術を行うことも大切です。点滴のように針を使用して注入する場合は感染リスクが高まるため、衛生管理が徹底された施設で施術を受けましょう。
治療には検査で何種類もの感染因子に関して陰性が確認された製剤が用いられますが、未知の感染因子に対しては検査できません。
そのため感染の可能性を完全に防ぐことは難しく、エクソソーム療法を受けると日本赤十字社の献血はできないことになります。
アレルギーや拒絶反応
エクソソーム療法は副作用が少ないといわれていますが、まれにアレルギーや拒絶反応が出る可能性があります。
動物由来のエクソソームを用いる場合は異物が入ることによる免疫反応が引き起こされることがあり、発疹やかゆみ・腫れ・呼吸困難などの症状が現れるリスクがあるでしょう。
体質などによってはアナフィラキシーショックなどの重度のアレルギー反応が出る可能性もあります。
またエクソソームの作用はすべてが明らかになっているわけではなく、想定外の副作用が起きる危険も否定できません。
有効性にばらつきがある
同じエクソソームの治療を受けても、人によって有効性にばらつきがあるのがリスクの一つです。
エクソソームは細胞から放出される物質ですが、治療に用いられるエクソソームを製造する際に使用される細胞は状態が変化しやすいといわれています。
そのため細胞から放出されるエクソソームの品質も安定しにくく、有効性にばらつきが出ることがあるのです。
個人の体質や健康状態・施術レベルによって有効性に影響が出るケースもあり、同じ治療を受けても美容効果や治癒の早さ・症状の改善度合いに違いが出ることがあります。
品質にばらつきがある
有効性と同様に、製造されるエクソソームの品質にもばらつきがあるのもリスクでしょう。
細胞から放出されるエクソソームの品質は、製造工程に大きく影響を受けるといわれています。
またエクソソームは複雑な特性があるためすべての品質の把握・解析は難しく、製造したエクソソームの品質が一定であるかの評価は困難です。
エクソソームが持つ効果を十分発揮するためには品質の確保が重要で、原材料の時点での品質管理と製造工程の管理によって品質を確保していく必要があります。
同時投与にともなうエクソソーム以外の成分による有害作用
エクソソーム療法に使用される細胞培養上清にはエクソソーム以外の成分も含まれ、有害作用を引き起こす可能性もあるため注意が必要です。
エクソソームを採取する方法には超遠心法や限外濾過などがありますが、同程度のサイズの物質は取り除けずエクソソームのみを取り出すことは難しいです。
なかには有害作用のある物質が含まれる可能性もあるので、品質管理が徹底されたエクソソームの使用が重要といえます。
エクソソーム療法にかかる費用
エクソソーム療法は、疾患や症状によっては幹細胞治療と同程度の治療効果を持つ可能性があると注目されている治療法です。
費用面では幹細胞治療よりも安くなっていますが、エクソソーム療法は保険適用外のため治療費は全額自己負担となります。
自由診療であることから料金は施設によって異なり、1回あたりの費用は30,000円~90,000円(税込)が相場です。
安全性の高い治療を受けるためにも相場よりも安すぎるところは避け、品質や安全性が確保された施設で施術を受けましょう。
まとめ
本記事では、エクソソームの効果やエクソソーム療法の副作用・リスクを解説しました。
エクソソームには、腰痛や疼痛の改善・エイジングケア・疾病予防・組織修復・アレルギー疾患や慢性疲労の改善・不眠症の軽減などができる可能性があります。
また、さまざまな疾患の治療効果を持つ可能性があるとされ、難治性疾患の新たな治療法としても注目されている物質です。
エクソソーム療法の副作用は少ないとされていますが、まだ研究段階で全貌が明らかになっていないためリスクも存在します。
安全性の高いエクソソーム療法を受けるためにも、医師の診察を受け安全性の管理が徹底された施設で施術を受けるとよいでしょう。
参考文献
- エクソソームは細胞からのメッセージ!?|地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター
- わかりやすい病気のはなしシリーズ45 腰痛
- 第2章 腰痛対策
- 「腰痛」 | 公益社団法人 日本整形外科学会
- 筋骨格系疼痛に対する間葉系幹細胞培養上清液の治療効果
- 脂質二重膜を持つエクソソームによる疾患の診断と治療
- 新規治療薬開発への間葉系幹細胞由来エクソソームの応用可能性
- 肝硬変に対するエクソソームを用いた新たな治療法の可能性-肝硬変への新たな再生医療を目指して- | 新潟大學
- 歯肉幹細胞由来エクソソームによる炎症制御
- アレルギー疾患 | 福岡県庁
- 筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)について | 兵庫県庁
- 慢性疲労症候群
- 不眠症 | 厚生労働省
- 睡眠と免疫の不思議な関係
- エクソソームの体内動態
- エクソソームの採取・精製
- 真皮幹細胞が分泌するエクソソームの変化が 肌のコラーゲン産生に関わることを発見 | 藤田医科大学
- 加齢にともなうⅢ型コラーゲン/Ⅰ型コラーゲンの比率の減少メカニズム~Ⅲ型コラーゲンプロペプチド切断酵素meprinの加齢変化~
- アレルギーについて|国立研究開発法人 国立成育医療研究センター