がんの再発の原因とされているがん幹細胞とはなにか知っていますか? 本記事では免疫療法について以下の点を中心にご紹介します。
- 幹細胞とは
- 効果が期待できるとされている免疫療法
- 注意深く検討することが求められる免疫療法
免疫療法について理解するためにもご参考いただけますと幸いです。 ぜひ最後までお読みください。
そもそも幹細胞とは?
幹細胞は私たちの身体に不可欠な細胞で、さまざまな細胞への分化能力と自己複製能力を持ちます。幹細胞は主に2種類に分けられます。組織幹細胞は、特定の組織や臓器の細胞を再生し、例えば造血幹細胞は血液系の細胞を、神経幹細胞は神経系の細胞を生成します。一方で、多能性幹細胞(例:ES細胞、iPS細胞)は身体のどのような細胞にも変化できる能力を持っています。幹細胞の特性を利用した再生医療は、怪我や病気の治療法として研究が進んでいます。
がん幹細胞について
がん幹細胞は、がんの治療が困難な要因となっている細胞です。多くのがんは化学療法や放射線療法で治療できますが、がん幹細胞は抗がん剤や放射線に対して耐性を持ち、治療中に生き残り、再発や転移の原因になると考えられています。この問題の根源として「がん幹細胞仮説」が提唱されています。この仮説は、腫瘍内に存在する特定の幹細胞が、自己複製する能力と、少数であっても腫瘍を再形成する能力を持つというものです。
がん幹細胞は通常のがん細胞との区別が難しく、特に固形がんの場合、その分離や濃縮方法の確立が不十分であり、研究は複雑です。マイクロRNAなどによるエピジェネティックな制御メカニズムの研究で、がん幹細胞への治療法を開発し、がん治療の成果を向上させることが目標です。
見がん幹細胞の維持の仕組みが解明
九州大学生体防御医学研究所の中山敬一教授の研究チームは、がん幹細胞の維持メカニズムを明らかにし、がん治療における重要な進歩を遂げました。中山教授は、細胞周期を調節するたんぱく質Fbxw7の役割に着目し、このたんぱく質を抑制することでがん幹細胞を攻撃し、生存率を大幅に改善させることに成功しました。がん幹細胞は、従来の抗がん剤や放射線療法に抵抗性を持ち、がんの再発や転移の原因となっていました。この研究成果は、がん幹細胞の治療が困難であった理由の一端を解明し、がん根治治療への道を開くことが期待されます。
Fbxw7は、がん幹細胞が静止期にとどまるための重要な分子であり、その欠損はがん幹細胞の増殖を促進し、治療抵抗性を破壊することが発見されました。この治療法は「静止期追い出し療法」と名付けられ、がん幹細胞を根絶させることにより、治療後の再発率を減少させる可能性を秘めています。
今後の研究が進むにつれ、Fbxw7の働きを抑える阻害剤の開発が実現すれば、がん幹細胞を死滅させることによる白血病の根治が期待されます。さらに、Fbxw7がほかのがんにおいても同様の役割を果たす可能性があるため、幅広いがん種に対する根治療法の開発に貢献することが予測されます。
がん幹細胞の死滅が期待できる中分子化合物が発見された
京都大学大学院薬学研究科の掛谷秀昭教授とその研究チームは、大腸がん幹細胞に対し、新たな中分子化合物「レノレマイシン」を発見しました。本研究で独自に構築された治療薬探索系を使用して発見したがん幹細胞に対するレノレマイシンは、がん幹細胞を標的とする新たな抗がん剤開発の道を切り開くものです。
レノレマイシンは微生物代謝産物から同定され、活性酸素種を発生させることでがん幹細胞を死滅させます。これは、従来のサリノマイシンよりも優れた性能を示すものです。この研究成果はがん治療における大きな進歩であり、がん幹細胞を狙い撃ちする新しい治療法の可能性を示唆しています。
がんの治療法の一つである細胞を利用する免疫療法とは
がん治療の新たな可能性として注目されている「免疫療法」は、人間の自然な防御機能である免疫システムを活用する方法です。免疫システムは、細菌やウイルスなどの外来物を識別し排除することで私たちの体を守ります。
免疫療法は、特にT細胞(Tリンパ球)と呼ばれる免疫細胞が重要な役割を果たします。この細胞は、がん細胞を認識し攻撃する能力を持っています。治療法は、患者さんの免疫細胞を強化または修正することを目的としています。この治療法は、がんの種類や患者さんの状態に応じて異なる手法が採用されますが、期待できる効果については医学界で活発な議論が行われています。具体的な情報については、がん情報サービスなどのサイトを参照することをおすすめします。
効果が期待できるとされている免疫療法
免疫療法は、人体の防御メカニズムである免疫システムを強化または調整し、がん細胞に対抗するための治療法です。以下で期待できる免疫療法を見ていきましょう。
免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイント阻害薬は、がん治療の進歩を代表する薬剤です。これは、T細胞の表面にある特定の受容体とがん細胞が持つ相互作用を阻害することで、本来の免疫反応を強化します。がん細胞はT細胞の受容体に結合し、「攻撃しない」という信号を送ることがありますが、免疫チェックポイント阻害薬は信号をブロックし、T細胞ががん細胞を攻撃する能力を回復させます。
2020年8月には、日本ではいくつかの免疫チェックポイント阻害薬が保険診療で使用されており、効果が期待されているがん種にはメラノーマ、非小細胞肺がん、腎細胞がんなどがあります。使用される主な薬剤には、PD-1阻害薬のニボルマブ(オプジーボ)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)、CTLA-4阻害薬のイピリムマブ(ヤーボイ)、PD-L1阻害薬のデュルバルマブ(イミフィンジ)、アテゾリズマブ(テセントリク)、アベルマブ(バベンチオ)があります。また、治療法には単独使用やほかの薬剤との組み合わせがあり、患者さんごとに適した治療法は異なります。免疫チェックポイント阻害薬は、がん治療において大きな可能性を秘めており、今後もさらなる研究と臨床試験が注目されています。
その他の免疫療法
免疫療法の中でも、エフェクターT細胞療法とCAR-T細胞療法が注目されています。この療法は、患者さん自身のT細胞を利用し、免疫システムに「アクセル」をかけることでがん細胞に対する攻撃力を強化します。エフェクターT細胞療法では、T細胞にがん細胞を特定するための遺伝子を組み込み、これを増殖させて体内に戻します。特に、CAR-T細胞療法はこの方法の一つで、T細胞をキメラ抗原受容体遺伝子(CAR)で改変し、一部の血液悪性腫瘍のがん細胞を攻撃します。
現在、日本ではCAR-T細胞療法が保険診療で利用可能ですが、施設は限られており、重篤な副作用のリスクがともないます。サイトカイン放出症候群や意識障害などが含まれ、入院治療が必要となります。
注意深く検討することが求められる免疫療法
免疫療法は、がん治療に効果が期待される一方で、慎重な検討が求められています。以下で詳しく解説します。
自由診療の免疫療法
免疫療法の中には、保険適用外で自由診療として提供される治療法が存在します。自由診療の免疫療法は、効果や安全性が確立されていないため、保険診療では受けられず、全額自己負担となります。例として、がんペプチドワクチンや樹状細胞ワクチンを用いたがんワクチン療法が挙げられます。
研究段階の免疫療法
免疫療法は、がん治療において大きな可能性を秘めている一方で、まだ研究段階にあります。このため、治療効果や安全性を評価する臨床試験や治験が実施されています。
保険適用される治療法は、医薬品として使用が認められています。一方、保険適用外の治療を受ける場合は、治験や倫理審査委員会の承認を得て使用することが望ましいとされています。
研究段階の医療を受ける際には、審査体制が整っていて緊急時の対応が可能な医療機関を選ぶことが重要です。がん診療連携拠点病院では、患者さんの疑問や懸念に対して対応してくれます。
免疫療法の副作用
免疫療法は、化学療法より吐き気や抜け毛などの副作用が少ないとされますが、それでもさまざまな副作用が生じるリスクがあります。また、免疫チェックポイント阻害薬による副作用には、発熱、だるさ、皮膚のかゆみ、消化器症状などが含まれます。重要なのは、この副作用が予測不可能であり、治療直後だけでなく、数週間から数ヵ月後にも発現することがある点です。副作用が発生した場合、ステロイド剤や免疫抑制剤を用いた治療が必要になることがあります。
このため、免疫療法を受ける際には、医師とのコミュニケーションが重要です。副作用のリスクや、対策について、事前に詳しく聞いておくことが大切です。また、治療中や治療後に体調に変化を感じた場合は、すぐに医師や看護師に相談することが必要です。
まとめ
ここまで免疫療法についてお伝えしてきました。免疫療法の要点をまとめると以下のとおりです。
- 幹細胞は、「組織幹細胞」と「多能性幹細胞」に分けられ、さまざまな細胞への分化能力と自己複製能力を持っている
- 効果が期待されている免疫療法には、「免疫チェックポイント阻害薬」や「エフェクターT細胞療法」「CAR-T細胞療法」がある
- 免疫療法は効果や安全性が確立されていないため、一部は保険適用になっておらず、自由診療になる。また、研究段階のため、治験や倫理審査委員会の承認を得て使用することが望ましい
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。