膝の炎症や痛みを抑える治療として、幹細胞治療という再生医療があります。再生医療とは、細胞や人工的な材料を利用して、機能障害や機能不全に陥った生体組織や臓器の機能の再生を図るものです。
しかし、保険適用の可否や、費用はどれくらい必要なのか気になる方も多いのではないでしょうか。
本記事では膝の幹細胞治療の保険適用について、以下の点を中心にご紹介します。
- 膝の幹細胞治療のメリット・デメリット
- 膝の幹細胞治療は保険適用されるのか
- 膝の幹細胞治療の費用を抑える方法
膝の幹細胞治療の保険適用について理解するためにも、ご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。
膝の再生医療の種類
膝関節の痛みや機能改善を目指す再生医療には、幹細胞治療やPRP(Platelet-Rich Plasma)療法など、さまざまな方法があります。それぞれの特徴や適応について詳しく解説します。
幹細胞治療
幹細胞治療は、患者さん自身の脂肪から採取した幹細胞を培養し、膝関節内に注入する再生医療の一つです。
幹細胞はさまざまな細胞に変化する分化能力を持ち、軟骨の再生を助けるほか、炎症を抑える働きも期待されています。変形性膝関節症の初期から中期の方で、手術を避けたい方におすすめの治療法です。
幹細胞には、骨髄由来のものや滑膜由来のものなどいくつかの種類が存在しますが、主に使用されるのは脂肪由来の幹細胞です。
治療は患者さん自身のお腹や太ももから少量の脂肪を採取することから始まり、加工機関で脂肪から幹細胞を抽出・培養します。
培養した幹細胞を約6週間後に膝関節に注入することで、炎症や痛みの軽減、軟骨再生が目指せます。
また、脂肪由来幹細胞を用いた治療には、幹細胞を培養するものと、培養しないものがあります。
培養・非培養ともに膝の痛みや症状の改善が見込めますが、総合的に見ると、培養したものの方が必要な脂肪採取量も抑えられるうえ、効果もやや良好という研究もあります。
PRP(Platelet-Rich Plasma)療法
PRP療法は、美容外科やスポーツ医学で行われている再生医療の一つです。患者さんの血液を加工し、組織の再生に関連する成分を抽出して疾患のある部位に投与することで、患者さん自身の体が持つ修復力を サポートし、改善に導きます。
幹細胞治療は自身の細胞を用いるのに対し、PRP療法は患者さんの血液を遠心分離して得られる多血小板血漿(PRP)を患部に注入します。血小板に含まれる成長因子が、損傷した組織の修復や疼痛の改善をサポートします。患者さん自身の血液を用いるため、重篤な副作用なく利用できるとされています。
PRP療法の適応や選択などは、病状を判断したうえで決定されます。
近年、成長因子を高濃度化した次世代型PRP療法(APS療法:Autologous Protein Solution)も登場しており、従来のPRPよりも効果や持続性が期待されています。
APS(Autologous Protein Solution)療法
APS療法は、変形性ひざ関節症に対する新しい再生医療です。PRP療法をさらに進化させた再生医療で、抗炎症性物質を高濃度に含むことが特徴です。次世代PRPとも呼ばれています。
患者さんの症状にもよりますが、PRP治療約3回分と同様の効果が、APS治療では1回の治療で期待できます。
膝の炎症を放置すると、軟骨の劣化や破壊が進行する可能性があります。APS療法は関節内の炎症を抑える効果が期待でき、変形性膝関節症のほか、半月板や軟骨損傷にも適用されます。
また、APSには成長因子が濃縮されて含まれているため、軟骨保護の点でも有効と考えられています。
APS療法は、採血と注射のみで処置するため、患者さんへの負担が少なく、自然治癒力を活かした治療法です。
「ヒアルロン酸注射では効果が薄い」「手術を避けたい」という方や、ほかの治療では適応外となってしまう感染症をお持ちの方におすすめです。
膝の幹細胞治療のメリット・デメリット
膝の幹細胞治療にはどのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか。以下で詳しく解説します。
メリット
膝の幹細胞治療にはさまざまなメリットがあります。
第一に、抗炎症作用や疼痛抑制効果が期待できる点が挙げられます。
例えば、ヒアルロン酸注射では痛みが取れないものの、骨の変形までは病気が進行していない患者さんの場合、痛みを緩和し、関節機能を改善できる可能性があります。
治療後1年以上にわたり、日常生活動作や痛みの改善が維持されるなど、長期的な効果が期待できる点もメリットです。
また、幹細胞治療は患者さん自身の脂肪を用い、それも少量であるため、拒絶反応やアレルギーのリスクが低いとされています。
幹細胞治療は患部に直接投与するので、15分程で傷の修復が始まります。修復には3ヶ月程かかりますが、痛みは約2~3日で治まるとされています。
さらに、一度採取した幹細胞を保存すれば必要に応じて繰り返し治療でき、PRP治療よりも軟骨の修復力が高いとされています。
損傷の度合いにもよりますが、症状の進行を遅らせ、長期的な効果の持続が期待できます。
デメリット
一方で、幹細胞治療にはいくつかのデメリットも存在します。
まず、治療効果が得られるまでに時間がかかる点が挙げられます。脂肪を採取して幹細胞を培養するプロセスに約6週間、さらに治療後の効果が安定するまでに半年程度が必要です。
また、変形が強い膝の場合十分な効果が得られない可能性があり、感染症やリウマチの患者さんは治療が受けられません。
さらに、公的医療保険の適用外であり、高額な費用が必要となる点は患者さんにとって負担となる可能性があります。
その他、治療部位や脂肪採取部に一時的な痛みや腫れ、皮下出血の可能性があること、また、脂肪採取部が数ヶ月程度硬くなることもデメリットです。
投与部位と脂肪採取部に感染症が起こる可能性もあります。
一部の培養方法ではウシ血清が使用される場合があり、これによる異物反応のリスクも否めません。
治療を受ける際は、これらの点を考慮し、医師と十分に相談することが重要です。
幹細胞治療はまだ症例数が少ないため、世界中でさまざまな研究や調査が継続されています。
膝の幹細胞治療がおすすめな人
膝の幹細胞治療はヒアルロン酸注射で痛みを軽減できない方や、膝の痛みが重度な方におすすめの治療法ですが、その他どのような方に推奨されるのでしょうか。
人工関節を避けたい人
膝の幹細胞治療は、変形性膝関節症と診断されたものの、人工関節は避けたいという方におすすめです。
変形性膝関節症は、正座や和式トイレなど、膝を大きく曲げ伸ばし、膝関節に負担がかかりやすい生活様式の方に多い疾患とされています。
歩行が困難になると、運動不足になって体力が落ち、寝たきりになる場合もあります。そして、一度擦り減ってなくなった軟骨は、自然にもとに戻ることはありません。
人工関節手術は変形性膝関節症の進行による痛みや日常生活の困難を改善するのに有効とされる手段ですが、手術にはリスクや制約が伴います。
血栓症や感染症などの合併症、術後のリハビリの負担、さらには膝の可動域の制限に不安を感じる方も少なくないようです。
一方、幹細胞治療は注射のみで施術を行うため、手術が不要です。採取する脂肪も米粒2~3粒程度と少量であり、下腹部周辺から局所麻酔をかけて採取されるため、患者さんの体への負担はかかりにくいです。
また、初期段階で治療を受けることで症状の進行を抑え、将来的に人工関節が必要となる重症化を予防できる可能性もあります。
このため、幹細胞治療は手術に抵抗を感じる方や別の選択肢を求める方におすすめの治療法といえます。
入院することが難しい人
整形外科手術は通常、数週間の入院と術後のリハビリが必要となるため、仕事や家庭の事情で長期間の休みが取れない方には難しい選択肢となる可能性があります。
その点、幹細胞治療は注射器を用いた施術のみで、切開が不要なため体への負担が抑えられ、日帰りで治療を終えられます。術後の痛みや腫れが一時的にあるものの、治療後すぐに日常生活に戻れる利点があります。
忙しいライフスタイルを持つ方や長期間の治療を避けたい方にとって、入院を伴わない幹細胞治療は理想的な選択肢といえるでしょう。
膝の幹細胞治療は保険適用される?
再生医療が保険適用されるには、十分な臨床データと厚生労働大臣の承認が必要です。変形性膝関節症などに対する脂肪由来の幹細胞移植は、効果が確認されつつあるものの、保険診療として認められるにはいたっていません。PRP療法、APS療法も同様です。
一方で、保険適用される再生医療は、膝関節の外傷性軟骨欠損症か、離断性骨軟骨炎における自家培養軟骨移植術です。患者さん自身の軟骨組織の一部を取り出して培養し、軟骨が欠損している部分に移植する治療法です。
幹細胞治療が高額となる理由は、開発コストの高さや、法律による厳しい規制をクリアする必要がある点、個別対応のためスケールメリットが活かしにくい点などが挙げられます。
幹細胞治療の費用は100万円前後とされていますが、医療機関によってさまざまです。具体的に治療を検討している場合は、取り扱いのある医療機関に問い合わせてみてください。
再生医療の今後の保険適用については、引き続き中央社会保険医療協議会総会で検討されることになっています。この検討が進むことで、今後保険適用の承認を受けられる再生医療が増えていくことが期待されています。
膝の幹細胞治療の費用相場と費用を抑える方法
膝の幹細胞治療は保険が適用できず費用が高額な傾向にある一方、医療費控除を活用することで負担を軽減できる可能性があります。
ここでは、膝の幹細胞治療の費用相場や、費用を抑える方法を詳しく解説します。
膝の幹細胞治療の費用相場
膝の幹細胞治療は自由診療のため、費用はクリニックごとに異なりますが、相場は1回あたり100万~150万円前後とされています。 片膝の治療であれば100万円程度、両膝では200万円を超える場合もあります。
さらに、治療回数や患者さんの状態によって総額が変動する可能性があります。
膝の幹細胞治療の費用が高額な理由として、治療の開発や厳格な法規制をクリアするのにコストがかかる点や、細胞培養に設備投資が必要な点が挙げられます。
一部のクリニックでは、院内で細胞培養・管理を行うことで費用を抑えている所もあるようですので、事前によく調べ、初回のカウンセリングで詳細を確認することが重要です。
また、アフターフォローの有無や費用の内訳を確認することも、適正価格かどうか判断する材料になります。
医療費控除を利用する
幹細胞治療の費用は医療費控除の対象になる場合があります。
医療費控除とは、1年間(その年の1月1日~12月31日までの間)に10万円以上の医療費を支払った場合に、確定申告を通じて所得税の一部が還付される仕組みです。
幹細胞治療は自由診療ですが、治療目的である場合、治療費や通院の交通費などが控除の対象となります。
控除の計算方法は以下のとおりです。
控除額=1年間に支払った医療費-保険金等で補填された金額 -10万円(その年の総所得金額等が200万円未満の方は、総所得金額等の5%)
戻ってくる額は200万円(上限額)です。
医療費控除を受けるには、支払い領収書や交通費の記録を保管し、確定申告の際に必要書類を提出する必要があります。
オンライン申請や税務署での申告を利用し、正確な記録を準備することが大切です。
医療費控除を活用することで、膝の幹細胞治療の費用負担を軽減できる可能性がありますので、申請を検討してみましょう。
まとめ
ここまで膝の幹細胞治療の保険適用についてお伝えしてきました。
膝の幹細胞治療の保険適用について、要点をまとめると以下のとおりです。
- 膝の幹細胞治療のメリットは、拒絶反応やアレルギーのリスクが低いとされ、抗炎症作用や疼痛抑制効果や長期的な効果が期待できる点、一度採取した幹細胞を保存すれば必要に応じて繰り返し治療でき、PRP治療よりも軟骨の修復力が高いとされている点が挙げられる
- 膝の幹細胞治療のデメリットは、治療後の効果が安定するまでに半年程度必要な点や、公的医療保険の適用外である点などが挙げられる。治療部位や脂肪採取部に一時的な痛みや腫れ、皮下出血の可能性があること、感染症や異物反応のリスクも否めない
- 変形性膝関節症などに対する脂肪由来の幹細胞移植は、効果が確認されつつあるものの、保険診療として認められるにはいたっていない
- 膝の幹細胞治療の費用を抑えるには、医療費控除の活用や、院内で細胞培養・管理を行うことでコストを抑えているクリニックを探すなどの方法が考えられる
幹細胞治療は、自己組織を活用した再生医療で、自己修復能力を引き出すものです。まだ新しい分野の治療ではありますが、人工物に頼らず、自身の膝で生活したいという方は、ぜひ治療を検討してみてください。
これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。